マンガ家タナカカツキ氏が語る「ネイチャーアクアリウム」の世界【後半】

水槽の中で、自然の生態系を再現するネイチャーアクアリウム。水草、魚、流木、石などをレイアウトしたビジュアルは、想像を遥かに超える。独特な世界は、美しいだけでなく、改めて自然の重要性を再認識させてくれる。

その歴史において、パイオニアとして活躍したのが天野尚(あまのたかし)氏。生涯をかけて、自然保護に注力した同氏は、ADA(アクアデザインアマノ)の創業者でもあり、著名な写真家という顔も持つ人物だ。

現在、東京ドームシティのGallery AaMo(ギャラリーアーモ)において開催されているのは、「天野尚 NATURE AQUARIUM展」だ。果たして、ネイチャーアクアリウムとは一体何なのか?今回、その魅力を探るべく、天野氏に影響を受けたマンガ家のタナカカツキ氏と本展示会の担当者である源田宏人氏にお話を伺った。

タナカカツキ マンガ家

1966年大阪生まれ。1985年マンガ家デビュー。
著書には『オッス!トン子ちゃん』『サ道』、天久聖一との共著「バカドリル」などがある。カプセルトイ「コップのフチ子」の企画原案。水草レイアウトの魅力にはまり、2013年『水草水槽のせかい すばらしきインドア大自然』を刊行。2016年には世界水草レイアウトコンテスト4位に輝く。

ユニークな審査基準

「ネイチャーアクアリウム」

©2017 AQUA DESIGN AMANO CO.,LTD.

――コンテストの話に戻しますが、水槽内の生態系が整っているかって何を基準にしているんですか?

タナカ 審査基準というのがありまして、生態系を見られる審査員がいるんですよ。水の状態を見られるんですね。なので、植物があるべきところにあるか、をちゃんと見ている。この植物がこんなところにあったら育たないよ、とかね。

――レイアウトってことですか?

タナカ その通り、レイアウトですね。「棲息環境の再現」と言うんですが、自然素材がちゃんと配置されているか、その生き物との相性がちゃんと合っているか、っていうような自然科学的な目でチェックするんです。全部で6項目あるんですが、それが1つ目です。 

「ネイチャーアクアリウム」

©2017 AQUA DESIGN AMANO CO.,LTD.

――他にはどういう項目があるんですか?

タナカ あとは「長期維持の可能性」「技術力」「オリジナリティと印象度」「自然感の演出」「構図と水草の配植」などですね。どれだけつくり込んだり、大ざっぱにやっているか、その作家の作風が様々な視点からチェックされて採点されるんですね。

――審査基準って、毎年少しずつ変わったりするんですか?

タナカ 変わったりするんですよ。面倒くさいでしょ?

――変わるんですね。

タナカ 例えば「棲息環境の再現」は、昔はなかったんですよね。なかった頃は、アリゾナの砂漠とかを表現する作品が出てきたんです。要は、水草でサボテンをつくっちゃうんですよ。水草をカットしてサボテンをつくって、アリゾナの砂漠。もうめちゃ面白いんですけど。

――発想がユニークですね。

タナカ でも、そういうのは嫌いな審査員がいるんですよね。目指しているのは、ネイチャーアクアリウムなので。自然だけれども、これ生態系整っているかな、みたいにね。本物の自然を見過ぎた人にとっては、アリゾナの砂漠を水槽の中でやることにすごい違和感を感じるのでしょうね。僕らはすごい面白いと思うんですけど。表現が自由だなと思うんですけど。ネイチャーアクアリウム信奉者は、そういうの嫌いなんですよ。

他にも、世界にも水草のコンテストっていろいろあるんですが、ADAがやっているのはそういうスタイルですね。だから、アリゾナみたいのをやりたい人は別のコンテストに提出してたりします。

独自なスタイルを
築き上げた天野尚氏のこと

「ネイチャーアクアリウム」

タナカカツキ  世界水草レイアウトコンテスト2013 優秀賞
(世界ランキング16位)「Grand View☆」
© AQUA DESIGN AMANO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

――天野さんとタナカさんは、師弟関係なんですか?

