ハーバード史上初の「ヒップホップ卒論」が、最高にクールだ。
こんなにクールな卒論、聞いたことない。
小説や詩集、脚本など、様々な創作品を論文として提出できるという、ハーバードの英文学科。ここに所属する学生Obasi Shawも、「どうせならクリエイティブな論文にしたい」と考えたひとり。そうして作り上げられたのが、史上最高にカッコイイものだった。
黒人の葛藤を
リリックにのせて
幼少期はクリスチャン・ヒップホップを、大学生になってからはケンドリック・ラマーやチャンス・ザ・ラッパーをよく聴いていたというObasi。そんな彼にとって、「今までにない、面白いをカタチを」と考えたとき、真っ先にラップが思い浮かんだのは自然なことだったのかもしれない。
彼が制作したのは、全10曲から構成されるヒップホップアルバム『Liminal Minds』。FBIを舞台にした米人気ドラマ『Criminal Minds』にかけたという。
それだけでなく、直訳すると「感知しづらい気持ち」となるそのタイトルには、法的には自由になったけど、まだどこか不平等さを感じているという黒人たちの「やりきれなさ」も込められている。
リリックも、黒人の葛藤を訴えるものだ(これは、ふたりの偉大なラッパーから受けた影響も大きいだろう)。その歌詞の一部を紹介しよう。
ラップの世界から王座を目指そう、かつてない歴史を作るために
僕らが目指すはホワイトハウス、この勢いは止められない
ジム・クロウ法(人種差別を含んだアメリカ南部の州法)を乗り越えて、オスカーの座を目指すんだ
理屈抜きで
キャッチーな論文
ハーバード大学がHPでも取り上げてから、再生回数が25万回以上にも上っているというこの論文。内実ともに素晴らしく、実際「A-」という評価を得たそう。
担当教官の評判も上々だ。ハーバードで詩の授業を受け持ち、Obasiの論文アドバイザーを務めたBellは、こう語る。
「Obasiのアルバムは、本当に面白い。『カンタベリー物語』の手法を取り入れてるんだよ。10曲それぞれ、違う人の視点から歌っている。そしてアメリカ社会の人種政策を、的確に批評してるんだ。そして何より素晴らしいのは、色んな理屈を抜きにして、驚くほどキャッチーで魅力的なんだ」
ヒップホップファンからも
ポジティブな評価
今まさに話題の渦中にいるObasi自身に、話を聞いてみた。
「このアルバムでは、黒人がアメリカで経験するであろう困難を、ラップにのせて伝えている。僕らのジレンマを、少しでも多くの人に知ってもらうことが目標だ。だから、ハーバードからもヒップホップファンからもポジティブな評価をもらえて、本当に嬉しいよ」
「ラップは『芸術』じゃないって考える人も少なからずいるけど、伝統的な『詩』と『ラップ』って、通じるところがあると思わないかい?何百年も前に作られた詩でも、韻が踏まれていることはよくあるしね」
「ひとりでも多くの人が『Liminal Minds』をきっかけに、アメリカに潜む人種問題に思いを馳せてくれたら…。そう願っているよ」
卒業後は、シアトルでエンジニアとしてインターンシップをすることが決まっている彼。ラップも、趣味として続けていきたいと言う。
「ラップは最高だよ。自分の気持ちを何でも言うことができる、ベストな方法さ」
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