SNS時代の新トレンド用語「界隈」とは、なんなのか?
「推し活」「沼」「ガチ勢」……。最近、SNSで見かけるこれらの言葉、なんだか気になるけど、イマイチよく分からない。そんなあなたは、「界隈」の世界に触れるチャンスかもしれません。
じつは、この界隈という言葉、私たちが普段使う「地域」という意味とは意味も使い方も別モノ。SNSカルチャーや若者文化を支える、界隈について詳しく解説していきます。
「界隈」とは?
その意味と基本概念
そもそも界隈(かいわい)という言葉は、日本語で「その辺り一帯」「近辺」を意味する一般的な表現として使用されてきました。しかし、現代のSNSや若者文化では、特定のジャンルやコミュニティを示すスラング的な使い方として進化しています。「推し界隈」「美容界隈」「アニメ界隈」といった形で、趣味や嗜好が似通った人々が集う空間を指すことが多く、とくにZ世代の間で広く浸透。この言葉の使用拡大により、2024年には、「界隈」が「ユーキャン新語・流行語大賞」のノミネート語に選ばれました。
この言葉の使い方が注目を集める背景には、SNSが作り出すオンラインコミュニティの急速な発展が挙げられます。アルゴリズムにより興味関心が近いユーザーが接触しやすくなり、それぞれのジャンルに特化したグループが生まれやすい環境が整ってきたことで、「界隈」という言葉は、単に人々が共通の趣味を持つ集団を表すだけでなく、その集団が持つ価値観や文化そのものを象徴するものとなってきました。
さらに、界隈の語源をひも解くと、漢字の「界」は範囲や境界を意味し、「隈」は奥まった場所や隠れた部分を指します。このことから、界隈はもともと特定の範囲やその周囲を包括的に表す言葉であったことがわかります。この日本語特有の曖昧さが、SNS文化においては、特定のジャンルや空間を示すのに適していたと考えられます。
「界隈」の背景
SNSと若者文化の関係性
界隈という言葉がSNS文化で定着した背景には、インターネットの普及とコミュニティ形成の変化があります。かつてはオフラインでの活動が主流だった趣味の集まりが、SNSの登場によってオンラインに移行し、場所や時間の制約を超えて集まることが可能になりました。X(旧Twitter)やInstagram、TikTokなど、異なる特徴を持つSNSプラットフォームで「界隈」が形成され、それぞれのコミュニティ文化が発展しています。
たとえば、Xでは「#〇〇界隈」というハッシュタグが広く利用され、同じ趣味や嗜好を持つユーザー同士が情報を共有。このハッシュタグ文化は、ユーザーが自分の趣味を明示するだけでなく、新たなつながりを形成するきっかけにもなっています。美容界隈やゲーム界隈では、商品レビューや攻略情報が活発に交換され、情報共有の場としての役割を果たしているようです。
また、SNSアルゴリズムが界隈の発展を後押ししている傾向も。たとえば、TikTokでは個人の興味に応じた動画が自動的に表示される仕組みがあり、これによりユーザーが自分の所属する界隈を簡単に見つけられるようになっています。このようなプラットフォームの進化は、特定のトピックやコミュニティが爆発的に広がる要因となっていると言えるでしょう。
さらに、海外との比較も興味深い点。英語圏では「community(コミュニティ)」や「niche(ニッチ)」といったワードが日本の界隈に近い意味で使用されていますが、日本語の「界隈」は、一語で特定の文化や趣味の空間を直感的に表現できる点においてユニークネスがあります。これが、日本特有のSNS文化における「界隈」の浸透を加速させた理由の一つとも考えられます。
界隈の「最前線」
最新事例から見るトレンド
では、実際に「界隈」はどのように社会に影響を与えているのでしょうか? 国内外の最新事例を見ていきましょう。
国内事例:進化する「推し活」
Z世代のキーワードとして、こちらも欠かせないのが「推し活」です。アイドルやアニメキャラなど、自分が“推す”対象を応援する活動ですが、近年ではその熱量がさらに加速し、経済効果を生み出すほどのムーブメントになっています。
2024年11月、広告代理店「博報堂」と株式会社「SHIBUYA109エンタテイメント」が運営する、新しい世代に特化した若者マーケテイング機関「SHIBUYA109 lab.」が、界隈消費に関する共同調査レポートを公開。レポートでは、「推し」をきっかけに新たな消費行動が生まれていることを「界隈消費」と定義し、従来のマーケティングでは捉えきれなかった、熱量の高いファンコミュニティの存在を明らかにしました。
たとえば、アイドルグループの聖地巡礼や、限定グッズを求めて行列を作る姿は、もはや社会現象。「推し」という共通の「好き」を軸に形成された界隈は、熱狂的なファンを生み出し、巨大な市場を形成する力を持っていると言えるでしょう。
海外事例:世界を動かす「ファンダム」
界隈に近い概念として、海外では「Fandom(ファンダム)」という言葉が使われています。特定のアーティスト、映画、ゲームなどを熱狂的に支持するファンコミュニティを指し、オンライン上での活発な情報交換や創作活動を通じて、その影響力を拡大しています。
ファンダムがブランドに与える影響力について言及したのは、米大手広告代理店のひとつ「Digitas」。テイラー・スウィフトのファン「Swifties(スウィフティーズ)」を例に挙げ、彼らと積極的に関わることで、ファンダムによる圧倒的な購買力がブランドに与える影響を示しました。
近年では、K-Popアイドルグループのファンによる大規模なオンライン投票活動や、マーベル映画ファンによる考察、二次創作活動などが話題に。ファンダムは国境を越えてつながり、世界規模のムーブメントを起こすほどの力を持っていると言えるでしょう。
「界隈」がもたらす社会と経済の変革
ここまで見てきたように、「界隈」は単なる流行語を超え、Z世代の文化や価値観を象徴するキーワードとして、社会に大きな影響を与えています。では今後、界隈はどのように進化していくのでしょうか?
メタバース空間での「界隈」形成
仮想空間メタバースの普及に伴い、現実世界とは異なる新たな界隈が形成される可能性も。メタバース上では、アバターを使って自由に活動できるため、現実世界の制約を受けずに、より深く趣味や関心を共有できる場が生まれると考えられています。
オンラインとオフラインの融合
オンラインで生まれた界隈が、リアルな場でのイベントや交流に発展するケースも増えるでしょう。例えば、オンラインゲームの界隈がオフラインのゲーム大会を開催したり、アニメ界隈がコスプレイベントを開催するなど、界隈活動がより多様化していくことが予想されます。
「界隈」を通じた社会貢献
共通の課題意識を持つ人々が界隈を通して繋がり、社会貢献活動に取り組む動きも活発化すると考えられます。たとえば、環境問題に関心のある界隈が清掃活動を行ったり、貧困問題に関心のある界隈が募金活動を行うなど、「界隈」の力を社会課題の解決に活かす動きが加速するかもしれません。
界隈は、つねに変化し続ける可能性を秘めた、まさに成長中のキーワード。私たちも界隈の動向を注視しながら、その可能性を最大限に活かしていくことが重要なのではないでしょうか。