「ホフクサイ」と呼び間違えられた無名の画家が、葛飾北斎になったとき。

葛飾北斎——誰もが知るその名前。でも、私たちは同じ日本人であるのにも関わらず北斎の本当のスゴさを知らないのかもしれない。

海外で、“模倣する芸術家”が続出する。

現在開催中の「北斎とジャポニスム」展。私が実際に訪れて、すべての作品を観終わったときに強く感じたこと。

それは、葛飾北斎と同じ日本人である。それが無性に誇らしくなってしまった。だって、フィンセント・ファン・ゴッホ、クロード・モネ、エドガー・ドガなど、教科書でもおなじみの西洋美術史の偉人たちがこぞって影響を受けていると知ったのだから。  

歴史上に名を残してきた数々の画家たちを夢中にさせてきた北斎。ただ、ファンとして夢中にさせるだけではなく、彼らの生み出した名画にまで影響を与えていたのだ。しかも、思いっきり。

この世を去る直前まで。
「連作」を生み出したのは、北斎の影響?

西洋美術の巨匠の一人であるポール・セザンヌの『サント=ヴィクトワール山』。『冨嶽三十六景 駿州片倉茶園ノ不二』とタッチも作品のもつ雰囲気も違うけれど、こうして並べるとなんだか似ている。でも、まさしくセザンヌだからこそ生み出せた絵画であり、間違いなくセザンヌのもの。

当時、北斎の「冨嶽三十六景」や『富嶽百景』の連作は、西洋美術にとっては斬新な試みだったとされている。一つの山を様々な角度から描き、世に伝える北斎の連作への意識。それが、日本美術にそれほどの魅力を感じていなかったセザンヌの心を動かしたと考えられている。

「いや、偶然でしょ」と思う人が、もしかしたらいるかもしれない。しかし、1882年からセザンヌは断続的に同じ山を表現を変えながら、その後20年以上、死去する数年前まで描いていたと。

うそだろ。こんなポーズまで。

エドガー・ドガが所有していた北斎の浮世絵や版本のコレクションは、すでに売り立てられているため、何を所蔵していたかはわかっていない。

ドガの愛らしさも感じてしまう『踊り子たち、ピンクと緑』。その下にある『北斎漫画』十一編の相撲取りのポーズ。

この一枚だけではなく、何度も同じようなポーズをデッサンされていたということで、ドガが北斎の作品に強く関心を持っていたのではないのかと言われている。

ふっくらとした布袋さまが、
ちょっと生意気そうな少女に。

『北斎漫画』初編(部分)の七福神の一人である“寛ぎモード”の布袋さまと、メアリー・カサットの『青い肘掛け椅子に座る少女』。

西洋だけの考えではないと思うけれど、美術史において「愛らしくお行儀の良い女の子」が描かれることが、当時は当たり前だったと思う。が、北斎の影響により、カサットの表現の幅が増えたのではないか。

ドガの親しい友人であったカサット。同じように触発されていたのではないかと、専門家たちは考えているのだ。

海外で「ホフクサイ」と、
読み間違えられていた時代がウソみたい。

今回紹介した作品以外にも、北斎の影響から生み出されたと思われる作品は山ほどある。

北斎とジャポニスム展の監修者であり、国立西洋美術館の館長でもある馬渕明子氏によると、西洋ではじめて北斎の作品が知られたとき、「ホフクサイ」や「オクサイ」、「ウクサイ」と“おかしな名前”で呼ばれたり、書かれたりしていた時代もあったと。

それが徐々に西洋の人々の心をつかんでいき、日本人の「葛飾北斎」という名前が定着したらしいのだ。

今回の展覧会は第6章まで区分けされている。第1章『北斎の浸透』では、西洋でどのように名を轟かせたのか観ることができるのだ。

「今の日本」でも衝撃が。
実際に展覧会に訪れてみたところ。

つい先日、この展覧会を観に行ったという友人に会ったのだけど、彼女は私に興奮しながら展覧会の感想を話してくれた。

「なんだかよくわからなかったけれど、とにかくスゴかった!」

「いやいや、なんだかよくわからなかったって(笑)」と、はじめは思ったのだけど。と、いう私も展覧会を訪れ、最後の章を観終えたとき、「すごい…」と呟いてしまった。だって、今まで何度も作品を見てきた北斎の“まだ知らない歴史”が詰まっていたんだから。

友人は、アートに詳しいわけでも、葛飾北斎の熱狂的なファンでもない。そんな彼女の“漠然とした言葉”は、よくよく考えてみるとぴったりの言葉だと思った。あまりにも偉大すぎて、どんな人であっても一言ではどうやってもスゴさを伝えることはできない。

昨年の10月から開催されている「北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」は、今月で終わってしまう。気になる人は詳細をチェック。

展覧会名:北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃
会場:国立西洋美術館
会期:2017年10月21日(土)〜2018年1月28日(日)
作品:西洋芸術の名作/約220点
北斎/錦絵 約40点、版本約70冊の計約110点
※会期中展示替えあり

Licensed material used with permission by 北斎とジャポニスム