タナカ 師弟関係じゃないですね。僕はファンですね。ファンというのもアレですけど、すごい影響を受けた方ですね。

――どんな方だったんですか?

タナカ 僕がネイチャーアクアリウムを知った時、誰が作っているんだろうっていうところから、やっぱりADA、その頭領が天野さんということを情報として知りましたので、いろんな水草水槽が世の中にあったんですけど、やっぱり一番作品が面白いんですよね。それも圧倒的に面白いんですよ。

――面白い?

タナカ はい。それで、他の作家もいろいろあるんですよ。水草専門の水槽作家って、世の中でいっぱいいるんですけどね。天野さんのつくったものが、圧倒的に面白い。

「ネイチャーアクアリウム」

タナカカツキ  世界水草レイアウトコンテスト2014 優秀賞
(世界ランキング13位)「原生のうねり」
© AQUA DESIGN AMANO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

――それは、圧倒的に美しいじゃなくて、面白いなんですか?

タナカ 面白いですね。考え方も面白いし、水槽の中に流木とか石を入れるという発想自体が、そもそもそれまでなかったんです。

――そうなんですか。天野さんからはじまったんですね。

タナカ 考えられないことですよね、枯れた木が水槽に入ってる。流木っていうのは、ゴミですからね。それが、美しく配置されているというのは初めてなんですよ。まず、石は水槽に入れないんですよ。あんな大きい石、そもそも売ってなかったですからね。でも、現在では、流木とか、石とかを売るようになりましたけど、天野さんがやりはじめた時は、相当な違和感があったと思います。水槽に流木や石を入れるって気が狂ってましたよね(笑)。だって、普通、アクアリウムといえばお魚の飼育ですからね。

水槽に水草を植えるだけでも変わっているのに、さらに大きい石と流木入れるって、相当オカシイですよね。そこで、天野さんは、スタイルをつくられていったんですよね。要は、やっぱり、水槽をキャンバスだと捉えていたということなんですよ。そんなふうに普通、捉えないですよね。水槽というものは、あくまで飼育するものだったんですから。

タナカカツキ

でも、それだけで終わらないんです。天野さんは、水槽の写真を撮ったりしてましたから。それだってかなりオカシイです。そもそも、誰も水槽の写真なんか撮らないですから。魚は撮るけど、水槽の引きの写真っていうのは、普通は撮らないですよね。それで、写真を撮って、また、タイトルまでつけるんですよ。もう、ほぼほぼ、気が狂っている人ですよ。

でも、そういった奇人のスタイルが、どんどん浸透して、だんだん当たり前になっていって、フォロワーができて、みんなやり出すっていうのは、相当なことじゃないですか。そういうことも面白いですし。

まず、これまで水槽の中で、水草って育たなかったんですよ。溶けていくものだったんですよ。80年代までは、溶けていっていた。ついこの間まで、水槽の中で水草は育たなかったんですよ。

僕が小学生の頃、水草なんか育たないんですもん、そもそも。買ってきて、溶けて、買ってきて…水草っていうのは、消耗品として売られていたんです。でも、90年代に天野さんが水槽の中に二酸化炭素を添加することを一般化させた。二酸化炭素を入れたら、植物が育つんじゃないかっていう発想なんですよね。

――ほー、そうなんですね。 

「ネイチャーアクアリウム」

タナカカツキ  世界水草レイアウトコンテスト2015 優秀賞
(世界ランキング8位)「源流をたどる」
© AQUA DESIGN AMANO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

タナカ でも、当時は、二酸化炭素は、つまりはガスですからね。ガスを水槽に入れたら生き物もバクテリアも死んじゃうって皆んな思っていたので、そんな馬鹿げたことはしなかったんですよ。で、二酸化炭素ですが、そもそもどうやって入れるのかというと。その頃は器具もないですからね。それで、天野さんがやったのは、スナックにあった炭酸水。その炭酸水を入れたんですよ。

――えっ、水槽に?

