デンマークの本気。「農地森林化計画」とは
少しずつ、しかし着実に地球を蝕み始めている地球温暖化。私たちに何かを伝えようとしているようにも見えます。それはニンゲンの犯してきた過ちの代償か、それとも、地球の脆さなのか?
私たちと地球との関係性に関する長い議論の歴史のなかで、昨年11月、「AP通信」の報じたデンマークの革新的な挑戦は、一つの終着点を示しているかもしれません。
東京ドーム約52万個分
10億本の木々が織りなす緑の未来
記事によると、デンマークの議員らは、とある驚くべき取り組みに合意したようです。その取り組みとは、今後20年間で10億本の植林と農地の10%を森林や自然の生息地に転換し、肥料の使用量を削減するというもの。この政策により、今後100年間でデンマークの風景は大きな変化を遂げることになるでしょう。
「デンマークの自然は、1864年に湿地帯が干拓されて以来の大きな変貌を遂げることとなります」とは、環境大臣Jeppe Bruus氏の弁。同取り組みは農家、関わる各業界、労働組合、環境保護団体の支持を得たものでもあり、絶大な期待を背負った政策ということもできます。既に430億クローネ(約61億ドル)が予算として確保されているんだそうで、この莫大な額の資金は今後20年間で農家から土地を買い上げるために使われます。
世界が注目する「グリーン転換」
現在、国土の14.6%が森林で覆われているデンマークですが、さらに25万ヘクタール(東京ドーム約5.3万個分)もの森林の拡大が必要なんだそう。これは、現在気候に悪影響を及ぼす低地で耕作されている14万ヘクタール(東京ドーム約3万個分)もの土地を自然に戻すことで達成することのできる数字。
デンマークにとってはこの「農地改革」とも言える政策は、同国が環境問題に取り組むうえで急務なことがわかるでしょう。
また、同国では既に、2030年より畜産農家が牛、羊、豚から排出される温室効果ガスに対する課税を行うことを発表しています。地球温暖化にもっとも影響を与える気体のひとつであるメタンガスの主要排出源をターゲットとする政策であり、これは世界初となる試み。
環境問題に対して強気なデンマーク。しかし、こうした革新的な政策郡の裏には課題も山積みです。
環境と人、どちらが大切?
まず、耕作地を自然に還すことにより起こる、作物の収穫量の減少にはどのように対応するのでしょうか?家畜に対する課税は、農家の活動を縮小化させ、市場における肉の価格の高騰をまねくのではないでしょうか?
そして、自然には生態系を守るための管理が必須になるわけですが、農地の買い戻しや自然の維持費による国庫の減少と引き換えに豊かな自然を手に入れることができると本当に言う事ができるのでしょうか? さらには、自然は非常にゆっくりと繁栄していきます。その間人々がいかなる被害も被ることなくこの施策を守り続けることができるのでしょうか……?
まさに“挑戦”と呼ぶにふさわしい取り組みですが、世界が大きな注目を寄せている理由もわかりますよね。
文化が教える自然との関係性
歴史を振り返れば、ニンゲンにとっての“地球”とは、ある時は母であり、またある時は機械でありました。自然環境のすべてが彼ら中心に考えられてきた歴史と、この考え方が引き起こした“イマ”に鑑みれば、本来私たちに求められている地球への態度とは自然に対する尊敬と畏怖から見出すことができそうです。
デンマークの打ち出した施策とはまさに自然に対する尊敬と畏怖に裏打ちされた、地球との調和を目的とするものと見ることもできます。実はこうした態度、歴史的文化的には、古来より既に萌芽を見ることができるんです。
たとえば私たち日本人は太古の昔から、この尊敬と畏怖と共に自然と共存してきました。土地の神を畏れ敬い祠を建てていた様子は、まさに現代に繋がる自然保護の一つの形であると言うことができます。
適当な距離を保ちながら干渉しすぎず、でも放置しすぎず。こうした態度が調和という名の下、尊敬と畏怖という言葉たちによって表されていると考えることができます。デンマークが挑戦を始めたように、絶妙な地球と人間との関係性を構築していくことが私たちには迫られているのかもしれませんね。