半年で仕事を辞めたけど、オーストラリアでベストバリスタになれた。

「海外に住んでみたい」「日本を出て自分を試したい」。

みなさんの中にも、世界へ飛び出して仕事をしてみたい、と考えている人がいるでしょう。しかし、海外在住の人たちがどのように生活しているか…現実は情報も少なく、イメージが湧きにくいのも事実です。

森美知典さんの著書『日本を飛び出して世界で見つけた 僕らが本当にやりたかったこと』(実務教育出版)では、海外で活躍している日本人の元へ取材に出向き、その略歴からライフスタイルまで、インタビューを敢行。

今回紹介するのは、オーストラリアでバリスタ(焙煎士)として活躍する佐々昌二さん。

とにかく注目してほしいのは、彼の行動力。「やりたい」だけでは意味がない。「やりたいから動く」という佐々さんの信念についてうかがいました。

「シドニーでも行ってくれば?」

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豆本来の味わいを最大限引き出した、すっきりとした味わいの「スペシャルティコーヒー」が、先進国を中心に人気を集めています。それを牽引する国のひとつが、オーストラリア。同国には質の高いコーヒーショップが数多く存在し、その競争環境はスターバックスでさえ撤退してしまったほど。

そんなコーヒー先進国オーストラリアのなかでも激戦区として知られるシドニーで、ベスト・バリスタに選ばれた日本人が、佐々昌二さん。日本のコーヒー業界でも、「シドニーといえばショージさん」といわれるほどのカリスマ的存在。バリスタといえば、味はもちろん、コミュニケーション力も問われる仕事。なぜ、日本人である佐々さんが、異国の地でそんな称号を得られたのでしょうか?

「オーストラリアに行くまでは、自動販売機で缶コーヒーを買って飲む、普通の大学生でした」

笑いながらそう話す佐々さんは、アルバイト、飲み会、仲間とのサッカーなどに明け暮れる、どこにでもいる学生のひとりでした。

「大学の付属高校からの進学でとくに受験の苦労もありませんし、学生時代はゆるく過ごしましたね。そんな自分が、オーストラリアで仕事をして家庭を持つまでになるなんて、考えてもいませんでした」

佐々さんの「海外への意識」が目覚めたのは、アパレルの備品などを扱う企業に就職し、営業として働き始めた頃からだそうです。

「正直、毎日きつかったですね。スーツも似合わなかったし、鬱々としていました。よほど僕の様子がおかしかったんでしょうね。就職して半年くらい経ったころに、親父が声をかけてきました」

このひとことで、佐々さんの人生は一変。

「シドニーでも行ってくれば?」

父親の友人家族がオーストラリアに長く住んでいて、そこで環境を変えてみないかという提案だったのです。

皿洗いから
カフェスタッフへ

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佐々さんはワーキングホリデーのビザを取得し、80万円の貯金を手にオーストラリアへ向かいました。「行けば何とかなる」…そんな軽いノリでの出発だったそうです。

それから語学学校に通うなどをしたあと、近所のカフェに欠員が出たということで、皿洗いの仕事に就くことになった佐々さん。そこで運命的な出会いがあったのです。

「カフェの仕事は皿洗いと雑用だし、時給800円と安かった。それに毎日4時半起きで大変でしたが、とても楽しかったんです」

その後、ワーキングホリデーの期間は終了しますが、佐々さんに帰国するという選択肢はありませんでした。その理由は「オーストラリアで充実した生活を送っていたから」という非常にシンプルなもの。

「ビザが取得できるビジネス学校に通いながらカフェで働いていました。それから1年くらい経った頃から少しずつ英語力が伸びて、ボスからホールを任されるようになったんです」

その頃、佐々さんはコーヒーマシンと運命的な出会いを果たします。

「コーヒーを淹れるのがとにかく楽しかった。やればやるほど上達している実感がありました」

コーヒーの味自体に興味を持ち始めたのもこの頃。

もっとおいしく淹れるためにはどうすべきか、と研究にも熱が入ります。シドニーで人気の新聞「モーニングヘラルド」が選ぶ、コーヒーショップベスト10をチェックし、1位のお店で働いたこともありました。その後、自身がヘッド・バリスタになる「Single Origin Roasters(現 Single O)」というカフェに就職します。

愚直に目の前のことと
向き合う力

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佐々さんは、さまざまな努力を重ね、2010年同ショップ内のヘッド・バリスタに抜擢されます。

当時はアジア人でおいしいコーヒーを淹れるバリスタが珍しかったこともあり、国内外問わず多くの取材を受けたそう。そして2012年、とうとう「モーニングヘラルド」が選ぶベスト・バリスタに、日本人として初めて選出されるという快挙を成し遂げます。

2014年の春、ついに独立の話が浮上。佐々さんは、ベスト・バリスタに選ばれたこともある友人のダンを誘い、一緒にお店をやることを決意しました。

「35歳だったので、失敗するなら最後の歳かなっていうのもありました。2人のヘッド・バリスタが運営しているという注目度もあって、半年も経たないうちに軌道に乗りました」

オーストラリアに渡る際は、自分がどういうキャリアを積むかなんてまったく考えていなかった佐々さん。それでも自分を追い込みながら、目の前のことと戦っていく内に、いつしか自分の道が見えてきたとのこと。そして運も味方につけて、バリスタの道を一気に駆け上がっていきました。

「1回きりの人生なんでね。もし少しでも海外へ行きたいと思っているなら、パッと行っちゃったほうがいいと思いますよ。自分も目的や夢があったわけではありませんが、何とかなりましたから。日本の外に出れば何かある…というわけではありませんが、確実に自分の中の何かは変わります」

ベスト・バリスタに選ばれた栄光だけが注目されがちですが、皿洗いなどの下積みも長く、愚直に努力を積み重ねてきた歴史が、佐々さんにはあります。その期間があったからこそ、決断に対する覚悟の強さが生まれたのではないでしょうか。

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