45歳9か月。中年の星が見た「夢」
何気ない一日に思えるような日が、世界のどこかでは特別な記念日だったり、大切な一日だったりするものです。
それを知ることが、もしかしたら何かの役に立つかもしれない。何かを始めるきっかけを与えてくれるかもしれない……。
アナタの何気ない今日という一日に、新しい意味や価値を与えてくれる。そんな世界のどこかの「今日」を探訪してみませんか?
ジョージ・フォアマン
史上最年長のチャンピオンに
試合開始から速いジャブをついて、的中率でリードしてきたマイケル・モーラーの足取りがだいぶ鈍くなってきた……。
<9R>
インサイドに入ってきてジャブからのクリンチでしのぐ
前に来るタイミングで右リードを出す“ビッグ”
モーラーもジャブからの左ボディで応戦
<10R>
モーラー、ジャブと相打ちの右を被弾してよろける
ダッキングするが返しの左をもらい動きが止まる
チャンスと見るや一気に距離を詰める“ビッグ”
クイックなワンツーでふらつくモーラー
ガードの外からの右がモーラーの顎を捉えた
大の字にダウン、そのまま10カウント
歴史がつくられた瞬間です。
1994年11月5日、WBA・IBF世界ヘビー級王者マイケル・モーラーとの一戦に勝利した“ビッグ”こと、ジョージ・フォアマン。劣勢のなか10Rの劇的な逆転KOで、20年ぶりにヘビー級王座への返り咲きを果たしました。
一度は引退するもカムバックを果たし、再び手にした世界王者のベルト。45歳9か月での載冠は、当時の史上最年長記録。
「象をも倒す」と呼ばれた強打はもうそこにはなかったかもしれない。それでも、百戦錬磨の元チャンプは足に根が生えているかのような驚異的なタフネスで、虎視眈々と好機を狙っていたのかもしれません。
勝利に沸く観客やセコンドの喧騒をよそに、戦い終えたばかりのフォアマンはひとりコーナーにひざまづき、静かに神に祈りを捧げていました。
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24歳にして頂点に立ったフォアマンでしたが、25歳のときモハメッド・アリとの一戦に敗れると(俗に言う「キンシャサの奇跡」)、2年後ボクシング界からこつ然と姿を消しました。
やがて、誰もが想像しなかった彼を見ることに。フォアマンは自ら教会を立て、伝道師となったのです。
ボクサーから伝道師への劇的な転身。再起はないと多くのファンが諦めていたなか、彼はふたたびリングへと戻るのでした。背景にあったのはやはり、自身「人生最大の敗北」と語るアリとの試合。キンシャサで失ったものは、タイトルだけではなかったのです。
失ったもうひとつの“自我”を取り戻すべく、再びリングに上がり、伝道師からもう一度ボクサーへと、40をとうに過ぎた自らの肉体に鞭を打ったのでした。
アリ戦と同じ赤いトランクスで一戦に挑んだフォアマン。そして……モーラーの顎を撃ち抜いた1発。アリに敗れた元チャンピオン、20年の呪縛から解き放たれた10カウント。試合後、オールドマンはこうつぶやきました。
「とうとう幽霊を追い払ったよ」
72歳になった現在、ヒューストンのキリスト教会で牧師として、また地域の駆け込み寺として機能するユースセンターでの活動を続けながら地域の若者たちを導いているそうです。
ちなみに、4つ所有するユースセンターのうち、2つには70年代ヘビー級黄金期を築いた2人のライバルモハメド・アリとジョー・フレイジャーの名前がつけられているんだそう。
恵まれた体格だけでなく、人間としての魅力も人一倍“ビッグ”なフォアマンのご紹介。止めどなく長くなってしまったことをお許しください。