「国産ネオンサイン」の価値再考と復活

トップの画像は、インテリア照明ブランド「NO VACANCY」が、処分されるスケートデッキを土台にしてつくった作品『deck neon tokyo』。

よく行く街。よく行く店。どんなに慣れ親しんだ場所でも、目を凝らして見ると、何かが少し新しくなっていることに気づく。

素材提供:NO VACANCY

ブランドを立ち上げたグラフィックデザイナーの森山 桂(もりやま けい)さんは、今から5年ほど前に、どうやったらネオンサインを自分の手でつくれるのか?という好奇心に駆られ、東京都大田区にあるネオン工場に遊びに行った。

ところが、訪問してみるとそこにいた職人さんはひとり。70年代からバブルにかけての全盛時代から比べると、業界の規模が縮小の一途を辿っていた。国産ネオンサインのつくり手は、今では稀有な存在になっているようだった。

3月6日(火)まで開催されている、伊勢丹新宿店メンズ館8階=イセタンメンズレジデンスの展示で、森山さんにお話を聞いた。

森山「もともとはグラフィックデザイナーでした。ネオンもグラフィックですよね。つくりかたを知りたくなって、どこでつくられているのかを調べはじめました。なかなか情報は見つかりませんでした。職人の名前が照明に書かれているわけではないので、業界の人づてに聞くしか方法がありませんでした。

なんとかネオンを製作している株式会社シマダネオンにたどり着いて、働かせてほしいとお願いしたのですが、ひとりで切り盛りしていて、自分が担当できるほど余分に仕事があるわけではありませんでした。ただ、どうしてもつくりかたを学びたかったので、まずは営業として働かせてもらい、休日をつかってネオンのつくりかたを教えていただくことになりました」

素材提供:NO VACANCY

森山さんが調べ始めた頃は、ネットで検索しても、つくり手までたどり着けなかった。だから、まずはWEBサイトやInstagramアカウントをつくり、情報にアクセスできるよう“入り口”をつくった。

ネオン制作には大きく分けて2種類の仕事が存在するという。ビルの屋上や壁にあるような大規模なものと、屋内にも設置できるような小さなものだ。

大規模な製作依頼は今ではめっきり減ってしまった。だったら、小規模なネオンサインの仕事を増やそうということで、若者をターゲットにスケートボードと組み合わせた作品や、Tシャツをつくり、試行錯誤しながら営業していった。

地道な活動のかいもあって、ハイブランドからの制作依頼や、ショップやオフィスのインテリア、有名アーティストの舞台照明など、活躍する場は増えた。オーダーメイドで自分好みにデザインできる。贈りものとして依頼をする人も増えた。知人のお店にプレゼントするために友人同士でカンパする人もいる。最近は、美大生が卒業制作の作品をつくるために毎年やってくるようにもなった。

そのきっかけをつくったのが森山さんだ。今はかなりバタバタしていて、順調に依頼が増えているとのこと。

素材提供:NO VACANCY

ネオンサインはよくLEDと比較される。LEDは発光ダイオードだから、光が直線的に届く。対してネオン管は、光の届きかたがぼんやりと丸みを帯びていて、拡がるような印象を感じられる。無理に曲げられない分、味のある歪みもある。

「NO VACANCY」の作品は、どれも株式会社シマダネオンの職人によるお手製のもの。ちなみに、ブランド名は海外のモーテルやレストランなど、どこに行っても目に入ってくるグラフィックということで決まった。

Instagramを見たらまさにその通りで、見覚えのある場所が多かった。え、ここもそうなの?って驚く可能性、大です。

取材協力:NO VACANCY, 伊勢丹新宿店
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。