決して普通じゃない、日本人の“普通”

僕は『TABI LABO』でビデオグラファーをやってるジェームス。出身はイギリスのシェフィールドという街で、日本とイギリスを行き来していた時期があるから、住んでいる期間は、通算で4年くらい。日本語も少しずつうまく話せるようになってはきたけど、日本はまだまだ驚きと発見で溢れているよ。今日は、僕が日本にきて感じたことを、少しだけ話そうと思う。

偶然見つけたWeb Mediaに載っていた、
こんな記事。

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僕は仕事柄、いろいろなホームページやWeb Media、SNSをチェックするんだけど、外国人に向けて日本の情報を発信しているWeb Media『タイムアウト東京』の特設サイト『The Teinei Life』に、こんなトピックが載っているのを見つけたんだ。

『日本のデパートでは、決して高い商品を買ったわけではないのに無料できれいな包装をしてくれる』

『日本の弁当にはヒーターが内蔵されているものがあり、なんと屋外でも温めることができる』

この記事を読んで、僕は日本にきたばかりのころのことを思い出した。

はじめて入ったコンビニで、矢印の方向にビニールを引き出すとパリパリの海苔を楽しめる、あの“おにぎり”を見たときの驚き......あの衝撃は、今でも忘れられないね。一見シンプルに思えるけど、じつは複雑で計算され尽くした構造と便利さは、世界のどこにもない、とんでもない発明品だよ。

『TABI LABO』では、たくさんの外国人スタッフが働いている。ふと興味が湧いて、僕はみんなに「日本にきて驚いたこと」を聞いてみることにしたんだ。

・レストランや居酒屋さんには、床に荷物を直接置かなくていいように、椅子や机の下に荷物を入れるためのカゴがある。はじめて見たときは使い方がわからなくて、ゴミ箱かと思っちゃったけど......。(ブラジル人スタッフ)
・スーパーで魚を買うと“無料”で袋に氷を入れてくれる。私の国では生の魚はなかなか食べられないから「さすがSUSHIの国だな」って感動した。これも、新鮮な食材にこだわる日本ならではのサービスだと思う。(中国人スタッフ)
・飲食店で一度にたくさん注文しても料理を間違われることがほとんどない。アメリカでは、有名なバーガーショップでも注文と違うものが出されることが少なくない。しかも、店によって同じメニューでもまったく味が違うことがある。(アメリカ人スタッフ)
・買い物をすると、店員さんは財布にお釣りをしまいやすいように、お札を先に、小銭を後にわたしてくれる。イギリスではほとんどのお店でお札とコインは一緒に返されるし、しかも......金額が間違ってることも結構ある。(イギリス人スタッフ)

日本人にとっては“普通”かもしれないこんなモノやサービスだけど、僕たちの目にはすごく“特別”なものとして映っているんだよね。

そして、それは僕が職場や日常の生活のなかで毎日のように感じている、日本人の「細やかな心遣い」や「相手への思いやり」といった気持ちから生まれるものなんじゃないかって思うんだ。

イギリスのパブでは見たことのない、
ビールの不思議な注ぎ方。

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ある日の仕事終わり、何人かの外国人スタッフと立ち寄った『キリンシティ』というビアホールで、僕はこんな気になる光景を目にした。

バーカウンターのなかの店員さんが、金色の磨き込まれたビールサーバーのコックを何度も何度も操作しながら、グラスにビールを注いでいるんだ。

僕はビールが大好きで、日本でもイギリスでも、世界中のいろいろな国のパブやビアホールにいったけど、そんなふうに注いでいるのをはじめて見た。

だから、つい興味が湧いて「どうしてそんなふうに注ぐんですか?」って聞いてみたんだ。そうしたら、胸にグラスの形をしたシルバーのバッジをつけた店員さんは、こう答えてくれた。

「これは“三回注ぎ”といって、ビールをおいしく飲んでいただくための『キリンシティ』ならではの特別な注ぎ方です。まずはグラスの脚をもち、グラスを45度に傾けて勢いよく注ぎます。徐々にグラスを立て、グラスの口まで泡がきたらコックを戻します。ここで2分ほど泡がおさまるのを待ち、それを三回繰り返してご提供します。お客様には少々お時間をいただきますが、私たち“ビアマイスター”が思いを込めて注いだビールを、どうぞごゆっくりとお愉しみください」

