AIが架空の旅行地を生成し、存在しない絶景につられる人々が続出
AIが私たちの生活のあらゆる側面に浸透する中、その影響は旅行の計画にまで及んでいるようだ。
AIが生成した、この世に存在しない「偽の観光地」に人々が騙されるという事態が現実のものとなりつつある。
3時間かけて着いた先は、存在しないケーブルカー?
最近、マレーシアにあるとされる「Kuak Skyride」という山頂のケーブルカーのビデオが、SNSで注目を集めたという。
笑顔の観光客とプロのナレーション付きで紹介されるその魅力的なビデオを見て、あるカップルは実際に車で3時間かけて現地を訪れた。しかし、彼らが到着した場所には小さな町があるだけで、地元住民はケーブルカーの存在など全く知らなかったようだ。
調査によると、このビデオはGoogleの高度なAIビデオ作成ツール「Veo 3」によって完全に生成されたものだったらしい。映像には、AI生成コンテンツに特有の、わずかに不自然な表情や完璧すぎる照明といった特徴が見られたものの、多くの人はその精巧さから本物だと信じてしまった。
この一件は、AIによるデジタル上の欺瞞が新たな段階に入ったことを示す出来事なのかもしれない。
騙される要因は、強すぎるSNS依存か
この現象の背景には、多くの人々が旅行に関する情報をソーシャルメディアに大きく依存しているという現状がある。
そもそもSNSの世界では、AIが登場する以前から、インフルエンサーたちが現実を巧みに加工した写真やビデオによって「理想の旅行体験」を演出し、それが問題視されることも少なくなかった。
ある町では、特定のSNS映えするスポットに観光客が殺到し、市長が「住民はただ放っておいてほしいだけだ」と訴える事態にまで発展したという。
人々は、文化的な体験そのものよりも、SNS映えする写真を撮ることを目的に観光地を訪れる傾向があった、と専門家は指摘する。
AIによって創り出される完璧な架空の風景は、こうした「理想化された現実」を求める人々の願望と、皮肉にも合致してしまったものだろう。
「現実を見極める必要のある」時代の観光
AIによるコンテンツ生成は、クリエイターが新しいツールを試したり、マーケティングの限界を押し広げたりする創造的な探求心から生まれることもある。
ドイツの政府観光局が、AIキャラクターを自国の観光プロモーションに起用した事例は、その一つの可能性を示したものだ。しかしその一方で、こうした技術が悪用されれば、旅行者をターゲットにした巧妙な詐欺につながる危険性も専門家は指摘している。
もはや「見ることは信じること」とは言えない時代になったのかもしれない。美しい風景のビデオを見ても、それが実在する場所かを即座に判断するのは難しい。これからの私たちは、デジタルの情報を鵜呑みにせず、複数の情報源を相互に参照し、その真偽を慎重に見極める姿勢が求められていくことになりそうだ。