タナカ はいっ、水槽に!そのアイデアは、スナックで飲んでいる時にひらめいたんですって!(笑)。「この水、二酸化炭素だよね」と。それで、お店から半ダースほど譲っていただいたらしいんです。それで、早速家に帰って、水槽にドボドボ入れたんですよ。そしたら、水草が光合成をはじめたらしいんですよね。

で、二酸化炭素を水槽に添加すると、水草が育つんじゃないかということで、器具をつくり出したんですよ。その器具を作るために、借金してつくるんです。その頃、天野さん、競輪選手だったんですよね。

――ちらっと何かで読みました。高校時代からやられていたんですよね?

タナカ そうなんですよ。競輪選手で、その賞金を二酸化炭素の器具を開発するために使っていて、でも、それでも足りないから借金して。それで、ついに器具を完成させるんですよね。その時、税理士から「こんなに趣味にお金使っていたら税が払えない」ということで、アクアショップにしたらしいんです。

ショップをやると、経費になるのでね。それで、ショップオープン!そういう経緯も面白いなと。天野さんは、全てにおいてのパイオニアなんですよね。 

「ネイチャーアクアリウム」

©2017 AQUA DESIGN AMANO CO.,LTD.

プロトタイプのアイディアは
ビールサーバーから

「ネイチャーアクアリウム」

©2017 AQUA DESIGN AMANO CO.,LTD.

タナカ 酸素を入れるのは何となく分かるけど、二酸化炭素を水槽に入れるという、その逆の発想で生態系をつくるというのは、ものすごい。こんな面白いことが歴史としてあったのに、自分は全然知らなかったなと思って。

もう90年代はコンピューターに夢中になり過ぎていて、自然の原理と、生物と植物を部屋に持ち込んで維持できるなんてね…。「そんなんができるんや!」ということを知ったのも驚きですし、さらに、それがコンテスト開催にもなってきたんですよね。

――ある意味では、天野さんがいなければ、もしかしたら「世界水草レイアウトコンテスト」はなかったと?

タナカ そうですね。コンテストどころか、水草だって育ってないですね。部屋の中で、植物が光合成をして、光合成って目に見えますからね、水の中って。

――さっき見えました。泡が葉っぱの周りについていて。

タナカ 生き物を部屋の中で育てて、生態系を作れるということが、今、できるんですよね。そういったことも天野さんがいなかったら、多分、できてないかもしれない。でも、そういう歴史をつくったんですよね。

でね、自然科学的なこともそうなんですけど、それを絵として捉えるというところが、やっぱり面白いところでして。もともとは、お絵描き少年だったんですよ、天野君っていうのは。

――写真をやる前ですね?

タナカ そうですね。まあ、カメラが買えなかったというのもありますけれども。自然を見て絵を描いて、図鑑を見てという子供だったんですよね。水槽を絵として捉える、デザインとして捉える、ということを徹底的にやって、世界まで拡げていった人なんです。

――今までのお話を伺うと、ネイチャーアクアリウムは天野さんが仕掛けたということなんですか?

タナカ そうです。でも、もちろん、その下支えになった研究者なり、器具メーカーなり、いろいろな周りが固まってきたというのも大きいんですよ。新潟なので、ステンレスとか、ガラス製品が得意な職人がいるわけですよ。もし、新潟じゃなかったら、ああいう器具も完成していないかもしれませんね。

さらに、二酸化炭素を添加するときに、二酸化炭素をどうやって手に入れて、それを流通させるかというのは、アクアメーカーでは考えられないことだったんですよね。でも、たまたま、嫁というのが酒屋の娘なんですよね。

