「人を全裸にする」衝撃のカメラが映す“虚無”
「目の前の人の裸を見ることができたら──」
ドラえもんの着せかえカメラや『ミッション:インポッシブル』で使用されるX線グラスを見て、多くの人が青き心に浮かべたであろう妄想。
しかし、現実はシンプルで厳しく、ほとんどの人が早々にして諦めた夢である……はずだった。
今年、テクノロジーの躍進によって、この夢を現実にするカメラが登場してしまった。
その名は「NUCA」。ドイツ人アーティストのMathias Vef氏と、デザイナーBenedikt Groß氏の共同プロジェクトによって開発された驚愕のガジェットだ。
使い方は簡単。
人物を撮影すれば、わずか10秒で全裸姿の被写体が画面に現れる。
誰でも容赦なく……
あっという間にスッポンポンに。
使う方も思わず赤面してしまうこのカメラ。
その正体は、内部に搭載された高性能の生成AIである。被写体の外見をもとに、性別、年齢、民族性、表情、体型などの45の識別子から分析。クラウド上の画像と合成し、ヌード写真を生成する仕組み。
つまり、映された裸体は本物ではなく、造られた“偽物”。最新型のディープ・フェイクというわけだ。
ユーモアたっぷりで、大変革新的に思えるNUCA。
しかし、こうしたAIによる画像生成技術はすでに様々な場所で使用され、ときに悪用もされている。
ここ最近、アメリカの高校では、生徒がAIを使って別の生徒のヌード画像を生成・拡散する事件が多発。先月には、カリフォルニア州の中学生5人が同級生のヌード画像をSNSで拡散し、退学処分を受けたばかりだ。
裸体じゃない。NUCAが映すのは「警告」
「NUCAは人物の再現における生成AIの現在の方向性を喚起し、疑問を投げかけることを目的としています。」
開発者のVefとGroß、両氏が語る。
AIとの距離が急速に近づいた昨今、誰でも指先ひとつでフェイク画像を作成し、嘘の情報で大衆を欺き、他者を傷つけることもできるようになった。
開発者たちは、(決して自身の下心を満たすためではなく)私たちにAIとの向き合い方を再考させるためにNUCAを制作したのだった。
これはアート作品としての試験製品であり、今夏にベルリンで開催される展示会でのみ、使用できるとのこと。
しかし、近い将来にこのような製品が市場に現れる可能性も十分にある。
今まで以上にAIが身近になり、多くの人が「虚構」を作り出せるようになったそのとき、私たちは何を「本物」として信じれば良いのだろうか。
レンズを覗いて見えるのは裸ではない。歪みはじめた現実だ。