人種差別、偏見。アメリカの暗部をあぶり出したオリジナル作品

第二次世界大戦後、アメリカにはあからさまな人種差別や偏見があった。

元世界ヘビー級王者であるモハメド・アリ。18歳の時、ローマオリンピックで金メダルを獲得した彼を待ち構えていたのは、レストランからのキックアウトだった。金メダルを見せたにもかかわらず「ここは白人専用、黒人の来る場所ではない」と理由で追い出されてしまったのだった。彼は、その帰り道、オハイオ川に金メダルを投げ捨てた。

Netflixオリジナル映画『マッドバウンド 哀しき友情』を観ながら、僕はその話を思い出したのだ。

ミシシッピ州が舞台

物語を深く理解するために、バックグラウンドについて触れよう。

舞台は、第二次世界大戦後のミシシッピ州。一般的にアメリカ南部は、人種差別がひどいといわれているが、特にこの州は悪名が高い。1955年には、黒人少年のリンチ事件も起こっている。

全身を殴打され、片方の目玉をえぐられて、銃で頭を撃ち抜かれ、重りをつけて川に投げ捨てられた少年の名前は、エルメット・ティル。何と白人女性に口笛を吹いただけで殺されてしまったのだ。3日後に少年の死体は発見される。ティルの母親は、世界に残虐極まる殺害方法を伝えるために、棺を開けたまま葬儀を行うことを主張。そして、報道によって殺害写真が公開され、米国中を文字通り震撼させることになる。

かつて、ミシシッピ州は全米で最もリッチな土地であったが、すっかり落ちぶれてしまってからは、多くの白人が、プアホワイトと呼ばれる貧困層になった。その影響で、この地には人種差別が色濃く残ることになったという。

目を背けたくなる
黒人と白人の関係

作品タイトルのマッドバウンドとは、泥だらけのという意味。気が重たくなるようなブルースの楽曲。そのタイトルに象徴されるように、泥によって身動きがとれなくなったキャラクターたちがスクリーンに登場する。

棉花農場で働く黒人家族と白人家族。黒人の家族は、人種差別と偏見に満ちた日常の中で、まるで白人の家族の奴隷のような仕打ちに耐えなければならない。当時の白人に逆らうことのできない米国社会の暗部があぶり出されていて、その描写は嫌悪感を覚えるほどに醜い。

作品内でフィーチャーされているのが、戦地から帰国した黒人男性と白人男性の関係。2人は、戦争による心的外傷を負っているという共通点がある。やがて、お互いに戦場での話を交わすうちに心を通わせていく。

人種の壁を乗り越えて、友情を育む2人だったが…ある日、衝撃的な事件が起きてしまう。

黒人監督ならではの視点

監督を務めたのは、黒人女性監督のディー・リース。人種差別や偏見を真正面から描いた本作品は、2017年のサンダンス映画祭でプレミア上映された際に絶賛の嵐だったとのことだ。

昔ほどではないにせよ、今でも米国に深く根づく人種差別問題。自由の国アメリカ。その別の顔を知る意味でも『マッドバウンド 哀しき友情』は観てもらいたい。

Netflixオリジナル映画『マッドバウンド 哀しき友情』独占配信中

Licensed material used with permission by マッドバウンド 哀しき友情
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