その土地土地を“生きてきたもの”が、ジュエリーに。
サンゴ、琥珀、森の木々…。これからご紹介するジュエリーたちはすべて、森や海で“生きてきたもの”でできている。
だからコンセプトは、呼吸するジュエリー「su Ha(スハー)」。
デザイナーの伊藤さんは、もともと家具職人。ジュエリーになっているのは、これまで数えきれないほどの素材を見てきた彼女が、5年をかけて国内外を歩いて出会った素材たち。
だからこそ、ひとつひとつに、しっかりしたルーツだったり、その土地土地のストーリー(歴史)が存在していたりする。
森のもの
琥珀(岩手・久慈)
使われるのは、8500万年前の地層から掘り出されたままのもの。琥珀は世界中で採れるけど、日本で採れる場所はかなり限られている。加熱処理をいっさいせず磨き上げられるから、赤みをおびた“久慈ならではの琥珀色”が生きている。あえて、なかに葉っぱなどが入ったものを選ぶのは「そのほうが歴史を感じられるから」。
赤松(島根・隠岐)
こちらは、隠岐の島の百年生の松山から。松枯れの被害で壊滅状態になった山の再生に取りくむ材木屋さんが探しだしてくれている、枝の根元の一部分。松の木自体が朽ちてしまっても、樹脂をたっぷり蓄えたこの部分だけは山に残っているんだとか。
年輪が細かいのも、陽にかざすと透けるほど樹脂化しているのも、ぜんぶ身を守るための必然の姿。生き抜く力があふれている。
エゾシカ(北海道全域)
「鹿ファースト」。そんな立場で野生動物との共生をめざすNPOの協力あってのこのピアス。こっくりとしたアイボリーと外側の模様が美しいが、年間12万頭以上捕獲されている鹿たちの命の尊さを考える意味も込められていたり。ちなみに、外側の黒い模様は木のヤニ。鹿たちが森の中で生きてきた証なのだ。
天然木/もみじばふう(神奈川・中井)
“木はヒューマンな素材”という表現をしてくれた伊藤さん。木肌の色は、育成する地域の人の肌色に近かったりすることもあり、日本には黄色みをおびた中間色の木材が多いという。そんななか濃い色の木を探し求めて辿りついたのが「もみじばふう」。幹の芯の部分の赤みが強い木肌色をそのまま生かしてある。
木のジュエリーは今後、その時々のいろいろな樹種でつくっていきたいのだそう。
海のもの
サザエ(静岡・伊豆)
「伊豆に大きなサザエがいるらしい」と聞きつけ、見つけたという釜サザエ。波が大きいがゆえになかなか獲られることなく、そのまま育ち続けた結果、稀に見るビッグサイズになるという。
「su Ha」では、富戸漁港に一人だけいる海女さんによって獲られているものが多く使われる。海の生き物らしい透きとおった白と規則性のある螺旋は、ふたの部分を磨き上げられたもの。
赤サンゴ(高知)
さばの漁師が多い高知だが、そのなかの宿毛(すくも)はサンゴ加工の産地。加工所にサンゴの原木がたくさんあるなかで、上の完成形のままのサンゴを発見し、そのまま磨いてジュエリーに。傷があったりすると、本来は日の目を浴びないんだけれど、「そのほうが生きてきた感じがする」と伊藤さん。桃色も白色も試作してみたけれど、やっぱり土佐らしさが出るのは赤サンゴに象徴される赤。ここまで深い赤は日本ならではなんだとか。
“ありのまま”が一番。
ダイヤモンドだったり、ゴールドだったり、ジュエリーは“本来これが綺麗”と思われているものだけが市場に出てくる傾向にある。そういった意味で、素材には“誰のフィルターもかかっていないもの”を選ぶようにしているそう。希少性や財産的価値にとらわれず、これまでジュエリーとして使われてこなかったものや、欠点とされてきた不揃いな表情に「地域の人からの学び」というエッセンスが加わり、新しい魅力が見出されている。
素材がもつ必然の美しさと、個々がもつ偶然の美しさ。
その土地土地で、違うように“生きてきた”ものたちが生きている「su Ha」のジュエリーたちに、ひとつとして同じものはないのだ。