科学でさえ、女性へ「偏見」を抱くことがある(9項目)
「『科学によって証明された』と言われると、偏りのない事実のように感じられるけれど、実はそうではない側面がある」と語るのは、サイエンスジャーナリストAnne-Marie Tomchakさん。科学でさえ女性へ「偏見」を抱くことがあると「Mashable」で主張しています。
立場によって様々な意見があるでしょうが、ひとつの見解として知っておいて損はないかもしれません。
科学は女性を
正しく判断できていない?
「科学的に証明されている」と言われたら、思わず信じてしまうのも無理はありません。
ですがここ最近、かつて正しいとされていたことが覆されていることから、科学は必ずしも「絶対的な事実」とは言えないと分かるでしょう。
その原因のひとつとして、男性が科学界の多くを占めていることが挙げられるのではないでしょうか。そのため女性に先入観が入り、科学的判断を鈍らせている可能性があるということです。
そこで今回ご紹介したいのは、英科学作家Angela Sainiさん著の「Inferior」。彼女は「科学は女性を正しく判断できていない」ことを、新たなリサーチ結果を基に本書で証明しています。研究から省かれてしまうことの多い女性たちにしかるべき焦点を当てることで、科学に新たな側面を与えようとしているのです。
彼女の著作から、科学の欠陥を9つピックアップします。
01.
女性は知性が劣っていると
ダーウィンは考えていた
進化論を語る上で欠かせない存在であるチャールズ・ダーウィン。彼は、こと女性に関しては後ろ向きな考えを持っていたようです。
しかし、ダーウィンの衝撃的な返答はこちら。
「道徳的資質は、女性のほうが優れているでしょう。ですが、知的には劣っています」
Sainiは、この返答に対してこう述べています。
「ダーウィンの科学的発想は、当時の社会背景に左右されていたため、女性の真の能力を追求できずにいたのではないでしょうか」
02.
キュリー夫人でさえ
学校に入れず苦労した
もちろんこれは一般論ですが、科学界を占めるのは圧倒的に男性が多いです。そもそも少し前まで、女性はその入口に立つことも許されていなかったのです。
「女性が学位をとれるようになったのも、世界の一流大学ですら20世紀に入ってからでした。オックスフォードでさえ、1920年まで女性は入学できなかったんです。それもどちらかと言えば、早い方でした。
科学の専門学校はそれ以上に酷く、マリ・キュリーは2つもノーベル賞を受賞したと言うのに、フランスの科学アカデミーへ入学できませんでした。男性と女性に同じ教育機会が与えられるようになったのは、ほんの数世代前の話なのです」
そこでその差別をなくすべく、教育を受ける女性を支持したのが「ヴィクトリアン・サフラジェット運動」。その中でも代表的な存在であったのEliza Burt Gamble氏が書いた「The Evolution of Woman」は、ダーウィンの性別に関する見解に疑問を投げかけていました。
科学に貢献している女性が少ないのは、彼女たちの知性が劣っているからではなく、単純に差別の表れである、という彼女。社会から機会を与えられていないことをふまえず、男女の差を決めてかかるのは危険だと説いています。
しかし当時、このようにダーウィンに対抗する声はあったものの、その多くが「女性からの声」であったため、結局は認められずに終わることが常でした。
「当時女性が科学を学びたければ、科学者である旦那や父親のアシスタントとして働くしかありませんでした。そこで彼女たちがどれだけ貢献したとしても、女性の名前が明記されるのは、いつだって男性の名前の下。このように時代背景のせいで埋もれてしまった女性科学者たちは、少しずつ再発掘されていますが、彼女たちが当時認められなかったのは、やっぱり痛ましいです」
03.
女性は共感する生き物で
男性はロジカルな生き物?
2002年に発表された「Empathizing-Systemizing理論」では、女性の脳は共感する力に長けていて、男性の脳は車やコンピュータなどシステムを構築する力に長けている、といった結果が導かれました。
心理学者であり、神経科学者であるSimon Baron-Cohen氏は、この結果こそが「男女が好む趣味の基本的な相違を表している」と話します。つまり男性がバイクの修理を好み、女性がお茶をするのを好む理由は、この研究結果に基づいているということ。
一見信憑性がありそうなこの研究ですが、実はこれにも複数の欠陥があることが、新たな研究により暴かれています。
04.