酒屋というのは、ボンベがあるんですよね。ビールサーバー。あれは、ガスなんですよ。あれを小型化して、販売することになったんですね。周りにいろいろと環境が準備されていったというかね。そういったことも面白いですよね。

ネイチャーアクアリウムの
背後にある自然保護への想い

「ネイチャーアクアリウム」

――YouTubeに「天野尚とネイチャーアクアリウム」という7分くらいのショートフィルムがありますよね。あれを拝見したんですけど、自然の重要性とか、死の川を取り戻すというような気持ちが、すごく、伝わってきたんですけれども、やはり、彼の中にはそういう想いが強くあったんだなと。

タナカ 新潟で生まれ育ち、自分の遊び場が鎧潟(よろいがた)という、かつて新潟では二番目に大きな潟で過ごした思い出があるんでしょうね。当時、子供たちは、おもちゃがなくても自然で遊べていた。魚はいっぱいいるし、虫や小動物もいっぱいいる。子供からしたら、パラダイスですよね、

それが、開拓でなくなっていくということを経験されたわけじゃないですか。その想いはかなり強かったみたいですね。その後、天野君は自然保護運動に意識が高くなっていくんです。だって、高校生なのに、新潟県で行われた自然保護運動の第1回目のパネラーですからね。

――へえ、そうだったんですか。

タナカ その頃から、何かあったんじゃないですかね。遊び場を奪われた子供が大きくなって、技と財を手に入れて、戻していくというのがストーリーがあるんですよね。

――面白い。

タナカ それで、人生の後半、天野さんは佐渡や南米など海外も含めて、いろいろな現場へ訪れるようになるんです。でも、次の日には、破壊されて、もうないところもあったらしいんですよ。そういうものを目の当たりにして「人は、本当に愚かだな」と。何度も、そういうことに対面されたんでしょうね。それで、多分、想いを強くされたんだと思います。

「自分が遊び場を失ったことが、今、地球規模で起こっている」と。現場で、肌で、感じたんだと思うんですよね。また、写真の持つ情報量、インフォメーションの力。やはり、写真家である自分自身が、写真の力を通じていく使命を感じながら写し続けてきたと思うんです。 

鴨川に戻ってきた
魚や虫や鳥

タナカカツキ

――なるほど。その意志みたいなものは、タナカさんも受け継いでいたりするんですか?

タナカ いや、僕は都会っ子なので、全く分からないですね。コンピューター大好きですから。

――タナカさんは大阪出身でしたよね?

タナカ そうですね。工場地帯で生まれ育ったのでね。僕にとっては、工場の部品がパラダイスだったんですよ。僕の田舎では、土を掘ったら、産業廃棄物が出てきてたんですよ。穴を掘ったら、いろいろな種類のバネとかいっぱい出てくるんで、ひゃあ!ってなって、それが僕パラダイスだった。

天野さんとは、真逆なんですね。だから、自然保護というのは、社会的に必要とは思いますけど、僕の中では、人生としては、そんなにはつながっていなくて、倫理的に頭で分かっている世界なんですね。僕は、現場にも行ってないですし、ファインダーも覗いていないんで。天野さんは、僕ができないことをやるし、いろいろな情報も持ち帰ってくれるので、そうなのかとか思って聞いていましたけれども。

――いろいろお話されたんですね?

タナカ はい。また、写真から伝わってくることもありますよね。最初は、原生林の写真をずっと撮って来られましたけど、後半になると、人と自然が共生する姿の写真になっていくんですよ。そのあたりも非常に面白いですよね。

後半は、里山ですよね、撮っているの。新潟の田んぼだとか、人と自然が交わっているところにカメラを向けて、美しく撮っている。そのとられた風景は開発で姿を変えてしまったところもある。天野さんは里山をまた元の姿に戻せるように、大型のフィルム、ものすごい情報量で写真を残そうとしたのかもしれないですよね。

