恋愛AIで「上手すぎる文章」が不信を招く理由

マッチングアプリで届いた、完璧すぎるメッセージ。思わずときめく——はずが、今、多くの人がそこに違和感を覚え始めています。米メディア「VICE」が2026年3月に報じた調査データが、AI時代の恋愛コミュニケーションに潜む新たな亀裂を浮き彫りにしました。

半数以上がデートにAIを活用

米国のマッチメイキング企業Arrowsが2026年2月、米国在住の独身者1,008人を対象に実施した調査によると、回答者の54%が「デートの何らかの場面でAIを使ったことがある」と答えたそうです。プロフィールの推敲、メッセージの下書き、次に何を言うべきかの判断支援——用途は実に多岐にわたります。

興味深いのは、性別によって使い方に明確な違いがある点でしょう。女性の52%はチャットの分析やアドバイス取得にAIを活用する一方、男性の41%は口説き文句の生成に利用しているとのこと。世代別ではミレニアル世代の利用率が58%と最も高く、Z世代が51%、X世代が48%と続きます。

数字だけを見れば、AIの効果は明らかです。同調査によれば、AI利用者の年間ファーストデート回数は2.9回で、非利用者の1.4回と比べて107%も多い結果に。さらに、プロフィールの作成者を伏せたブラインドテストでは、AI生成プロフィールへの関心率が36%と、人間が書いたプロフィール(24%)を大きく上回りました。効率だけを見れば、AIは恋愛の「最強の助っ人」に見えます。しかし、話はそう単純ではありません。

「デジタル・キャットフィッシング」
という不信

同じ調査で、回答者の58%が「AIを使ってプロフィールや会話を作成する行為はデジタル・キャットフィッシング(なりすまし)に該当する」と回答しています。女性では60%、男性でも55%がこの見方を示しました。Z世代に至っては75%が「AIがデートをより人工的に感じさせる」と答えており、AIネイティブ世代ほど、その違和感に敏感であることがうかがえます。

実際に、5人に1人が「相手のAI使用を疑ってゴースティング(音信不通)した経験がある」と回答。良いファーストデートの後にAIの多用が判明した場合、17%は即座に関係を終了し、16%は「裏切られた」と感じると答えたそうです。

ここに浮かび上がるのは、「便利だけど使うと信頼を失う」という根深いパラドックスではないでしょうか。近年、米国では「AI生成コンテンツと人間のコンテンツを見分ける自信がない」と感じる人が過半数に達しているという調査結果もあり、真贋の判定が難しいからこそ、疑念が一層膨らむ構造が生まれています。

「サプリ」と「本物の食事」の境界線

キンゼイ研究所のジャスティン・ガルシア所長は、「WIRED」の取材に対し、「初期のデートの要点は信頼を築くこと。相手が本当の自分ではないと感じた瞬間に、それが損なわれる」と指摘しています。さらに同氏は「AIはサプリメントであり、いつかは本物の食事が必要だ」と表現しました。

この比喩は、AI支援の適切な射程を考えるうえで示唆に富んでいます。栄養補助としてのサプリメントは有用ですが、それだけで生きていくことはできません。同様に、AIが会話のきっかけや自己表現の壁を下げてくれることには価値がある一方で、対面で交わす不完全な言葉や沈黙、ぎこちなさの中にこそ、人と人が信頼を紡ぐ本質があるのかもしれません。

「下手でも本物」が新しい魅力になる

日本でも生成AIの個人利用は着実に広がっており、総務省の情報通信白書(令和7年版)によれば、国内の生成AI個人利用率は26.7%に達しています。「精巧なフェイクにだまされること」へのリスク意識も高まっており、この問題は決して海の向こうだけの話ではありません。

かつて、恋愛において「言葉が上手な人」は魅力的でした。しかしAIが誰にでも洗練された文章を与えられる時代になった今、価値の重心は静かに移動し始めています。「上手に書けること」よりも「不完全でも自分の言葉で書いたこと」——その真正性こそが、新しい信頼の通貨になりつつあるのではないでしょうか。

完璧なメッセージより、ちょっとぎこちない一文に心が動く。そんな逆転が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。

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