完売続出。謎多きブランド「urself」の正体

直営店や卸先はない。テーマを設けたコレクション発表や展示会もない。

販売はオンラインのみで不定期。新作の発売に気づいてWEBを覗いた頃には、在庫もほとんどない。ローンチして1年3ヵ月ほどが経つが、彼らについて語られたインタビュー記事も、これまたほとんどない。

「urself(ユアセルフ)」は、どうも謎めいたブランドだ。

手がけるのは、ファッションブランド「Name.(ネーム)」のファウンダー・海瀬亮氏とディレクター・松坂生麻氏のふたり。

その正体を探るべく、「Name.」2019AWの展示会場で言葉を求めた。

「urselfは完成されたものではない」

©2019 NEW STANDARD

──「urself」は、極端に情報が少ない。

 

松坂生麻(写真左・以下 松坂):決してメディアへの露出を避けているわけではありません。でも、むやみやたらに出るというよりは、おこがましいですが、最低限は選ばせていただいています。

「urself」は、自分たちの手が届く範囲だけでやっているプロジェクト。だから、メディアに出ることも同じで、自分たちがわからない媒体で対応させてもらっても、どういう広がり方をするかが想像できないから意味がないというか。

 

──「実店舗も卸先も持たない」という戦略の意図は?

 

海瀬亮(写真右・以下 海瀬):「Name.」というブランドをふたりでやってきたのですが、またそれと同じことをやってもつまらないじゃないですか?どうせやるなら真逆のことをやりたいと松坂にはずっと言っていました。飽きたってわけじゃなく、純粋に違ったアプローチのものにしたいと。

 

──「Name.」ありきのプロジェクトなんですね。

 

海瀬:卸さない。自分たちで売る。イメージは作るけど、ファッションブランドみたいにスタイリストを立てて、毎シーズンルックを撮るみたいなことはやりたくない。松坂にそう説明したら、ちゃんと理解してくれて。

 

──とはいえ、「ウチに置かせてほしい」というオファーは多いのでは?

 

松坂:ありがたいことに、かなりオファーをいただくのですが、ぜんぶ断っています。洋服がセールになることへのアンチテーゼとか、そういうのもひっくるめて、「Name.」とは180度違うことをやりたい。

 

──実店舗がないことの難しさは感じませんか?オンラインだけで、ブランドの世界観を醸成しなきゃいけない。

 

海瀬:前提として、「urself」は完成されたものではないんです。もちろん、ものとしては完成されていますが、とても不自由なもの。サイズが2種類しかないうちのパンツって、実際に履いてみないとシルエットなんてわからないじゃないですか?それをどう着こなすかはその人次第なんです。

 

──たしかに、実店舗がないからこそ“想像する楽しみ”があります。発売する度、すぐに売り切れになるのは、その楽しみを多くの人が味わっているからかもしれません。

 

松坂:サイズ展開も豊富な「Name.」は、ときどき通販で買った方からサイズ交換の依頼がある。それはどのブランドさんでもそうだと思います。

でも、「urself」は、交換とか返品の依頼が一切ないんです。そもそもサイズが合わないというか、ないに等しいので(笑)。ブランドネームも「あなた次第」っていう意味ですし、お客さんも「自分が選んだものだから、自分なりに履けばいいよな」って解釈してくれる。

 

──イメージと違う部分すらも楽しめるのが「urself」の魅力だと。

 

海瀬:丁寧じゃないんだよね(笑)。ユニクロさんとかはサイズ展開も豊富だけど、僕らのは大きく履くか、普通に履くかの2択。

 

──でも、その“不自由さ”を意図してるんですもんね。

 

海瀬:自由と感じるか、不自由と感じるかはその人次第。それを自由だと感じる人たちに買っていただいているんだと思います。

「人生においてムダなものを大切にしたい」

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──「urself」のパンツといえば、「ANDY」や「BOB」など人の名前をつけているところが特徴的です。

 

松坂:Name.」でも他のブランドさんでも、パンツ名には「◯◯-001」のように数字がつきがちです。でも、たとえば今「iPhone 7」と聞くと、古い印象があるじゃないですか?アップデートしたことが数字でわかるのは、購買意欲をそそる一方、「モノとして残す」ことを考えると難しい。

でも、人の名前をつけると、愛着が湧くからずっと残っていく。「urself」のパンツは、履いたときに綺麗なシルエットが出るよう試行錯誤を繰り返して生み出した完成形だと思っているので、アップデートはまったく考えていません。だから数字をつける必要もない。

ひとつのものをアップデートしていく良さもあるとは思うんですが、僕らはそういう良さよりも、「一本を一生愛し続けてほしい」と思って人の名前をつけているんです。

 

──なるほど。

 

松坂:自分の大切な服を、ずっと生活の一部にして、過去のものにしない。服って本来そういうものだと思いますし。

 

海瀬:新しい型を作ることはあっても、アップデートや廃盤はないよね。

 

松坂:ブランドが何十年も続いて、何本も新しい型が生まれても、「BOB」はずっと「BOB」のまま。

 

──ちなみに、「これはANDYっぽいな。これはBOBっぽいな」って感じで名付ける

 

松坂:じつはABC順になってるんですよ。「ANDY」「BOB」「CHAD」「DANIEL」「ERIC」……今は「FREDDIE」のFまであります。

 

──じゃあ、まだまだありますね(笑)。

 

海瀬:あるかもしれないし、途中で日本人の名前になるかもしれない(笑)。

 

──(笑)。それにしても、たしかに愛着が湧きますね。

 

松坂:本当にそうですよ。少し前までは、問い合わせが「デニムありますか?」だったのに、最近は「BOBありますか?」に変わりました。みんな「BOB」といえばデニムだとわかってくれているので嬉しいですね。

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──ブランドコンセプトを背面にプリントした「CONCEPT TEE」も人気です。

 

松坂:もともとはパンツがメインだったんですが、そのイメージビジュアルをTシャツと合わせていたので、それならTシャツも出しちゃおうと。今では「urself」の看板アイテムのひとつになりましたね。ライブで買うツアーTシャツみたいな立ち位置になればと思っているので、お土産感覚で買える価格設定にしています。

 

──スリッパや石鹸、バスタオルなど、アパレル以外の小物も展開しているのはなぜ?

 

海瀬:単純に、「洋服」と「小物」ってジャンルを分けてないんです。ただ自分たちが欲しいものを作ってるだけ。

 

松坂:海瀬さんとはもう10年くらい一緒にやってるんですが、ふたりが盛り上がる話題って、「人生においてはそれほど必要のないムダなもの」だったりするんですよ。

海瀬さんはすごく多趣味で、色々なことを知っている。なんかその姿が楽しんで見えるというか、豊かに見えるというか。それにすごく影響されて、カッコいいものとか流行るものだけじゃなく、面白くて笑えるムダなものを作りたいと思うようになりました。

 

海瀬:でも、本当に売れないものもあるよね。靴箱とか(笑)。

 

松坂:海瀬さんにダメと言われても、これだけは絶対に作ろうと思ってたんです。相談してみたら、「めちゃくちゃいいじゃん!」とふたりで盛り上がって。見た目も可愛いし、僕たちの中ではマジでいいモノができた!と思ったんですが、全然売れないですね(笑)。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。