――僕も、同じような経験があって、ナナオサカキさんっていう、ヒッピーの長老だったみたいな方が、長野の大鹿村ってところに住んでいて。そこへ訪れて、山を見ていたんですけど、すごくキレイなんですよね。でも、実は、あれは人の手が加わった、植林された世界なんだよ、なんていう話を聞いたりして驚いたことを思い出しました。

タナカ そうなんですね。最近、週1で京都に行くんですけど、鴨川、今、むちゃキレイなんですよ。僕は、30年前に京都住んでいたんですけど、むちゃ汚かったですよ、鴨川って。でも、今、めちゃキレイなんですよ。ちょうど、三条とか四条あたりにも、もう小魚いっぱいいるし、虫がいっぱいいる。また、鳥が戻ってきてもいるんですよね。

――鴨川って、キレイなイメージがあったんですけど、昔はそんな汚かったんですか。

タナカ 汚かったですね。

源田 なんでキレイになったんですか?

タナカ 多分、徹底的にやったんだと思います。

――生態系を戻すっていうことをですね?

タナカ そうですね。もう、人も入れないようにしてましたから。当時は、僕らが、川で遊んでいたら、怒られましたからね。川に入るなって。あれは守っていたんでしょうね。人を川に入れないようにして。今、すごいキレイなんですよ。それで、水草もバンバン、今、生えているんですよね。

東京では、多摩川ですよね。多摩川もめちゃキレイになってますよね。水草もあるし、アユだっているじゃないですか。

水槽の中の
自然に触れる意味

「ネイチャーアクアリウム」

――「水槽の中でもできるんだから、自然界だったらなおさらできる」天野さんがショートフィルムで言っていたことが、実現されつつあるということですよね?

タナカ そうですね。徐々に実現されつつあるんでしょうね。そうやって、生態系が出来上がるという手応えを、僕らはなかなか都会では感じられない。都市の生活の中だったら、ほぼ無理じゃないですか。生態系とか、あの図とか、頭の中の世界ですよね。でも、水草をいじっていると手や目で手応えとして体験できるんですよね。

都市の中でそれができるって、ちょっと病みつきになっちゃうというか。水がキレイになるんですよ、昨日よりも。大体、水って汚くなるものじゃないですか。でもその目の前の水がキレイになるんですよね。

昨日の濁りが取れてる。どんどんどんどんキレイになるという体験ができるのは面白いですよね。相当なゲーム感覚というか。リアルゲームというか。だからこれ、皆んなが、はじめたらすごくなると思っているんですよ。

――ネイチャーアクアリウムを通して、どういうことを伝えたいですか?

タナカ まずは、作品の素晴らしさですよね。毎年、コンテストで素晴らしい作品がバンバン出てるんですよ。でも、目にする機会がないというか、その世界を知っていると人との情報の断絶が凄まじくあると思うんですよね。

これだけ情報がいっぱいあるのに、なんでこんなに面白いトピックスに飛びつかないのか。見た目も分かりやすいですし、誰でもできるし、楽しめる強力なコンテンツなのにね。だって、水槽で生態系のシミュレーションができるんですよ。相当面白い遊び道具だと思うんですよね。

――デジタルの世界なんかよりも?

タナカ ええ。デジタルな世界の楽しみって、世の中に溢れているじゃないですか。でも、ほとんどが、何かを代用するようなアプリケーションですよね。

――と、言いますと?

タナカ 感覚とか。感覚の気持ちよさをデジタルのゲームで体験するということですよね。

――この間、MUTEKというイベント行って、最新のARのゲームをしたんですけど、結局は代用ですよね。自分は宇宙に行けないんだけど、その宇宙で、敵に向かって撃って倒していく。撃ったらそのバイブレーションが手元のリモートコントローラーを伝わってくるんですけど、あの感覚は、代用そのものでした。

タナカ 感覚を遊ぶ代用として、ゲームというのがあると思うんですよ。それは、都市の中でリアルな体験をするのは、ちょっともう無理だな、という前提があるからだと思うんですよね。

