いま、世界が注視するダライ・ラマ「後継者問題」
何気ない一日に思えるような日が、世界のどこかでは特別な記念日だったり、大切な一日だったりするものです。
それを知ることが、もしかしたら何かの役に立つかもしれない。何かを始めるきっかけを与えてくれるかもしれない……。
アナタの何気ない今日という一日に、新しい意味や価値を与えてくれる。そんな世界のどこかの「今日」を探訪してみませんか?
ダライ・ラマ14世が生まれた日
「中国は、ダライ・ラマの生まれ変わりを非常に重要視している。私よりも次のダライ・ラマに関心があるようだ。場合によっては将来、2人のダライ・ラマを目にする日が来るかもしれません——」。
2019年3月、自身の後継者問題についてダライ・ラマ14世は、通信社「ロイター」の取材にこう答えました。
チベット仏教において“観音菩薩の化身”とされる最高指導者は、今日、7月6日で米寿(88歳)を迎えます。
11年前に政治的立場からの引退を表明はしたものの、いまなお精力的にチベット仏教文化や、平和と非暴力の精神を保全するための活動を世界中で行なっています。
それでも年齢を重ねるとともに、後継者選びについての話が次第に多く登場するようになってきました。ダライ・ラマ15世を名乗るのは誰か? そして、冒頭にご紹介した「2人のダライ・ラマ」の可能性とは?
今朝は、知っているようで知らないダライ・ラマの後継者問題について深ぼっていきたいと思います。
そもそもチベット仏教では「輪廻転生」の概念に基づき、前任者の死をもって生まれ変わりとなる後継者となる人物を探すしきたり(転生活仏制度)があります。現在のダライ・ラマも2歳のときに14世として認定され、1940年に即位しました。
ただ、転生活仏制度に対し、ダライ・ラマ14世は「廃止するべき」との見解を過去に示しています。いまや制度は、政治的に使われるようになってしまったから、という理由から。
これに対し、「絶対に認めない」と反発しているのが中国政府。
1950年にチベットを管理下においた中国政府としては、ダライ・ラマ15世を自ら擁立することで、チベット統治に活用したいという思惑があるのでしょう。
というのも、中国の指導者には皇帝から継承した権限の一部として、ダライ・ラマの後継者を承認する権利がある。とするのが中国の立場だから。
“危険な分離主義者”と非難する現ダライ・ラマの影響力を15世へと引き継がせるわけにはいかないといった姿勢から、転生制度の継続を支持し、15世の擁立を望んでいるのかもしれません。
ところで、チベット仏教には最高位の指導者としてのダライ・ラマと、それに次ぐ地位のパンチェン・ラマが存在します。ともに前任者の死をもって後継者として選出されます。
このパンチェン・ラマですが、じつは27年前にダライ・ラマ14世によって認定されたものの、当時6歳だった少年(本名ゲンドゥン・チューキ・ニマ)は任命から3日後、中国当局によってニマの家族もろとも連行され、以来、行方不明のまま。
そして、中国は別の少年(チベット自治区嘉黎県出身のチベット族の僧ギェンツェン・ノルブ)をパンチェン・ラマ11世に指名しました。
こうした経緯を受け2019年、世界に散らばる亡命チベット人の代表を集めた特別会議が開かれ、継承のあり方はダライ・ラマ本人が決めるとする決議を採択。中国による介入を明確に拒絶しました。
ダライ・ラマ自身も後継者選出について、混乱を避けるため生前の継承者指名の可能性も示唆しています。ちなみに、中国政府と亡命政権による正式会談は、2010年を最後に行われていません。
転生制度、そして後継者問題——。いまやチベットと中国だけの問題だけではなく、世界の民主主義が注目するところ。
2011年、政治の表舞台から身を引いたとき、400年に及んだ政教合一(政教一致)の伝統もまた終焉を迎えました。自らの意思と信念で改革を起こしてきたダライ・ラマ14世。その数奇な運命と志を受け継ぐ人物は、いつ、どのように誕生するのでしょうか。