史上初めて、チェスで人間が「機械」に敗れる

何気ない一日に思えるような日が、世界のどこかでは特別な記念日だったり、大切な一日だったりするものです。

それを知ることが、もしかしたら何かの役に立つかもしれない。何かを始めるきっかけを与えてくれるかもしれない……。

アナタの何気ない今日という一日に、新しい意味や価値を与えてくれる。そんな世界のどこかの「今日」を探訪してみませんか?

史上初めて、チェスで人間がAIに敗れる

チェスは知性をはかる資金石である。

ドイツの文豪ゲーテがのこした言葉です。物事を知り、考え、判断する「知性(=intelligence)」という能力。それがもっとも現れるゲームとされるチェス。

哲学の時代から、人間たるゆえんとされてきた「思考の深み」。それが根底から覆される出来事が、ちょうど25年前の今日ニューヨークで起きました……。

1997年5月11日。史上最強のチェス世界チャンピオンとスーパーコンピューターによる9日間に及ぶ戦い(6番勝負)の末、史上初めて人間が敗北した日です。

戦いに挑んだのは、当時15年ものあいだ世界チャンピオンのタイトルを保持し続けた、史上最強の“チェス王”ガルリ・カスパロフ。対するは、「IBM」が威信をかけて送り込んだスーパーコンピューター「ディープ・ブルー」。

世界最高速の計算スピードを誇るモンスターマシンは、人間が1秒間にわずか2〜3手しか読めないのに対し、じつに2億通りの手を読むことができました。

それでもおおかたの専門家はチェス王の勝利を予想。しかし、ディープ・ブルーが19手目を投じたところでカスパロフが投了。決着はわずか1時間足らずだったそうです。

チェス公式ルールにおいて、史上初めてコンピューターが人間に勝利。その報道は、一夜にして世界を駆け巡りました。

「(勝たなければいけないという)プレッシャーに押しつぶされた」。試合後のインタビューでこう語ったカスパロフ。「朝日新聞」はこれを「重圧に人間が負けた」と報じました。

ディープ・ブルー開発のため、IBMの科学者たちは12年の歳月を費やしてきたそうです。機械が人間の知性を乗り越える。この勝利は、たんなるコンピューターの1勝というだけでなく、20世紀科学の転換点を象徴する出来事となったのです。

ディープ・ブルー衝撃的な勝利から25年。チェスをはじめ、囲碁や将棋の世界においても近年、人工知能(AI)が人間を撃破するニュースをたびたび目にするようになりました。

いまやAIは人々の生活の隅々まで浸透、テクノロジー進化のスピードは本来それを使いこなす側の人間の思考までもを上回る速度だったりします。

この先、はたして人間は「知性」や「誇り」を保ち続けることはできるのか? そこにディストピア的な未来を想像してしまう人たちも少なくないはずです。

その解決策のカギとなる発言をしている人物が、2017年「TED Talk」に登壇しました。人工知能との戦いに敗れた男。そう、カスパロフです。

自己の恐怖心との向き合いかた、困難で不確かな世の中におけるテクノロジーとの付き合いかた。そして、人間と機械との決定的な違い。

敗戦の味を知る彼だからこそ見出した答え。必見です!

© TED / YouTube
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