――そうですね。僕の小さい頃は、まだ、自然界で遊んだりしていたんですけど、今の子供たちとかって、遊ぶにしても周りはコンクリートだらけ。東京にいると、自然の中で遊ぶ機会とかってすごく減っているじゃないですか。

タナカ 少ないですよね。

――水槽の中であっても、自然と本当にふれ合える。そういった意味でも、大きな意味があるのかなと感じています。

タナカ 魚を飼って終わり、じゃなくて、水草がその中で育つことを知ることができる。生き物って、死に向かいますよね、水も汚くなっていくし。でも、今は、再生するということを目の当たりにできるようになった。これができるというのは、すごい画期的なことが行われているなと思うんですよ。

――そうですね。それを知る、知らないで、大人になっていくというのは、全然違う感じがしますよね。デジタルだけで育つと、結局は、用意されたものでしか遊ぶことができないということにもなる気がします。

タナカ もちろん、その面白さもあるんですけどね。デジタル表現大好きですから。でも、やっぱり毎日手がリアルにビショビショになるってのは面白いんですよ。

生きたアート展という
画期的なコンセプト

「ネイチャーアクアリウム」

――源田さんに、お伺いしたいのですが、今回のネイチャーアクアリウム開催に至った経緯を教えてください。

源田 このギャラリーアーモは、この春にできたばかりなんですよ。4月に開業したんですが、次々にネタを仕込んでいかなければならない。東京ドームシティというのは、野球、プロレス、コンサート、遊園地などエンターテインメントのバリエーションは豊富なんです。

でも、意外と知的好奇心を持ったような20代、30代の層にはあまり訴求できていなかったかもしれないというのがありました。それでギャラリーとして、ここから新しいアートとかカルチャーを発信していく場をつくろうという経緯もあって、ここが誕生したんですね。

ネイチャーアクアリウムは、第5弾の催事なんです。いろんなネタを探していく中で、これまでは流行りのプロジェクションマッピングだとか、アニメの原画展とかをやってきたんですが、他のギャラリーがやっていないようなことをやってみたかったんです。

――なるほど。確かに他のギャラリーではやってそうにないですよね。

「ネイチャーアクアリウム」

巨大ネイチャー水草ウォールを
はじめとして見どころが満載

「ネイチャーアクアリウム」

――ずばり、見どころはどんなところですか?

源田 今回、具体的に言うと、特別にADAさんに作っていただいた「巨大ネイチャー水草ウォール」です。あれは、照明も含めると高さがかなりあるので、ADAさんの作業場の天井をぶち抜いてつくっていただいた大作なんですよね。

――ぶち抜いたんですか?

源田 はい。天野さんは水槽だけにとどまらないで、壁側にも水草が自生しているものを再現したかったらしいのですが、その意志を継いで、今回、ADAさんのスタッフもつくりたいという声がありまして、実現しました。おそらく素人の方が見ても、圧倒されると思うので、是非、見ていただきたいですね。

――壁に草を固定して、それで水を循環させて、育っているんですよね。

源田 そうです。

――制作期間としてどれぐらいかかっているんですか?

源田 7月くらいから正式にお話をさせてもらっていますが、多分、6月くらいから動いていただいていると思います。

――あの壁は、すごいですよね。

タナカ すごいですよね。最近、ああいう垂直に組まれた植物を街中で見かけるようになりましたけど、全部、水草っていうのは、おそらく世界初なんじゃないですかね。

――世界初なんですね。

タナカ 世界初ですね。

源田 この展覧会が終わっちゃうと行き場がないということで、壊しちゃうという話になっているんですけど、すごくもったいないなと思っています。

――そうですね。売り出せばいいんじゃないですか?

源田 なるほど。専門的なメンテナンスが必要ですが、ホテルのロビーとかに、すごくいいと思うんですけどね。 

「ネイチャーアクアリウム」

――他の見どころはありますか?

