目に映っているのに、「見られていない」彼らのストーリー
路上で生活をする人々とすれ違うとき、見てはいけない存在かのように、多くの人が目をそらす。カナダ・モントリオールに住むフォトグラファーMikael Theimerさんは、ずっとその様子に疑問を抱いていたそう。
胸の中にある思いを作品にして、多くの人に届けるべく、4年前に『The invisibles』というプロジェクトを自身のWEBサイトで立ち上げた。路上で生活している人たちを撮影し、彼らのストーリーと一緒に載せるというものだ。
彼は路上にいる人々に何を思い、この作品を見た人たちに何を感じてほしいのか?質問をしてみたら、こんな答えが返ってきた。
「僕は単純に、彼らがどういうプロセスで今に至ったのか、何を考えているのか、すごく興味があったんです。彼らのストーリーを聞くことでしか、気づけないこの社会の問題や、リアルがある。僕には理解できないことの多くを、彼らは知っていて、理解し、受け止めている。
街を歩いていれば、路上で生活している人たちを見ない日はきっとないでしょう。当たり前ですが、彼らは僕らと同じ人間です。このプロジェクトを通して、より多くの人が共感と理解を持って、彼らに接する社会に近づくことを願っています」
The invisibles
[目に見えないものたち]
01.
15人の大家族で、弟と妹にクリスマスプレゼントを買うためや、家賃を払うために俺と兄は、盗みを犯す他なかった。12、3歳でトロントのストリートでブレイクダンスをしていた時、「どうすればお金を手に入れることができるか教えてやる」と耳打ちして来た男と出会ったんだ。ヘロインの袋とコカインの袋を渡し、どのくらいの値打ちがあるのかを教えた。1時間半後、俺は帰ってきて彼にお金を渡した。
こうやって俺は、金儲けをするようになった。父親も似たようなことをしていたから、それにすぐ感づいたんだ。
俺がシャワーを浴びている間に薬を見つけ出して、「なんだお前、俺みたいなことがしたかったのか?お前が他の人にどんなことをしているのか教えてやるよ」と、トイレの便座に座らせ、俺の腕にソレを注入した。
その日から家を出て、この道端で暮らしている。
02.
寒さの中、道端で暮らし、睡眠もろくに取れないとなると、まず最初に陥る危険性のあるものがヘロインに手を伸ばすこと。特に最も寒い冬だと、ヘロインを打つことで寒さや痛みを感じることなく眠りにつくこと
道端で暮らすことは本当ににしんどいから、最初の6ヶ月間で人々は大抵ヘロイン中毒に陥る。寒さや怪我、霜焼けが伴い、医療保険もなくただ耐えるしかない。
今、私はヘロイン中毒の治療プログラムに通っている。私は6ヶ月間しかヘロインを注入していなかった。中毒から抜け出すことができたのは、医者のおかげだ。さもなければ、抜け出せないほど深く中毒に陥っていただろう。
03.
時々俺は、泣かされることがある。母親は行こうとしているのに、その10歳くらいの娘は俺を見て「ママ、ママ、ママ!」と叫んでいる。
女の子は5ドルを手に持って、俺の方に駆け寄ってくる。これほど美しくて、ピュアなことはない。
5ドルだろうと2ドルだろうと、金額に興味はない。人が自分に寄ってきて立ち止まり、話しかけに来ることこそ嬉しいんだ。
「お邪魔して申し訳ないですが…」
「全然邪魔なんかじゃない!邪魔してるのは道端で暮らしている俺の方なんだから!」
「あなたはいつから道端で暮らし始めたんですか?なんでここで暮らすことになったんですか?」
「長くなるけど本当に聞きたいか?じゃあ話し始めるぞ」
こんなやりとりこそ楽しいんだ!道端で暮らす上で1番素晴らしいことは、人と関わること。
04.
路上での物乞いは15年前から。
当時は彼女とヒッチハイクをして、ここは途中の通過点のはずだっ
ここに立ち寄って、移動し続けるための生活必需品や、食べ物を買うためのお金を確保しようと物乞いをしていた。でもそこで、救助された大きな犬と出会った。犬と一緒にヒッチハイクすることは出来ないから、その犬が亡くなるまでここに留まることに決めた。
結局彼女とは数年前に別れ、その犬は昨年亡くなった。今は新しい彼女がいて、息子もいる。だから実はホームレスではなくて、ただ貧乏なだけなんだ。仕事を探すことができないから、家族を支えるために物乞いをしている。