今アメリカで炎上中のCMと、背景にある「キング牧師のスピーチ」。
あるCMに、今、アメリカ全体が抗議しています。
全米で1番盛り上がるイベントとも言われている、スーパーボウル。テレビ中継の視聴者も多く、企業は高いお金をかけて広告を出しています。自動車メーカー「Ram Trucks」もまた、そのひとつ。
だけど、そのCMを観た多くの人が、批判的なコメントを残しています。動画がアップロードされているYouTubeチャンネルでは、「高く評価する」よりも、2倍近く「低く評価する」のボタンが押されているほど。
その理由は、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(キング牧師)にありました。
間違った内容で引用される
「キング牧師のスピーチ」
日本でも有名なキング牧師。2018年は、暗殺された彼の死から50年目に当たります。「Ram Trucks」は、半世紀前の2月4日に行われたスピーチを引用し、トラックの映像を組み合わせて、購入を促すようなCMを制作しました。
あたかも、キング牧師が車を買うことをすすめているかのように。
独唱しているような口調と力強い声、ユニークな言い回しには、やはり心に刻まれるようなインパクトがあります。しかし、彼は同じスピーチの他のパートで、このように広告について語っています。
「品のあるジェントルマンになるには、ウイスキーを飲まなければいけない。近所の人を羨ましがらせるには、特定の車を運転しなければいけない。誰かに愛される存在になりたければ、口紅と香水が必要になる。だけど、覚えておいてほしい。ただのモノを買っているにすぎないと。これこそが、広告主たちが使っている手法なのです」
これは“経済格差に対する想い”を語ったスピーチとしても知られています。彼は、周りに影響されて何かを買うのはやめようという旨を、伝えたかったようです。つまり、どちらかといえば、車の購入には否定的なスタンス。
アメリカでは、「Martin Luther King Jr. Day」といわれる1月15日や「Black History Month」である2月に合わせて、人種差別やキング牧師についての特別講義が行われます。たくさんの人の頭の中に、彼のメッセージが残っていたからこそ、アメリカ中がこのCMに対する異論をとなえているのでしょう。
日本でも賛否があるかもしれません。アメリカでは、なおさらです。だけど、暗殺される前日のスピーチで、キング牧師はこう力強く語りました。
「どこかで読んだ、集会の自由があると。どこかで読んだ、言論の自由があると。どこかで読んだ、報道の自由があると。
そして、どこかで読んだのです。アメリカの偉大さは権利のために抗議ができる権利があることだと」
「みなさんと一緒にたどり着くのは難しいかもしれない。だけど、知っておいてほしい。私たちは、ひとつの民として、必ず約束の地に到達するということを」
アメリカに暮らす多くの人が、第三者ではなく当事者として、内容に誤りがあると自分で考え、たった1つのCMに抗議をした。今のアメリカは、“偉大な力”を使い、“約束の地”へと近づいているのかもしれません。
疑問視される政治政策。