“この画像は永遠に開きません” 記憶と時間が織りなす、儚くも美しい瞬間

いつまで待っていても、この画像はボヤけたまま。なぜならこれは、SNSの画像がダウンロードされる瞬間を描いた絵画だからです。

描いたのは美術家・市川孝典。線香で紙を焦がしながら描く「線香画」で注目を浴びる市川さんが、スタイルを一転させて発表した今作。何ともいえない不思議な感覚に陥るこの絵の奥に込められたのは、きっと、誰もが知っている感情。

日常は、儚くて、愛おしくて、ちょっと悲しい。

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——現在ふたつのギャラリーで同時開催中の展覧会「sprinkling A-side」と「slip out」ですが、今まで“ふと思い出す何気ない自分自身の日常の記憶”を描いてきた市川さんにとって、モチーフそのものに大きな変化があるように見えますが。

市川 僕は常に「感情を揺さぶられるもの」を描いています。ふと思い出したものでも、目にしたものでも、その時に揺さぶられた感情を残したくて。

なので、例えば映画のある場面に感情を揺さぶられたとしたら、その理由はきっと背景にある自分自身の経験で、描くのはその場面を通して見える自分の記憶なんです。

——なるほど、つまり描いている核の感情の部分は変わっていないと。ではSNSをモチーフにしようと思った理由は何なのでしょうか?

市川 僕自身はあまり触れてきませんでしたが、友人たちが使っているのを「何やってるの?」という感じで横で見ていて。あれ、月末になるとデータの使い過ぎで画像が出てくるのが遅くなるじゃないですか(笑)。

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——速度制限ですね。

市川 そうそう。でも、「何だよー」とか言いながらその画像が出るのを待つ瞬間に、何が出てくるのかなと想像をしているんです。自分の経験した記憶から作り上げたイメージをそこに投影して。想像している時は、その画像をアップした赤の他人と繋がった気分になります。もう抱き合ってるくらいに近く感じる。

——抱き合う!

市川 そう。だけど、ローディングが終わってクリアな画像が現れると、それは想像とは全然違っていて、近づいた距離は一気に引き離されて無関係な人に戻るんです。悲しい気分にさえなる。

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——だから作品にローディングを表す白い円を描くことが重要だったんですね。

市川 はい。何かが滑り落ちていくその瞬間の儚さ、その時に揺さぶられた感情の記憶です。

——ちなみにSNSに対してはどうお考えですか?

市川 好きでも嫌いでもないですね。アップされている画像が嘘でも本当でもいい。ただ、ボヤけた画像に対して想像力を働かせる瞬間は、インターネット上で唯一、人と深く繋がれる瞬間だと思いました。

あ、インスタグラム始めました。フォローしてください(笑)。

化粧はスイッチ。気分を上げる為の市川流秘訣。

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——制作や日頃の生活において、ご自身のルールなどはありますか?

市川 朝起きるところから一連のルーティンの中で動いています。単純に夜に制作をしたくないので、18時以降は絶対描かないというルールも決めています。ルーティンに依存して、余計な事を考えずに制作に打ち込みたいんです。

でも自分の気分を上げることは、とても大事にしています。絵を描く時は、誰も見ていないし汚れるかもしれないけど、気分が上がるお気に入りの服を着ます。最近は友人でもある宮下貴裕さんの服『TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.』しか着ない。

——メディアに出られるときはサングラスをされることが多いですが、いつもアイラインを引いてらっしゃいますよね。

市川 そう、実は小学生の頃から、自分で目の周りと爪を塗ってたんです。そうすれば何かに変身できる気がして。今でもそうやってスイッチを入れています。最近忙しくてネイルもボロボロだけど、ネイルサロンにも行きますし(笑)。

——わかります。女性がお化粧で気合を入れるのと同じですね。ちなみに、どちらのブランドを?

市川 アイライナーは『ボビィブラウン』、ネイルは『シャネル』です。

——最高にわかってらっしゃるチョイスですね(笑)。いつもいい匂いもしますが…。

市川 『アクアディパルマ』です。16歳の時からずっとこれ。つけると気分が上がります。ちなみに香りというなら、『サンタマリアノヴェッラ』というブランドの紙のお香やローズウォーターもオススメです。ローズウォーターはお風呂に数滴入れるとリラックスできます(笑)。

——なんという女子力の高さ。全てはモチベーションを上げる為に欠かせないアイテムなんですね。勉強になります。

いつも「女性」という存在に憧れる。

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Kosuke Ichikawa, untitled(girl), 2017 Ink, acrylic, watercolor and pastel on paper mounted on wood frame 850mm×685mm ©2017 Kosuke Ichikawa All Rights Reserved.

——映画、音楽、建築と、色々なジャンルで表現を模索されてきた市川さんですが、具体的に影響を受けた人などはいるのでしょうか?

市川 好きな人は、名前をあげたらキリがない程います。でも、影響を受けたという意味では、大きく言うと「女性」ですね。

ビジュアル、強さ、自由さ、ファッション、すべてに対して、真似したいと思う憧れの対象は女性なんです。もちろん女装したいとかではないですよ(笑)。逆に、男性に憧れることは一切ないですね。

——市川さんの女子力の高さはそこから来ているのでしょうか?

市川 どうでしょう。女性のすぐ新しいものに飛びつける感覚やファッションやメイクへのこだわり、仕草そのもの、全部含めてかっこいいと思います。

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——女性は元来ミーハーなんですよね。そして移り気。

市川 実は、僕も結構ミーハーです(笑)。


真っ直ぐな少年のような男らしさと、女性的なしなやかな部分を持ち合わせている市川さん。作品にも通じる、その魅力の一部を垣間みた気がしました。

現在、QUIET NOISE arts and breakでは、SNSをモチーフにした個展「slip out」を、Basement GINZAでは、写真家・鬼海弘雄の作品からインスピレーションを受けた作品と、鬼海氏の写真とで構成される二人展「sprinkling A-side」を開催中です。

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Photo by Yosuke Torii
市川孝典(KOSUKE ICHIKAWA)/美術家

日本生まれ。美術家。
13歳の時に鳶職で貯めたお金をもって、あてもなく単独でニューヨークへ渡る。アメリカやヨーロッパ各地を遍歴する間に、絵画に出会い、後、さまざまな表現方法を用いて、独学で作品制作に取り組む。帰国後、その類いまれなる体験をした少年期のうすれゆく記憶をもとに、線香の微かな火を使って絵を仕立てる新しいスタイルで発表した作品は、「現代絵画をまったく異なる方向に大きく旋回させた<線香画>」と称され、メディアに取り上げられるなど、国内外で熱い注目を浴びている。
http://www.ichikawakosuke.com/   Instagram  @kxixdxs

<開催概要>

市川孝典 × 鬼海弘雄「sprinkling A-side」
会期:2018年2月8日(木)~2018年3月9日(金)
営業時間:11:00~20:00 *月曜定休/日曜はアポイント制
アポイント先 : info@ichikawakosuke.com(担当 綾瀬)
会場:Basement GINZA
(東京都中央区銀座4丁目3ー5 Ploom Shop銀座店 B1F)
URL:http://basementginza.jp/

<開催概要>

市川孝典個展「slip out」
会期:2018年2月10日(土)~2018年3月4日(日)
営業時間:11:00~20:00 *土日祝のみオープン/月~金はアポイント制
TEL:03-5738-8440
アポイント先:info@quietnoise.jp(担当 井上)
会場:QUIET NOISE arts and break
(東京都世田谷区代沢2-45-2 1F)
URL:http://www.quietnoise.jp/

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