昇進を手にした社員が、なぜすぐに会社を辞める?

「昇進した社員は、すぐに仕事を辞める可能性が高い」という、気になる研究結果が労働市場を分析する「ADP Research Institute」による分析で明らかになった。

この研究では、2019年から2022年までの従業員数1000人以上の企業の従業員120万人のデータを調査。その後、最初の昇進後に退職するリスクを予測するモデルを構築した。

結果、従業員の29%が昇進後1ヵ月以内に退職していることが判明。もしこの労働者たちに対して、昇進をしていなかったとしたら、18%だけが退職することになっていたという。

しかし、昇進を経て約半年ほど働いた社員の場合、そのリスク格差は縮小し、その後は昇進しなかった人が辞める可能性の方がわずかに高くなるという。

昇進した社員は半年以内に辞めやすい
その背景には複合的な要因がある

昇進は、長く勤める、あるいは優秀な人材に対する評価方法の1つであり、会社を長く運営し続けていくうえでは、欠かせない要素である。そんな昇進が、なぜ社員の退職に繋がるのか?

データが意味するものを「ADP Research Institute」は、こう分析している。

まず、昇進するほどに能力の高い社員は、既に昇進前から転職する可能性を持っている場合が高い。能力の高い人材に関して見ると、昇進は彼らを引き止める手段になり、昇進をすることで離職を防ぐこともできる。しかし、その判断は素早く行う必要があるということだ。

また、低スキルの労働者を見ると、昇進後最初の1ヵ月で職を離れる可能性が、昇進を受けなかった場合に比べて6倍近くも高いという。特に学位や技術認定などを持たない労働者にとって、昇進とは、自分の人材価値を高めるものであり、より良い仕事を求めて、会社を後にするケースが多く見られるようだ。

加えて、同研究機関のチーフエコノミストであるネラ・リチャードソン氏は、「従業員が管理職に昇進するこのジャンプが、もっとも脆弱性をはらんでいる」と語る。

これは、マネージャーに求められるスキルと個人に求められるスキルはまったく異なっていることが大きな理由。新しい役割は、そのことを理解せずに昇進した社員を、困惑させ、最終的に会社を離してしまうことに繋がるのだ。

とはいったものの、これはあくまでもビッグデータに基づいて解析した研究の話。会社を辞めてしまう要因は、労働環境だったり、人間関係だったりと、他の要素とも関係があるのは間違いない。

しかし、“昇進の決定”は、企業にとって必ずしも良い決定に繋がるわけではない、という事実は頭に入れておいて損はなさそうだ。

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