Spotifyがアーティストの支払いに関する新ルールを開始。あなたは、どう感じた?

音楽を愛する人々にとってショッキングなニュース。あなたはどう受け止めた?

大手音楽ストリーミングサービス「Spotify」が、年間再生数が1,000未満の曲に対しては楽曲利用料を支払わないという新ルールを今月より開始した。

なお、2022年Spotifyで1000回再生未満だった曲は全体の62.5%ほど。この変更により、現在アップロードされている1億曲のうち6200万曲が無報酬となるそうだ。

このなんとも滅茶苦茶なルール変更は、アーティストとリスナーそれぞれに混乱を招いたが、深呼吸をして変更の詳細や背景を探ってみよう。

①人気アーティストによるクレーム

一連のルール変更に関する要因としてまず挙げられたのが、「Spotifyの支払いが低い」と声を上げる人気アーティストが増えたということ。

「ウォール・ストリートジャーナル」が2021年に発表した「各サブスクにおける1再生の単価」では、2020年時点で「Apple Music」が0.76円、Spotifyが0.28円という大差の結果があらわになった。

しかし、これだけでSpotifyがアーティストへの還元を軽んじていると断言するのは早計。

アーティストへの権利に関するメディア「The Trichordist」によれば、彼らは月額全体収益の70%をもアーティストに還元しており、個人の算出方法は奇しくも人気アーティストに有利に働いているとのこと。また、Spotifyでは単価の低い無料ユーザーの再生分も含めて還元額計算をしているため、どうしても1再生あたりの単価が下がってしまう、という背景があるようだ。

②“インプレゾンビ”の増殖

もう一つは、現在どのSNSでも増殖を続けている“インプレゾンビ”の存在。

主にXで猛威を振るっている彼ら。どうやらSpotifyにおいては、生成AIに作らせた楽曲を手当たり次第に登録し、再生数による収益を狙う事象(フェイク・ストリーム)が影響しているようだ。

このような不正行為への対処として、同社は「ノイズコンテンツ」の収益上の再生数計算を1曲あたり0.2再生としてカウントされるよう変更。同時に、再生回数の不正操作があった場合には楽曲を登録した人に対して罰金を課す制度も設けるという。

Spotify公式が声明したノイズコンテンツの定義が以下。

・非音楽
・環境音
・機械音
・アンビエントサウンド(背景雑音・交通音等)

対策の一環とはいえ、インディーのアンビエントサウンドを好む人々にとっては“音楽の価値を否定されてしまった”と捉えても、おかしくはない。

SNS上の賛否両論

次に、SNS上で確認できた賛否両論を紹介しよう。

〜賛成派〜

・利用者の中に不正を働く者がいるなら、ルールを変えないと報酬を正当に分配出来ない

・殆ど聞かれていない音楽に対するサーバー代や振込コストを考慮すると、妥当な判断である

・1000回以上超えてやる!と奮起するアーティスト、1000回以上聴く!と意欲的なリスナー

 

〜反対派〜

・小規模な音楽と、それを創る人々への敬意を欠いている

・何回再生されたとて、創作者には対価を受け取る権利がある。創作物は無料じゃない

・人気アーティストを優遇する時代はいつまで続くのか

捉えかたは人それぞれだが、どちらの意見も一概に間違っているとは言えず、的を得ている。

ちなみに、似たような事例として挙げられたのが、「YouTube」による「チャンネル登録者数1000未満の動画に広告売上を支払わない」という仕様変更。

同社は、昨年6月に収益条件を登録者数500人に緩和したため、Spotifyも動向次第ではいずれ緩和の可能性があるのではないか、との推測も出ている。

改めて見直される「音楽の価値」

見方によっては、誰にでも平等にチャンスが与えられていたプラットフォームの根底を揺るがすことになった今回の改革。今後、我々が抱く音楽の価値はどのように変わっていくのだろうか。

音楽ガイド「Musicman」の見解を紹介しよう。単曲の再生数単位で楽曲利用料が決まっていた従来の「楽曲中心モデル」から、アーティスト単位で楽曲利用料を計算する「アーティスト中心モデル」へ軌道修正が始まっている、とのこと。

これを「人気アーティスト優遇だ」と捉え、Spotifyを解約したと公言するリスナーも少なくない。音楽系のサブスクリプションは、聴ける楽曲数がユーザーを獲得する大きなポイントでもあるため、6000万曲以上が無報酬と化した現在、ユーザー数の変化は大きく注目されているひとつだ。

また、これにより以前にも増して「アナログ」の復活が後押しされるとの声も。アーティストへの直接的な収益還元を望めるCDやVinylの購入は、あえてスマホを使わないカウンターカルチャーとしても、ますますスタンダードになっていくことだろう。

 

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あなたは、今回の大幅な変更に対してどう感じただろうか。

インディーミュージックをこよなく愛する筆者としては、芽が生えたばかりのようなアーティストをディグる習慣や、将来性が減ってしまうのではないか?と、寂しさや怒りがありつつ、「大手プラットフォームという他人の軒先を拝借している以上、規約変更は仕方ない」というSNSの意見に、妙に納得してしまう部分もあった。

音楽の価値とは人それぞれだが、決して再生による収入がないこと音楽の価値がないということは同義語ではないはずだ。

簡単にアクセスできるようになった創作物でも、その裏には常に創作者の努力が隠れていることを、私たちは再確認する必要があるのではないか。

Top image: © iStock.com/Drablenkov
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