都市が生み出す「光害」の影響が明らかに。海洋生態系に危機
「公害」といえば、ガスや放射能など、人体にも有害な科学的な産物が思い浮かぶだろう。
だが、本来は生物にとって必須の「光」すら、人間の手にかかれば自然への負荷になってしまうようだ。例えば、キラキラと輝く夜の港湾都市。
美しくて魅力的、人間にとっては星が見えない程度の影響だが、海中の生物たちにとってはそうではないらしい。
イギリスの海洋研究所「Plymouth」が昨年発表したレポートによると、都市付近の海の生態系は、人口の光によって危機に晒されているという。
周知の通り、自然界において、あらゆる生物は時間や季節に伴う太陽と月のサイクルに基づいて生活している。
ところが、本来は暗いはずの夜間に人工的な光が照らされることで、様々な生物が混乱し、生殖能力を低下させていることが明らかになった。
特に顕著なのがサンゴだ。
彼らは月の周期を手がかりに配偶子を放出したり共生関係を築いたりしているが、人工照明が夜間を照らすことで、これらが乱されてしまうらしい。
また、人工の光はウミガメの子どもの方向感覚を狂わせ、海への到達能力を下げることが明らかになっている。
その他にも、本来は暗闇とカモフラージュにより夜間は安全なウミタナゴのような生き物が、人工の強い光によって生存の危機に陥る、プランクトンなどの光に敏感な生物が海域から遠のいてしまう……など、都市の光はあらゆる生物に悪影響を与えているのが分かる。
さらに、人工照明のスペクトルは自然光とは構造が異なるうえに光量も月光の約6倍と強いため、視覚的な混乱も招いており、都市付近の生態系が大いに乱れていることは言うまでもない。
こうした影響は、世界で190万平方キロメートルの海域に及び、これは沿岸国の排他的経済水域の3.1%に匹敵するそう。特に影響が大きかったのは、ロサンゼルス、ニューヨーク、ブエノスアイレス、上海、ムンバイの沿岸海域。潮の満ち引きや水の透明度なども関係しているという。
人工の光が光(公)害になり得る──。
少し考えれば必然的に思えるが、意外にもこのような研究はあまりされてこなかったそう。理解が進めば、沿岸の開発と生態系の保護を両立させるための手引きとなるはずだ。
まだ認知度の低い「光害」だが、情報が広がり、抑制に向けた動きが活発になることを期待したい。