現代アーティスト・ボルタンスキーによる、庭園美術館の再編。耳をすませば、その歴史が見えてくる。

夜、みんなが寝静まったころ、おもちゃたちが勝手に動きだして、おしゃべりをし始める。子どものころ、そんな空想を思い描いたことはないでしょうか。普段、モノとして見ているものには、実は命が宿っていて、耳を澄ませば、声が聞こえてくるような。モノだけじゃない、今いる場所、たとえば、自宅でも、職場でも、自分を包みこんでくれているものすべてに命があると思えば、なんだかすべてが愛おしく、感謝の気持ちでいっぱいになります。そんなことを思い出させてくれる素敵な展覧会が、東京・目黒の庭園美術館で開催中です。

現代アートの巨匠・ボルタンスキーと、
歴史ある建造物との出会い。

東京都庭園美術館 本館 大広間

現代アート界の巨匠、クリスチャン・ボルタンスキーは、独学でアートを学び、10代で現代アート作家としてデビューしてから、40年以上、絵画、彫刻、写真、映像などを組み合わせた作品を発表しています。作品のテーマは、一貫して、生と死、そして、記憶。現在、東京・目黒の庭園美術館で開催中の『クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス-さざめく亡霊たち』は、東京での初個展となります。

ため息をつくほど美しい空間。
しかし、作品は見当たらない。

東京都庭園美術館 大食堂
東京都庭園美術館 大客室

写真だけを見てしまうと、「作品」のようなものが視界に入ってきません。絵が飾ってあるわけでも、彫刻が飾ってあるわけでもありません。作品は一体どこだろう?そんなことを考えながら、しばらく歩いていくと、建物の至るところから、男の人や女の人、さまざまなささやき声が聞こえてきます。

空間そのものが作品。
失われた記憶を「声」として展示。

東京都庭園美術館 本館 第二階段踊り場

この「ささやき声」こそが、作品だったのです。ボルタンスキーは、建物が、1906年に創設された宮家の邸宅であることや、アール・デコ様式の意匠で高く評価を受けた重要文化材であることに興味を持ち、古い壁や部屋に、長年そこで暮らし、過ごした人々の言霊が宿ると考えました。

声が聞こえる方へ向かい、しばらくそこに立って、全身に意識を集中させていると、たしかに、亡霊たちの声に聞こえてくるようです。ささやいているのは、誰の声でしょうか。部屋のあちこちをおもむろに歩き回りつつ、想像力を働かせながら、耳をすませたい作品です。

すべて生きているという感覚。

《アニミタス》(小さな魂)、2014年 Photo: Angelika Markul Courtesy the artist and Marian Goodman Gallery

建物を歩いていくと、骸骨の影絵の展示があったり、録音された心臓音を流し続ける部屋があったりと、ささやき声と相まって、建物そのものが生きているように感じられます。亡霊たちが私たちの訪問を楽しんでくれているかのようです。

庭園美術館の澄み切った空気と溢れる緑、そして、自分たちが知りえなかった歴史を感じられる展示。現代アートという枠にあてはめて見てしまうと、つい、むつかしく考えてしまうかもしれませんが、気軽に、リラックスして足を運んでみてください。

Licensed material used with permission by 東京都庭園美術館
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。