「酔い」って身体のどんな反応?──“気分”ではなく“科学”で紐解くお酒の話

食事や飲み会など、お酒の場を楽しむ機会は誰にでもあります。けれど、「昨日ちょっと飲みすぎたかも」と感じたこと、ありませんか?

お酒を飲むと、楽しい気分になる一方で、翌日にだるさや頭痛が残ることもありますよね。それは単なる「飲みすぎ」ではなく、代謝脳のはたらきなど身体の中で起きているさまざまな変化によるもの。

実は、「酔い」の感じ方やお酒の強さには、人それぞれの体質が大きく関係しています。
では、どうして人によって差があるのか。そして、自分の身体はお酒とどう向き合っているのか。

この記事では、「酔いとは何か?」という素朴な疑問を出発点に、アルコールが体内でどのように代謝され、どんな順番で酔いが進んでいくのかを、科学的にわかりやすく解説。“気分”ではなく“違い”から、お酒とのつき合い方を考えてみましょう。

お酒を飲むと、身体の中で何が起きている?

お酒を飲むと、体内ではアルコールの代謝が始まります。まず、アルコール脱水素酵素(ADH)がアルコールを分解し、次にアルデヒド脱水素酵素(ALDH)が、それを酢酸などの物質へと変えていきます。

その途中で生じるのが「アセトアルデヒド」。これは、悪酔いや顔の赤み、動悸、頭痛といった不快な症状の原因になる物質です。

たとえば、同じ量を飲んでも顔が赤くなる人とならない人がいますよね。これは、アセトアルデヒドをどれくらい早く分解できるかという遺伝的な体質差によるもの。

アルデヒド脱水素酵素は「1型」と「2型」の2種類があります。1型(ALDH1)は高濃度にならないと働かず、アセトアルデヒドの代謝が遅れることがありますが、2型(ALDH2)はアセトアルデヒドが低濃度のときから活性化し、効率的にアセトアルデヒドを酢酸に変換します。

2型の活性が弱いか欠けている人はアセトアルデヒドが体内に蓄積しやすく、お酒に弱い体質となります。これらの酵素の活性は遺伝子によって決まり、私たちは両親から受け継いだ体質によってお酒の強さが異なるのです。

実は日本人の約半数は、このALDH2が十分に働かない「お酒に弱い体質」に分類されます。つまり、「お酒の強さ」は努力ではなく、生まれ持った体質で決まるということ。

自分の反応を知ることは、単なる注意ではなく、自分の身体をいたわる行動。これが、無理のないお酒とのつき合い方の第一歩です。

酔いとは?
「脳の変化」から読み解くそのプロセス

「酔い」とは、気分の問題ではなく、脳の働きが段階的に抑制されていく現象です。アルコールが血液に取り込まれ、血中濃度が上昇していくと、理性や感情、運動、記憶をつかさどる脳の領域が順に影響を受けていきます。

  • 濃度0.02〜0.05%:理性を担う大脳新皮質が軽く麻痺し、陽気で開放的な気分に。

  • 0.05〜0.10%:抑制が緩み、判断力が鈍り、いわゆる“ほろ酔い”状態に。

  • 0.10〜0.15%:小脳や海馬が影響を受け、ふらつきや記憶の混乱が起きる。

  • 0.30%以上:意識が混濁し、0.40%を超えると生命に関わる危険な状態に。

「気が大きくなる」「記憶があいまいになる」といった変化も、脳がアルコールの影響を受けているサイン。つまり、「酔い」とは理性のグラデーション。自分の状態を客観的に観察できれば、楽しい時間をより安全に過ごすことができます。

「寝たら抜ける」は本当?
代謝にかかる“時間”の話

出所:日本医科大学とアサヒグループホールディングスの共同研究より(2011年)