男女間で知力に差はない
「男性の脳は女性の脳より平均5オンスほど重い。だから男性の方が知力がある」という主張があります。
彼女は後に米神経協会の会長となるEdward Spitzka氏と共に働き、脳の重さではなく、「体対脳の比率」が知性の物差しになることを発見しました。
ところがこの5オンスの争いはなかなか厳しいもので、残念ながら彼女は生涯この争いに勝つことはなかったんだそうです。
05.
女性の方が弱い
なんてことはない
平均的に、男性は女性より15センチほど身長が高く、上半身の力は女性の二倍だと言われています。でもだからと言って女性のほうが「弱い」と判断するのは、少々乱暴かもしれません。例えば子どもを産む際には女性も上半身の力を発揮できますし、女性の方が寿命が長いこともよく知られた話です。
とある研究結果によると、実は女の子の方が男の子よりも丈夫なんだそう。ロンドン衛生熱帯医学大学院のJoy Lawnさんの研究結果によると、男の子の方が女の子に比べて生後数ヶ月で亡くなる危険性が高く、そのリスクの差は10%にも及ぶんだとか。
06.
治療実験に選ばれるのは
男性の方が多い
新たな薬品を開発するとき、体内構造が複雑でホルモンバランスが不安定な女性でなく、男性のほうが被験者として選ばれるケースが多いことをご存知でしたか?そのため、女性が副作用を引き起こすリスクが1.5倍ほど増加していると推測されています。
「生物医学コミュニティにいる人は一生をかけて男か女のいずれかを研究し続けるものです。その多くの場合、選ばれる性別は男なのです」
中には女性からの副作用の苦情が多いことから、市場から外された薬もあるほど。しかし、幸いなことに対策はある模様。
「アメリカでは、より多くの女性に治療実験へ参加してもらう流れが出てきています。男女比の差を埋めることで、将来は医薬品の開発のみならず、あらゆる研究結果の誤りを解消していけることに期待します」
07.
生理痛よりペニスの研究の方が
進んでいる
男性の体は隅々まで研究されているにも関わらず、膣に関する情報は圧倒的に少ないという現状があるそうです。
「そのせいか、そこまで込み入った研究がなされないのも事実です。しかし本当はどの病気にも隔たりなく力を入れるべきです」
とユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、リプロダクティブ・ヘルス教授、John Guillebaud氏はQuartzに話します。
「どんな動物学でも、雌より雄の方がより深く研究されています。そのせいか、女性だけに見られる症状は、医薬品研究で軽視される傾向にあるのです」
08.
女性と男性で
性欲に差があるという誤解
一対一の恋愛関係にこだわりを持ち、セックスに慎重な性別は「女性」といった考えが根付いていますが、これは社会的コンテキストに大きく左右されるものなのだとか。
1978年にフロリダ州立大学で行われた調べによると、男性、女性のどちらも、初対面の人とでもデートはできるけれど、当日セックスまで踏み込むと答えた女性はほとんどいなかったのだそう。
ところが2015年にドイツの科学者たちが前述に近い研究を行ったところ、新たな発見が。なんと女性も男性と同等の性的願望はあるものの、偏見を抱かれること、自分に対する評価、そして危険性など、様々な要因のせいでなかなか踏み込めないことが明らかになったのです。言い換えてみると、女性も男性と同じように性的衝動に駆られるが、女性のほうが社会の目を気にしてしまう、ということ。
人の言動は、生まれ育った文化や自分が身を置く社会によって変わってくるもの。Sainiの本では、中には女性が浮気することが認められている先住民の文化すらあると綴られています。「女性は控えめ」という古来の考えを覆す証拠が、実は数多く発掘されているのです。
加えて、40年前に霊長類学者であるSarah Blaffer Hrdy氏が行った研究では、雌のヤセザルは1人よりも多くの雄と性行為を交わす方が体に良いことも明らかになっています。
09.
更年期に関するセオリー
年をとるにつれて女性は男性から興味を持ってもらえなくなるから更年期が訪れる、という説があります。
「男性が更年期を迎えた女性に興味を持たないのは、そもそも彼女たちが生殖機能を失ってしまったからです。男性が興味を示さないから、生殖機能を失うわけではありません」
すべてのアイデアが「良い」とされないように、全ての科学が「ニュートラルである」とは限りません。「証拠」があるからといって「正しい」とも限りません。Angela Sainiさんのように、当たり前の概念に疑念を抱いてこそ、真実にたどり着けるのかもしれません。