完売続出。謎多きブランド「urself」の正体
──6月に開催された「伊勢丹 新宿店」でのポップアップには、多くのファンが集まりました。
松坂:大阪や福岡での開催はあったものの、東京では初めてでした。だから、「やっと実物を見れました!」という声が多かったですね。嬉しい反面、歯がゆさもあります。
ただ、先ほども話した通り、自分たちの手が届く範囲を越えてしまうと意味がない。求めてもらったとしても、そこは大事にしてやっていけたらなと思っています。
──なぜ、東京より先に地方でポップアップを開催したんでしょうか?
松坂:都内は大手のセレクトショップが強い。僕たちとしては、大手よりもその街を代表するような地方のショップと一緒にやることのほうが意味がある。
個人的に、ムーブメントって地方から東京に広がるものだと思ってるんです。東京から発信して地方に広がるのが一般的に思えるんですが、僕はそうじゃないと思っていて。地方のお店が盛り上げてくれるから、東京でも「なんかあのブランドがいいらしい」という話が出てくる。
──海瀬さんも同じ感覚ですか?
海瀬:そうですね。地方の人って本当にカッコいい人が多いから。ただ、ブランドものを着てるだけじゃない。何をしてるかとか、何を知ってるかとか、そういう内面的な部分の差がすごく表れる。
「頑張って買ってくれた人を悲しませたくない」
──やっぱり、ふたりの感性って似ているんですね。
松坂:もともと、海瀬さんに色々と遊びに連れていってもらったりしていたので、自ずと感覚が近づいていったところはあります。海瀬さんがいいっていうと「これはいいものなんだな」って思ったりとか。
海瀬:作りたいプロダクトに関しても、「俺もそれ考えてた!」って合致することが多いよね。
──年齢は12歳差。店舗のない「urself」にとって、Instagramの活用はポイントですが、どのように運用を?
海瀬:僕はノータッチですね。いわゆるネイティブな世代の人たちが、どうInstagramを使っているかは全然わからない。ビジュアル作りもほぼ松坂が担当。彼の年代の人たちへのアプローチ方法は、ぜんぶ彼に任せてます。
──松坂さんにとっては得意分野?
松坂:いえ、そういう感覚はないですね。Instagramに関しては、僕もいまだに悩んだり葛藤したりする部分ではあります。
でも、海瀬さんはすごく寛容だから、色々模索しながらやっていこうって言ってくれる。これはもう昔から。そういう風に言ってもらえることは、僕の中でもすごく大きい。年齢は一回り違いますが、だからこその幅も出てくると思いますし。
──それぞれに得意な領域がある。素晴らしい関係ですね。
松坂:僕の世代がイイと思うものでも、上の世代からすると「若いな」と思うことってあるじゃないですか?でも、海瀬さんはそれがない。「若い子がイイって思うものなら、それはイイものでしょ」って。
そういう葛藤がないので、すごくやりやすいですよ。加えて「俺の世代から見るとこう見えるよ」ってアドバイスももらえます。だからこそ、「urself」が幅広い層から支持されているんだと思うんです。
──12歳離れているからこそのメリットが、かなりあるんでしょうね。
松坂:僕ひとりでやっていたら、視野が狭まって、僕より下の若い世代にしか支持されないブランドになってしまっていた可能性が高い。僕自身、すごく勉強になってます。
海瀬:お互い様だよ。
──最後にどうしても聞きたことがあります。これだけ“出せば売れる”状況が続いているにも関わらず、それをしないのはなぜ?
海瀬:松坂は松坂で「Name.」をやってますし、僕も僕で別のことをやっているから、ふたりのタイミングが合わないということがあります。決して大きなブランドではないですからね。
でもそれ以上に、安易に出してしまうと、せっかく頑張って買ってくれた人が悲しんでしまうのでは?という懸念がある。地方でイベントを開催したときにしか買えないから、みんなが喜んでくれるんじゃないかって。
──ビジネスというよりは、買う人を楽しませたい?
松坂:ムーブメントを起こしてやろう、世の中にインパクトを与えてやろうってことはまったく考えてないです。自分たちがおもしろいと思うものを、いかにみんなにおもしろいと思ってもらえるか。そこに重きを置いてやってきましたから。
Tシャツが売れるからといって大量に作ってしまうと、もし僕が買う側なら全然おもしろくない。ビジネス的な考え方をすると、おもしろさがどんどんなくなってしまうんです。
そう考えると、やっぱり今までのように、自分たちの手が届く範囲内で、円を広げずにやっていきたいですね。