フランス在住マルチクリエイターが語る「後悔しない」海外移住
「海外に住んでみたい」「日本を出て自分を試したい」。
みなさんの中にも、世界へ飛び出して仕事をしてみたい、と考えている人がいるでしょう。しかし、海外在住の人たちがどのように生活しているか…現実は情報も少なく、イメージが湧きにくいのも事実です。
森美知典さんの著書『日本を飛び出して世界で見つけた 僕らが本当にやりたかったこと』(実務教育出版)では、海外で活躍している日本人の元へ取材に出向き、その略歴からライフスタイルまで、インタビューを敢行。
今回は、ヘアメイク、雑貨店オーナー、フォトエッセイストなどマルチクリエイターとしてフランスで活躍する「とのまりこ」さんを紹介したいと思います。
きっかけは13年前に始めた
「ブログ」
「一体、どの仕事が本職なの? とよく聞かれるのですが、自分でも答えに困ってしまいます(笑)」
そう話すのはパリ在住15年目となる、とのまりこさん。パリ仕込みの洗練された佇まい、しかし気取った様子もなく、柔らかい空気感を身にまとう彼女。とのさんは、結婚式を挙げる人へのヘアメイクや撮影のプロデュース、パリのガイドブック制作、WEBマガジンの連載、さらに東京の西荻窪で「ぼわっと」というフランス雑貨のお店を日本人の夫と一緒に運営していて、バイイングやオリジナルプロダクトのディレクションまで手がけています
「いろいろなことをしているのですが、私の中では何となくすべてが繋がっているんです。たとえばヘアメイクをしたら、その方の美しい姿を写真に収めたいと思いますし、ガイドブックで取材をしたら、そこの雑貨を日本のお店に置きたいなとか…」
とのさんがマルチに才能を発揮できるのは、自身を状況に適応させていく彼女自身の柔軟性も大きいのですが、インターネットがなければ不可能なライフスタイルでもありました。
「仕事のほとんどがブログ経由なんです。ブログはフランスに渡って約2年経った2004年末から、ずっと書いているんですよ。最初は母に元気であることを伝えるために始めました」
きっかけは母親に安心してもらいたい、という純粋な動機でしたが、そんな気負わない姿に読者が共感し、少しずつ影響力を増していったのだそうです。
「ずっとパリの日常生活を綴っていただけなのですが、徐々に読者が増えていって…。さらにそれを見た方が、ヘアメイクや撮影の仕事を依頼してくださったり、編集者の方が見ていて、ガイドブックやコラムのお声がけをいただいたり。すべてブログから派生したんです」
海外に住む夢を捨てるほうが
「後悔するかも」と思った
とのさんは慶応義塾大学商学部を卒業して、新卒で出版社に入社。
「仕事はすごく楽しかったんです。ただ学生の頃から、1度でいいから海外留学をしてみたいという憧れがあり、諦めきれませんでした。
ただ、社会人になってしまったあとは、辞めて留学するか、このまま会社で働くかを選ぶしかないじゃないですか? 自分の人生についてじっくり考えてみたとき、海外で暮らしてみたいという夢を捨てるほうが後悔すると思い、会社を辞めて外国へ行くことを決心しました」
ただの語学留学ではなく、手に職をつけられる勉強をせねばとヘアメイクの学校へ行くことを決意。学生時代にミュージカルをやっていたこともあり、舞台メイクには興味があったそうです。
「調べてみると、行きたいと思う学校がイギリスとフランスにありました。比べてみたら、単純にポンドよりユーロのほうが(金銭的に)1日でも長く現地に居られることが分かって…特に縁があったわけでもなく、フランス語もまったく理解していませんでしたが、まぁ英語で何とかなるだろう、とフランスを選びました」
学生時代から貯めていた200万円で1日でも長くいられる場所。そんなゆるい判断基準でフランス行きは決まったのです。
現時点での問題なんて
たいしたことない
「フランスに渡る前の私のように、海外に住んでみたいとか、何かやりたいことはあるけど会社を辞めるのは怖い…という人はたくさんいると思います。私もそうでした。だけど、そこを思い切って飛び越えてみると、たいしたことではないと気づきます。
なぜなら、思い切ってチャレンジすると、もっと大きな壁にぶち当たるから。それに比べれば、その前の問題なんて案外たいしたことないなと思えるんです。だったら、さっさと乗り越えてしまわないと損じゃないですか? 日本では当たり前だったことも、他の国じゃ全然当たり前じゃないことだらけですし」
とのさんは「まずは旅行からでもいい」と語ります。さまざまな国の文化に少しでも触れると、日本で悩んでいたことが大した問題ではないと思えるようになる、と語ります。
西荻窪のお店「ぼわっと」には、取材中もお客さんが入ってきます。壁一面、棚いっぱいに詰まった可愛らしくおしゃれな雑貨に、訪れた人は驚きの声をあげながら、すっかり時間を忘れて堪能していました。そんな本場の空気感は、パリの街が身体に染み渡っている彼女だからこそ表現できるのかもしれません。