ダイヤモンドは贅沢じゃなくなる。AIとラボが変える“日常のジュエリー革命”

ダイヤモンドは希少で、高価で、特別な日のために選ぶもの──。そんな“当たり前”が静かに書き換えられつつある。

変化の主役は、研究施設で生まれる ラボグロウンダイヤモンド(LGD)。環境負荷や採掘現場の倫理問題から距離を置きながら、天然と見分けがつかない輝きを持つこの素材が、ジュエリーにまつわる価値観を根底から揺さぶっている。

とくにZ世代は、この流れを“当然の未来”として受け入れ始めているようだ。高価であることよりも、背景にあるストーリーや透明性を重視する彼らにとって、LGDは“スマートなラグジュアリー”そのもの。手が届き、負担がなく、選ぶ理由を自分の価値観で説明できるからだ。

2026年1月、東京ビッグサイトで開催される日本最大級のジュエリー展示会 「第37回 国際宝飾展(IJT)」 でも、LGDは最重要テーマのひとつとして扱われる。宝飾品の未来を占う動きが多数紹介されており、いま業界が迎えている転換点を読み解く手がかりが示されている。

ラグジュアリーの基準は
希少性から“選ぶ理由”へ

天然では実現できないカラーやカットを安価に© RX Japan 株式会社
アンティーク調で格式高い「取り巻き」ジュエリー©RX Japan 株式会社
ダイヤモンドの輝きにこだわったカラージュエリー©RX Japan 株式会社

ジュエリー市場には現在、620社が125万点を超える製品を並べるという大規模な潮流が生まれている。その中心で議論されているのは「天然 VS ラボ」の単純な対立ではない。むしろ、両者がどのように共存し、消費者の価値観と結びついていくか。

天然ダイヤモンドは、希少性という確固とした価値を持つ。けれど、そのいっぽうで採掘による環境負荷や、コンフリクト・ダイヤモンド問題が長らく指摘されてきた。

LGDはその懸念を取り除き、「トレーサブルである」「価格が現実的」「天然では難しいカットやカラーも実現できる」といった“新しい価値”を提示している。

IJTで紹介される出展例には、その変化を象徴する製品が並ぶ。オリジナルのカットを実現する エス・エフ・ディー、アンティーク調のデザインにLGDを組み合わせた MJ、プラチナ×ダイヤモンドで圧倒的存在感をつくるティーズフォーティー、光を最大限に取り込むセッティングを追求した 今与──。いずれも、“希少だから価値がある”という従来の発想から一歩離れ、「どう輝かせたいか」を自由に選べる市場 が成立しつつあることを示している。

Z世代が引き起こす
「日常のラグジュアリー」革命

市場の伸びは数字にも表れている。「RX Japan 株式会社」によると、LGD市場が2032年に現在の約3倍、約15兆円規模へ成長すると予測されている。背景には、Z世代の価値観があるという。

彼らは高価なものを欲しがらないのではない。「なぜそれを選ぶのか」を説明できるものを選ぶ。サステナブルで倫理的で、価格も現実的──。LGDはその条件を満たしている。

こうしてジュエリーは「特別な日のための贅沢」から、“日常に持ち込める輝き”へとシフトしているのかもしれない。

天然とラボをどう区別する?
その答えはを握るのはAI

© RX Japan 株式会社

急速に普及が進むほど、避けられない課題もある。天然とラボの判別が肉眼では難しいという “真贋問題”だ。

IJTでは、この問題を解決するためのAI搭載ダイヤモンド判定機器がデモ展示される。化学的・光学的にほぼ同一のダイヤモンドを、AIが高速かつ高精度に分類する技術は、消費者にとっては安心を、業界にとっては健全な市場形成をもたらす。

ラグジュアリーの世界にAIが本格的に介入するという点でも、これは大きなトピックだ。素材の価値判断すらテクノロジーが担う時代に入りつつある。

新しい“輝きの哲学”へ

ラボグロウンダイヤモンドの存在は単なる素材の置き換えではなく、「ラグジュアリーとは何か?」という問いの再構築につながっている。希少性ではなく、倫理性でも価格でもなく、自分の価値観に即した“選ぶ理由”にこそ重心が移りつつある。

天然とラボの議論は、その象徴だ。IJTで行われる「天然ダイヤモンド VS ラボ育成ダイヤモンド」のディスカッションは、業界がこれからどこへ向かうのかを示す指標になるだろう。

手の届く価格で、背景に負荷がなく、デザインの自由度も高い──。LGDとAIがもたらす新しい市場は、これからのラグジュアリーが“所有する理由を自分で決める時代” に入ったことを明確に示している。

Top image: © iStock.com / madisonwi
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。