ハマる味、「あれなんで?」に科学が追る

誰にだって小さい頃から「愛してやまない味」がありますよね。いわゆるおふくろの味なのか、思い出のケーキなのか、おばあちゃんのつくる雑煮なのかは人それぞれ。

紅茶に浸したマドレーヌを口にした瞬間、遠い日の記憶が蘇ってきた。は、マルセル・プルーストの小説だけど、Valerio Farrisがここで紹介するのはその「プルースト効果」ではなく、私たちの生い立ちやアイデンティティがどれほど味覚に影響を与えているかという研究結果。

どこで生まれ育ったかは、やっぱり味覚を決定するうえで重要な要素なんですね。「Food52」よりどうぞ。

食は、自分と世界を知るための
コミュニケーションツール

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私はテキサス育ちなので、好きなバーガーを聞かれたら迷わず「ワッタバーガー(Whataburger)」と答えます。世界一かどうかはさておき、ワッタバーガーに味よりも深いところで親しみを抱いています。なんせそのパティとバンズには、ほかのバーガーにはない「思い出」が詰まっているから。

バーガーを口に含むと蘇ってくるのは、フットボールの試合。それとロードトリップ。それから埃が舞うテキサスの夕方に、よくスナック代わりとして食べていたときのこと。

以前にも同じようなことを書きましたが、もう一度。食とは、単に体を通って、エネルギーに変わるツールではありません。たしかにそれは食の役割のひとつではありますが、本来歴史や思い出を秘めた、自分や世界を知るのに非常に大事なコミュニケーションツールなのです。

けど、私たちのアイデンティティや嗜好は「食」が決めるのだ!なんて詩を吟じる前に、科学が私の考えを後押ししてくれているので、そっちの説明を進めましょう。

生まれた土地の味覚は
自分を表現するアイデンティティ

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ニューヨーク大学の新たな研究によると、私たちの好きな食べもの、そしてそれらを好きな度合いというのは、自身のアイデンティティと深くつながりを持つことがわかったそう。

研究に記されている言葉を借りるとすれば、「社会的アイデンティティは私たちの食に対する評価や満足度を左右する」のだとか。でも、研究者らは一体どのようにしてこの結果を導いたのでしょう。

簡単に説明するとこう。まず、食の好みがわかりやすいふたつの人口、そしてふたつのアイデンティティ(カナダ人と南部地方のアメリカ人)に焦点を絞り込みました。合わせて彼らがどれくらい断固として出身地域のローカルフードを好むかを調査しました。

まず最初の研究で研究家たちは、アメリカ南部地方のグループの被験者103人に食べもののリストを提示し、それがどれくらいおいしそうかをイメージし、その度合いを評価するという調査を受けました。被験者らが渡されたリストには、南部で親しまれている食べものもあれば、ツナサンドやピザなど、あまり親しみのないものも含まれていたそうです。

続いて、今度は彼らがどれだけ自身をアメリカ南部と強く結びつけているかを自己評価してもらったそう。結果として、アメリカ南部地方の人である意識を高く持つ被験者のほうが、ササゲやナマズなど、南部特有の食べものを好む傾向に。

追跡調査として、彼らが南部地方の人であることを言い聞かせてあげると、より南部地方の食べものを「おいしい」と感じる傾向にあることが発覚。心理学で、何かを言い聞かせる行為は、プライミング効果として知られています。つまり実験中、被験者たちと南部地方のアイデンティティを強く結びつけてあげることで、ローカルフードへの愛情が増したというわけ。

ところで、カナダ人のグループでも類似の結果が生まれました。顕著だったのがこの事例。カナダ人であると言い聞かせてからのほうが、彼らはハチミツよりもメープルシロップを好む傾向にあったのです。

口にするものが、
自分のモラルを形成する

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では、この結果が示すものは何なのか?

まず、私たちがこれまで思っていた以上に食とアイデンティティの縁は深い、ということ。アイデンティティを持つこと、それからより大きなグループに自分のアイデンティティを結びつけることで、ものの味やおいしいと感じる度合いが変わる、ということ。さらにはアイデンティティ自体を操ることで(この実験ではプライミング効果を導入)食と自分への関連付けが少しずつ変わってくることがわかりました。

これを聞いて、作家Adam Gopnikとのある会話を思い出しました。近著について話していたときのことです。私は「口に含むものは、自分のモラルとなる」ことを彼に再確認させられました。

その料理を自分の味覚に合うかどうか決定するのも、ある種の選択なのです。だから食や味覚には個々人の本質が現れる。ならばそれが“ある特定の場所”ではないにしても、私たちの生い立ちそのものが味覚に影響を与えているということは間違いなさそう。こう、私自身結論付けたのです。

Top photo: © Lyubov Levitskaya/Shutterstock.com
Written byValerio Farris
Licensed material used with permission by Food52
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