【鉄格子の中のデジタル変革】タブレットが切り拓く、受刑者の学びと未来

教育は、自由へのパスポートである」とは、アメリカの黒人解放運動指導者であるマルコム・Xの有名な言葉だが、高すぎる壁に囲まれた刑務所という場所では、教育こそが“未来への希望”となり得る。

現在、アメリカでは受刑者にタブレット端末を用いて高校卒業資格取得を支援するプログラムが始動し、更生と社会復帰を目指す試みとして注目されている。

70万台の希望
タブレットが刑務所にもたらすもの

アメリカでは、刑務所内における教育プログラムの拡充が課題となっている。「AP通信」が報じたところによると、2022年にフロリダ州の刑務所でGED(高校卒業程度認定試験)を取得できたのは、受刑者全体のわずか2%という現状らしい。

この状況を打破すべく、刑務所内デジタルデバイスのトップサプライヤー「ViaPath社」は、教育テクノロジー企業「Promising People社」、そしてオンライン高校のAmerican High Schoolと連携し、新たな取り組みを始めた。受刑者にタブレット端末を通して高校卒業資格を取得できる学習機会の提供だ。すでに約2000の刑務所や拘置所に70万台のタブレットが導入されているそうで、今後さらに多くの受刑者がこのプログラムを利用できるようになる見込み。

刑務所内教育は、単に知識やスキルを身につける場にとどまらず、受刑者が自身の過去を振り返り、未来への希望を見出すための貴重な機会にもなり得る。

シンクタンク「ランド研究所」の調査によると、刑務所内教育への投資は高い費用対効果を生み出す可能性がある。1ドルの投資が、再犯率の抑制により4~5ドル分の費用削減に繋がるとの試算も。

ViaPath社のCIO、Tony Lowden氏は「高校卒業資格と職業スキルを身につけることで、出所後の再犯率は大幅に減少する」とプログラムの効果に期待を寄せている。

更生と社会復帰を支援する、希望の光

タブレット端末を用いた教育は、場所や時間の制約を超え、個々のペースに合わせた学習機会を提供できる点において優れている。しかし、元受刑者で現在はフリーランスのジャーナリストとして活躍するRyan Moser氏は、AP通信の取材に対し自身の経験から、タブレット端末の充電時間の長さや、規則違反による使用制限などの課題を指摘している。

テクノロジーの進化は目覚ましく、教育現場においてもデジタル化が急速に進んでいる。オンライン学習プラットフォームや教育アプリなど、場所を選ばずに学べる環境が整いつつある一方で、対面授業ならではの良さも見直されている。

例えば、近年注目されている「ブレンディッドラーニング(ブレンド型学習)」は、オンライン学習と対面授業を組み合わせることで、それぞれのメリットを最大限に活かすというもの。受刑者への教育においても、タブレット端末と対面授業を組み合わせることで、より効果的な学習効果が期待できるだろう。

刑務所内教育におけるデジタル化は、受刑者にとって学び直しと社会復帰の大きなチャンスとなる。テクノロジーの進化と共に、その可能性はますます広がっていく。もっとも重要なのは単にタブレット端末を導入するだけでなく、受刑者のニーズに合わせた教育プログラムを開発し、効果的な学習をサポートすることではないだろうか。

👀 GenZ's Eye 👀

更生と社会復帰に向けた大きな可能性を秘めた、タブレットを使った受刑者向けの教育プログラム。いっぽうで、デジタル・デバイド(情報格差)やセキュリティ問題、倫理的な課題など、解決すべき問題点も山積なはず。だとしても……タブレット学習が「自由へのパスポート」となることに希望を感じるニュースでした。

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