人種差別への想いを乗せたHIP HOPが、卒論として認定
アメリカ・バージニア大学に、少し変わった専攻の教授がいる。「Professor of Hip-Hop」と呼ばれるA.D. Carsonは、文字通りヒップホップが研究分野だ。
この時点でも相当に興味を惹かれるのだが、知ってもらいたいのは、ここに至るまでの苦難の道のりのほう。逮捕されてでも人種差別に抗議し続けた、アツい男の物語をお届け。
先導したデモでさえ
卒論の一部にしてしまう
Photo by Ken Scar
父がバンドマンで、母が指揮者という音楽一家で育ったCarsonは、幼い頃はヒップホップに好意的ではなかったらしい。しかし、COMMONの『I Used to Love H.E.R』という曲に出会ってからその世界にのめり込み、自分の思いをラップに込めて歌い上げるようになった。
やがて、クレムゾン大学に入学した彼は、キャンパス内でアフリカ系アメリカ人に対する蔑視を肌で感じたという。この現状を一人でも多くの人に知ってもらいたい。彼は、同じルーツを持つ学生たちとグループ「See the Stripes」を結成。自分の得意なラップでレイシズム(人種差別)を訴える行動に出た。
「その頃は、KKK(白人至上主義団体)が大学内でハイアリングをしていたり、Crip'Masという差別に繋がるパーティーが行われていたり、肌の色の違いをバカにした落書きがあったりした。
それだけじゃない。人種差別主義者の名前が大学のビルの名前に使われていた。これ、キャンパス内での話だよ。あるべきでないこうした出来事すべてに対する抗議だったんだ」
と回想するCarsonだが、じつは2016年、校内で9日間の抗議活動を敢行し、逮捕されてしまう。
罪に問われたとき、彼はFacebookやTwitterに「イノベーティブな卒論プロジェクトだ」と投稿。というのも、所属していた研究室は、言語に関することであれば、どんな内容でも卒業論文として受理してくれたから。
それならばと、自分たちの活動を通してつくりあげたラップや動画を博士論文として提出することに決めたのだった。
学位審査では
差別を歌ったラップを披露
動画は、卒論「Owning My Masters」のイントロダクションで実際に使用されたもの。
逮捕から約1年後、学位審査に用意したのは34曲が入ったアルバム。テーマは逮捕されたときに抗議していた内容とほぼ同じで、アフリカ系アメリカ人に対する差別や歴史について。
時間の関係で披露したのは5曲のみだったそうだが、彼の折れない信念がたくさんの人の心を動かしたのか、そのパフォーマンスは大成功に終わったという。
「一度、僕の考えは真っ向から否定されたように感じた。でも、今では大学側も想いを受け止めてくれている気がするよ」