LOCAL FAST FOODでつくる、飲食業界の「三方よし」とは?

こんにちは。クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」でローカル・フードを担当している菅本香菜です。副業では、旅するおむすび屋「むすんでひらいて」として活動しています。

「生産者がこだわりを持って育てた地域の伝統的な食材を、シェフが素材の味を活かして料理しました」

そんな言葉を聞いたとき、あなたはどんな食事を思い浮かべますか? 高級レストランでの食事? 農家レストランでの食事?

今回は、地域のこだわり食材をファストフードで提供することに挑戦するシェフのお話です。

生産者を大切にするシェフが目指す
「ファストフード」

新潟県内を中心に活躍するシェフ、鈴木将さん。将さんがつくる料理は、味が美味しいのはもちろん、どれも生産者さんを想う気持ちと新潟が持っている魅力を感じることができます。

そんな彼から、「次はファストフードに挑戦しようと思う」というお話を聞いたとき、私にとっては小さな衝撃でした。地域の食材を最大限に活かしている将さんの料理と ”ファストフード” は、反対の場所にあるようなイメージだったからです。

なぜ、ファストフードに取り組むのか。話を伺ってみると、料理人になったルーツからたどることになりました。

修行で学んだのは
安く仕入れるための術

将さんのお父さんはもともと居酒屋の店主で、幼い頃はランドセルを背負って居酒屋に帰っていました。カウンター席で楽しんでいるおじちゃんに可愛がってもらったり、お父さんの料理を手伝ったり。料理、そして料理のある空間に惹かれた将さんは、小学生の頃から文集に「料理人になりたい」と書いていたそうです。

高校を卒業して本格的に料理人を目指すため、関西そして関東へ修行に出た将さん。そこで学んだのは、お客様が喜ぶ料理の技術、そして、食材を安く仕入れるための術でした。

「不況の中で『市場の卸売業者に交渉して、買い叩いて安く仕入れる』というのが、レストランが生き残っていくために必要なスキルだと、この頃は疑っていなかったですね」

27歳、料理人として約10年の経験を積み重ねた頃に、お父さんの「自分のお店を出したい」という想いを聞いて、故郷である新潟の長岡に戻り、料理人として独立。「おれっちの炙家 ちぃぼう」(※2017年、「越後炉ばたと雪国地酒 ちぃぼう」にリニューアル)をオープンしました。

地域、生産者、食材
それぞれを知って変わった意識

久しぶりの長岡での生活。将さんの意識を変えたのは、長岡の何気ない風景でした。

「朝、通勤していると、そこら中に一面の田んぼや畑が広がっているんです。関東や関西では、料理を通して食材について勉強してきたけど、そう言えばその食材が生産されている現場は足を踏み入れたことも、ほとんど見たことすらなかったと気づいたんです。料理と生産が近くに感じられる長岡で、初めて食材の裏側に興味を持ち始めました」

雪深い長岡、畑仕事が落ち着く冬に、将さんは生産者さんの元を訪れました。お家に招いてもらい、出してもらったのは大根のスライス。全国的に言われる大根の旬とは、少し遅れた時期でした。

「それが、甘くてみずみずしくて衝撃的だったんです。雪大根と言って、通常秋に収穫する大根を雪が降る時期まで畑で育て、雪が降り始めた頃に収穫したもの。大きく育てる過程で傷がつきやすいし、安定的に出荷できないので、市場では出回っていない食材でした。長岡だからこそ体験できる豊かな旬があるのに、それを知らずにいたことに気づかされましたね。こんな美味しい食材をお客さんに伝えたい、食べてもらいたいと思いました」

生産者さんに話を聞いてみると、野菜は価格を叩かれるばかりで、こだわって野菜を育てると価格が合わずに買ってもらえない。一方で、同じ形の野菜を求められるから、規格外のものは例え味が良くても大量に廃棄しなければならない。そんな課題を持っていることを教えてもらったそうです。

「飲食業だけが生き残ろうとしている既存のやり方ではいけない、と痛感しました。同じ食の仕事なのに、なぜかその中で上下関係が生まれているのはおかしい、もっと同じ立ち位置で生産者さんと仕事をしたい、と思いました」

それから、将さんはどんどん店舗展開をしていますが、『生産者、飲食店、お客さん、みんなが笑顔になれる形をつくる』ということを、徹底して目指してきたそうです。

LOCAL FAST FOODで
地域食を生活の真ん中へ

お店を通して、たくさんの方に地域食の魅力や生産者さんのこだわりを伝えてきた将さんですが、そんな将さんが抱えている新しい課題は、まだ地域食を日常の真ん中に持ってこれていないということです。

「少しずつ地域の食を見直そうという動きが出てきたのですが、”地域食を付加価値をつけて提供する” という方向に傾きすぎて、本来は日常のものであるべき地域食が、地元の方にとって価格が高くて手が出しづらいものになってしまっていることに違和感を覚えました。もっと日常に地域食を取り入れてほしいという想いの先で生まれたのが、手軽に楽しめる ”LOCAL FAST FOOD” です」

将さんの目標は、この想いを形にしてお客さんに喜んでもらい、しっかりとビジネスとして成り立たせること。そして、飲食業界のなかで ”三方よし” のスタイルが成立することを伝え、真似したくなるモデルにし、飲食業界を底上げしていくことです。

たくさんの方にこの想いを知ってもらうために、将さんはクラウドファンディングに挑戦しています。集まった資金は、地域食をより身近にするためのレシピ本制作に充てられます。「地元の人が地元の食を当たり前に知っていて、誇っている」。そんな風景が新潟に、そして全国に広がっていくために将さんの挑戦は続きます。

あなたが生まれた地域、そして暮らしている地域ではどんな食の魅力を感じられますか? いつかぜひ聞かせてもらえたら嬉しいです。

Licensed material used with permission byCAMPFIRE
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。