既存のことばかりではダメ。アメリカ在住のギタービルダーが語る「仕事術」

「海外に住んでみたい」「日本を出て自分を試したい」。

みなさんの中にも、世界へ飛び出して仕事をしてみたい、と考えている人がいるでしょう。しかし、海外在住の人たちがどのように生活しているか…現実は情報も少なく、イメージが湧きにくいのも事実です。

森美知典さんの著書『日本を飛び出して世界で見つけた 僕らが本当にやりたかったこと』(実務教育出版)では、海外で活躍している日本人の元へ取材に出向き、その略歴からライフスタイルまで、インタビューを敢行。

今回紹介するのは、アメリカでルシアー(弦楽器製作者)、ギタービルダーとして活躍するMAS日野さん。

日野さんは「日本人の勤勉さ」と「個性を大切にするアメリカ人」といった両面を持ち合わせた人物です。

クランプトンのギターを
手がけたこともあるよ

ニューヨークのブルックリンの住宅地のなかに、1軒のギターショップがあります。そこで、オリジナルギター&ベースブランドを展開するのが、MAS日野さん。

彼は、パット・メセニー、エリック・クラプトン、ショーン・レノンをはじめ、数々の著名ミュージシャンのギターとベースを手がけている有名な職人です。音楽界で「日野」といえば、勘の鋭い人ならピンとくるかもしれません。彼は世界的ジャズ・トランペット奏者、日野皓正氏の長男で、ジャズドラマー日野元彦の甥にあたる人物。日本の名門ジャズ一家の血筋なのです。

「今はニューヨークで自分のギターとベースのブランドを展開しつつ、弦メーカーとのコラボレーションでベースを作っているんだ。あとは、リペア(修理や修繕)だね。エレキだけでなく、アコースティックギターやウッドベース、ウクレレまで…いろんな絃楽器を扱っているよ。中には、夫婦喧嘩で2階から放り投げられて、バラバラになったギターもあったりするけどね(笑)」

「好き」が「職」になるまで

日野さんが本格的に楽器に興味を持ち始めたのは、16歳の頃。ロックバンドのギタリスト、エドワード・ヴァン・ヘイレンに憧れてのことでした。

「最初は演奏のほうに興味があったんだ。でも、その内ギターやベースなどの楽器をいじるほうに夢中になってね。しょっちゅう楽器屋に通うようになったんだよ」

当時のニューヨーク・マンハッタン48丁目には、多くの楽器屋が立ち並び、そこに入りびたるように。そして日野さんが19歳のとき、転機が訪れます。

「ある楽器屋のオーナーに、ギタービルダーのジョン・サーの弟子にならないか? ってスカウトされたんだ。ちょうどそれまでいた日本人が辞めてしまったようで、これはチャンスだと、すぐに弟子入りしたよ」

手先が器用で真面目な日本人をジョン・サーは好んだそう。そういった意味で、日本人でギター好きの日野は、育てがいのある若者だったのでしょう。

「弟子入りしてから2年間は、1本もギターを作らせてもらえなかった。でも自分で作る前に、ギターの周りにあるすべてのことを知りたいと思っていたから、ちょうど良かったよ。2年かけて知識を蓄えたときにやっと1本作らせてもらえたんだけど…嬉しいことに、とても良い評価をもらったんだ」

別に失敗しても
命をとられるわけじゃない

1993年、師匠のジョンが楽器屋を辞めたあと、日野さんはヘッドビルダーを任されることに。その後、数々のミュージシャンのギターやベースの製作、リペアを手がけ、世界的な評価を得るようになったそうです。そして、再び転機が訪れたのは2000年。日野さんが34歳のときでした。

「1998年に結婚したんだけど、日本人の妻がグリーンカードを申請する間、アメリカで一緒に暮らせない状況になっちゃってね。取得まで5年はかかるらしくて…。僕は小さい頃日本に住んでいただけだったから、一度は住んでみてもいいかなって思って帰国を決意したんだ」

日本では国内ブランドでマスタービルダーとして働き始めました。しかし、日本人の仕事のやり方に対して、徐々に疑問を持ち始めるようになります。

「自分でやろうという気持ちがないんだよね。誰かがこれをやっているから、自分もこうしようって感覚が強くて…。既存のことじゃないことをやってもいいのに、外れたことを一切やらない。別に失敗しても命をとられるわけでもないのにさ(笑)」

自分のクリエイティビティを主張すると「何でそんなことをやる必要があるの?」と却下されたことも。

日に日に「絶対にアメリカに帰ろう」という思いが強くなっていったそうです。妻のグリーンカードが取れたことを機に、ニューヨークに戻りました。

「俺がベストだ」なんて
思わないほうがいい

「自分にだけしか作れない名器を生み出して、それを後世へ残したいね。(17世紀頃に活躍した)有名なバイオリン製作者の本なんて、何度も読んでいるよ。その都度、インスピレーションが湧いたり、自分はまだまだだって思ったり、いろいろな影響を受けているんだ。200年後、自分が作った楽器に触れて、その思いや歴史的背景が記された書物を読んだ人に、何かを感じてもらえるようなものを作りたいね」

このように日野さんは夢を語ります。日野さんが作ったギターの音を聴いていると、彼にしか出せない「音」だと感じることができ、今でも十分ベストだと思うのですが…。

「僕にも修行期間があったわけだけど、修行時代には学ぶことがたくさんあると思っているんだ。今やっていることはすぐに答えが出なくても、何度も思考している内に、やっとぼんやりと見えてくる…。それは修行時代の試行錯誤があったからこそ。20~30代のときは俺がベストだと考えていたけど、そういうことは思わないほうがいいって思うようになったんだ」

自分の限界を決めると成長はストップしてしまう。日野さんはどんなに有名になっても進化したい、と思い続けているのです。

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