次に、アルコールがどれくらいの時間で代謝されるのかを見てみましょう。

意外かもしれませんがアルコールを分解するスピードは、お酒に強い・弱いに関係ありません。たとえば、ビール500ml(アルコール5%・純アルコール20g)を代謝するのに、約4時間かかります。飲む量が増えると、それに比例して時間も長くなります。500ml缶を2本飲めば約8時間、チューハイ(7%)350mlを2本飲めば、同じく8時間ほど。そして、女性や高齢者は、一般的にさらに時間がかかる傾向があります。

また、「寝れば抜ける」「お風呂やサウナで汗をかけば抜ける」といった思い込みもありますが、実際にはそれらで代謝が早まることはありません。アルコールは主に肝臓で代謝されます。また、睡眠中は代謝の速度が遅くなることもわかっています。

翌朝に感じる倦怠感や頭痛は、アルコールがまだ残っているサインかもしれません。「寝れば抜ける」ではなく、“代謝には飲んだ量に比例した一定の時間を要する”という視点を持つことが大切なのです。

自分の体質を知ることが
いちばんのセルフケア

ここで、自分の体質を知る方法を紹介しましょう。

簡易的なテストの「アルコール体質試験パッチ」を使うと、自分のALDH2酵素の働きを容易に確かめることができます。確認の方法は、以下の通り。腕の内側に貼って20分後、皮膚の色を見ます。

  • しっかり赤くなる → お酒を飲めない体質

  • ほんのり赤くなる → お酒に弱い体質

  • 肌の色が変わらない → お酒を普通に飲める体質

この反応でわかるのは、「お酒に強い・弱い」ではなく、アセトアルデヒドをどれくらい早く代謝できるかという違いです。先述のとおり、日本人の約半数はお酒に弱い体質を持っています。それは欠点ではなく、ただの“違い”。自分の体質を知ることで、自然と無理のない飲み方ができるようになります。

また、厚生労働省のガイドラインでは、 生活習慣病のリスクが高まる飲酒量を「一日あたり男性40g以上・女性20g以上」と定めています。ただし、この飲酒量は『ここまで飲んでも大丈夫』という値ではなく、一日当たりの飲酒量が多すぎる人にとっての減酒目標。生涯お酒を楽しむためには、さらに半分程度の量を目安にするのが良いかと思います。

「どれくらい飲めるか」ではなく、「どうすれば心地よく楽しめるか」を意識することが、結果的にいちばんのセルフケアにつながることを覚えておいてください。

“飲む”も“飲まない”も自由に選べる時代へ

お酒とのつき合い方に“正解”はありません。飲む人も、飲まない人も、それぞれの体質や気分に合わせて心地よく過ごせることが大切です。

こうした考え方を企業の立場から形にしているのが、アサヒビール。同社では、「スマートドリンキング(スマドリ)」という取り組みを通じて、我慢ではなく、コントロールするという新しい文化を広げています。

【アサヒビールと筑波大学による共同研究。ノンアルコール飲料の提供が飲酒量(※1)にどのような影響を与えるのかを検証】

※1 摂取した純アルコール量を飲酒量と表現
※2 観察前と比較し、観察期間中に飲酒量が10%以上減少、かつノンアルコール飲料摂取量が増加した場合、「置き換え」ができたと判断
※出典:吉本尚らノンアルコール飲料の提供が飲酒量に与える影響に関するランダム化比較研究。関東甲信越アルコール関連問題学会(2022年)

たとえば、筑波大学との共同研究では、ノンアルコール飲料を取り入れることで、飲酒量を自然にコントロールできた人が多く見られました。また、適正飲酒セミナーや啓発活動を通じて、飲む人・飲まない人がともに気持ちよく過ごせる社会づくりを目指しています。

スマドリの理念は、「自分を知り、相手を思いやる」というシンプルなもの。それは、お酒に関する“選択”をもっと自由にするための考え方。酔いの仕組みを知り、自分の体質や体調を理解する。その小さな意識の積み重ねが、誰もが心地よく過ごせる社会につながるのではないでしょうか。

お酒を我慢するのではなく、理解し、選び、上手に付き合う。それが、飲むも飲まないも自由に選べる、これからの時代のあり方かもしれませんね。