源田 そうですね。「世界水草レイアウトコンテスト」が、たぶんウェブ以外では、初めて掲出されるものだと思うんです。それで、ああいった文化があるんだよというところも知っていただきたいですし、もちろん、別注カメラで撮影した写真は、写真の知識がない人が見てもすごい美しいものだって思います。

天野さんが切り取った写真の構図と、水槽の中の生態系の構図が、どこかリンクしているのを感じて欲しいです。

――なるほど。その意味でも、写真の展示をされたという意図があるんですね。

源田 はい、そうです。やっぱり写真があって、水槽があって、といった全てが紐付いているのがポイントなんですよね。何よりも、天野尚さんという方がいらっしゃったということを皆さんにもっと知って欲しいですね。

タナカカツキ氏出演の
トークショーは12月9日(土)

「ネイチャーアクアリウム」

――実体験できるプログラムもありましたよね?

源田 はい。ADAの水景クリエイターの方が、ビギナーズワークショップというカタチで、ネイチャーアクアリウムの流木をどのように配置するかとか、石組み、石をどういうふうに置いていくかというのを語っていただけるような機会を設定しています。

あとは、タナカさんもご出演されるトークショーがあります。

ーー12月9日の土曜日でしたよね。当日、タナカさんから、どんな話が飛び出してくるのか、非常に楽しみです。

若いお客さんも多いですよね。新しいデートスポットとしても?

源田 アリだと思います(笑)。

タナカ あっ、見どころに関して、もう1ついいですか?

――もちろん。

タナカ 生きたアート展というだけあって、よく観察するとですね、水槽が次の日に違うんですよね。

――じゃあ2回来る価値はあると(笑)?

タナカ 毎日です(笑)。毎日、違うんでね。

源田 それを言うべきでした。開催は、1月14日までで、約2ヶ月ほどやっているので、前半と後半で景色は変わってきます。あの壁も、ADAさんに言わせると、まだ完成してない状態らしいんです。

タナカ もっと苔がぱあっとつきます。あの温かさと湿度だったら、もっとしだれてきます。ぐあっと。後半、すごいジャングルっぽく、もっとさらに。床がもっとびしょびしょになると思います。

――すごい。毎日違うアート展なんてないですからね。かなりユニークなポイントですね。以上、濃い話をさせていただきまして、ありがとうございます。面白かったです。

タナカ いや、こちらもしゃべっていて楽しかったです。好きなことをしゃべってただけですけど(笑)。

天野尚 NATURE AQUARIUM展】
■開催日:2017年11月8日(水)〜2018年1月14日(日)
■時間:平日 12:00〜17:00 / 土日祝 10:00〜17:00
※最終入館は閉会時間の30分前まで。
※年末の営業時間については下記の通り。
 12月30日(土)12:00~17:00
 12月31日(日)12:00~17:00
 1月1日(祝)  12:00~17:00
 1月2日(火)  10:00~17:00
 1月3日(水)  10:00~17:00
■会場:東京ドームシティ Gallary Aamo(ギャラリー アーモ)
■主催:株式会社東京ドーム、株式会社ドリームスタジオ
■制作協力:株式会社アクアデザインアマノ(ADA)
■後援:読売新聞社
■公式サイトは、コチラ

【トークショー開催概要】
「世界ランカーが語る、水草レイアウトの世界」
12月9日(土)18:30~20:00(開場17:30)
出演者:深田崇敬(グラフィックデザイナー、水景演出家)、タナカカツキ(マンガ家)

※開場からトークショー開始時間までは場内を自由にご観覧いただけます。

定員:各日50名(先着) 
料金:2,000円(税込)
発売日:11月8日(水)12:00~
発売場所:
(1)チケットぴあ(http://w.pia.jp/t/amano-na/)Pコード:①637-481 ②637-485
(2)Gallery AaMo内チケットカウンター(展覧会期間中)

Licensed material used with permission by Gallery AaMo
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。