僕はこれまで、それほど時間をかけて丁寧にビールを注いでいるのを見たことも聞いたこともなかったよ。しかも、ここがウイスキー1杯10ポンド(約1500円)もするような高級なバーなんかじゃなくて、誰もが気軽に立ち寄れるビアホールだっていうことに、すごく驚いたんだ。

それから、店員さんは、胸のバッジが「おいしいビールを入れるためのテストをクリアした“ビアマイスター”の証明」だっていうことも教えてくれたんだけど、ビールを注ぐためにテストを受けなきゃいけないなんて......やっぱり、僕の国じゃ考えられないね。

ドイツ人スタッフも驚いた
MADE IN JAPANのソーセージ。

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イギリスではなかなか飲めない、冷えてふわりとした泡が乗った“三回注ぎ”のビールを楽しみながらメニューをながめていたら、ふと思ったことがあるんだ。

ソーセージやポテトといった、ビールで有名な国・ドイツを代表するメニューやアメリカンな肉料理、『アヒージョ』などのスペイン風のメニュー、イタリアン、そして手の込んだ和食……。

僕はこれまで、仕事やプライベートで世界中を廻ったけれど、こんなにもいろいろな国の料理をラインナップしているお店に、日本以外で出会ったことがない。海外では、イタリアンならイタリアン、チャイニーズならチャイニーズと、それぞれのお店が一つのジャンルの料理を出すのが普通なんだ。だから、きっとこれも、いろいろな好みをもったお客さん全員に喜んでもらうための、日本ならではのスタイルなんだと思う。「お客さんのために、世界各地の料理を自在に作る日本のシェフ」──。もし『TABI LABO』で記事にしたら、みんなは読んでくれるかな?


注文した料理が運ばれてくると、ソーセージの本場で生まれ育った女性のドイツ人スタッフが『職人のソーセージ盛り合わせ“全部のせ6種”』をまえにして、こう言ったんだ。

「この一皿を見ただけで、私は日本の素晴らしさを感じるの。ボリュームのあるお肉の料理なのに、色のバランスとか盛り付け方が、すごく繊細で丁寧。調理方法だって、ここに並んでいるソーセージは太さも形も違うから、焼き上がるまでの時間も違うのに、それぞれを別々に調理して、一つの熱した鉄板に盛り付け直すなんて、日本以外の国で見たことある?」

僕は、香ばしく焼けたソーセージを一口食べて、彼女のいう意味を“舌”でも理解することができた。食感が楽しい粗挽き、なめらかな歯ざわりの細挽きと、肉質の違うそれぞれのソーセージは、スパイシーだったり和風だったり、ハーブが混ぜ込んであったり、ほのかな甘みを感じるイカスミが練り込まれていたり......。

メニューには「その道40年。職人の技術が生み出すソーセージ/味づくりから調理方法まで、ソーセージ職人と二人三脚でビールに合う味わいを追求」と書いてあったけど、そんな説明を読まなくても、このソーセージにどんなこだわりと想いが詰まっているかは、一口で誰もが感じることができると思うんだよね。

その後に運ばれてきた料理も、どれもこれも、お客さんへの真心とシェフのアイデアが詰まった素敵なものばかりだった。

食材を選び抜いたり、旬や産地にこだわるだけじゃなくて、なかには、メニューに目を凝らさないとわからないようなことなのに、料理を入れる器にまで心を配っているものまである。ビールだって、グラスにただ入れるだけじゃなく、手間と時間を惜しまずに、注ぎ方にまでこだわる......。

相手に喜んでもらうためにそこまでできるなんて、いかにも日本人らしい丁寧で細かな気遣いだよね。

でも、それを感じるのは、僕が外国人だからっていうわけではないと思う。

きっと、ちょっとだけ目と心をすませば、誰もが実感できることなんだって思うんだ──。

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