時刻表もなければ、行き先も不明。新潟・佐渡島の「夜のバスツアー」
人は、どうしてこうも怪しさや謎めいたものに惹かれるのだろうか。
わざわざ新潟県の離島、佐渡島へと出向き、あたり一面まっ暗になった夜のバスツアーに参加する人が増えているという。それも、到着するまで目的地不明のミステリーツアーだ。
暗闇なうえに
行き先も不明のバスツアー
夜7時、佐渡の両津港。いつもは何もないところに、いい感じにサビ付いたバス停が突然出現する。海に囲まれた離島の港をこんなディティールに込めて演出するとは。
当初はどんな物好きが参加しているのかと思っていたけど、私自身もバスに乗る前から期待の高まりを抑えられなくなった。
出発時間のアナウンスと共にバスが到着。
昭和を感じさせる古い車体、パープルの光を帯び、ドライアイスで煙った車内、クラシカルなコスチュームのバスガイドさんが登場し、ツアー参加者たちの好奇心はどんどん高まっていく。
出発した車中では、通常のバスツアーのように佐渡に関することがアナウンスされた。佐渡は文化や芸能の歴史が古く、昔から言い伝えられている伝承民話だけでも1200は存在しており、このツアーではそうした佐渡の魅力を体感できるという。
第1目的地で
佐渡の伝統に触れる
着いた先は明るい光を帯びた建物。潮の匂いと風が感じられることから水辺であることがわかる。参加者たちが席に着くと、さきほどのバスガイドさんから説明があり、このあと伝統的な横笛の演奏、そして語り部による民話を聞く体験の時間となった。
海の夜風を背景にして、しみじみと集中して聞く横笛。演奏家の息遣いや、音に込めた気持ちが会場に満ちていく。いつも耳にするリズムとは違い、シンプルな木の楽器から放たれた音色は全身に染み込むように迫る。
続いて、先ほど1200もあると教わったばかりの島の民話のうち、ひとつの悲恋の物語を聞く。たったひとりの語り部が登場人物の個性を見事に表現し、それぞれの感情がとてもリアルに伝わってくる。
主人公の喜怒哀楽に自分の感情を重ね、あっという間にストーリーに引き込まれた。しかも、民話の舞台になったまさにその場所まで来て聞いているのだから、臨場感のあるエンターテイメントだ。
民話の世界と現実世界を
行き来する
笛と民話によって、まるで佐渡を舞台にしたパラレルワールドに入りこんだようだった。しかし先ほどの民話にまつわる別の場所へ移動し、今度は踊りと民謡という別の演出が迎えてくれたことで、少しずつ現実世界に戻ってくることができた。
ここでは、見学をしながら佐渡の名産品を頰張ることもできた。すっかり民話の世界観に感情移入していた気持ちが落ち着いてきたら、平和にバスツアー参加中である自分を思い出して少しホッとした。
まわりを見渡すと、ほかの参加者たちも穏やかな笑顔で見学している人が多かった。
「ようま」とは一体…
現在このバスツアーの開催は不定期だが、開催のたびに行き先やコースが変更される。それだけ佐渡の魅力が幅広いということだろう。次回が気になる人は「ようま観光バスツアー」をチェック。
ちなみに「ようま」とは、佐渡の方言で「夜」を意味する言葉。ネオンやデジタルサイネージが存在しない離島の夜は、目が慣れるまでしっかりと暗い。「妖魔」を楽しむことができるのだ。
そこにある、それがいい。TABI LABOの国内トピック『JAPAN LOCAL』をまとめて見るならコチラ。