家を買えないと「大人」になれない?米国で起きている深刻な変化

米「Newsweek」誌が報じた最新データが、住宅市場の厳しい現実を浮き彫りにしています。アメリカで初めて住宅を購入する人の割合が、調査開始以来の最低水準に落ち込みました。その背景には、単なる価格高騰を超えた「持ち家の意味そのもの」の変容が見え隠れしています。

初回購入者がわずか21%に

全米不動産協会(NAR)が発表した2025年版の年次調査「Profile of Home Buyers and Sellers」によると、住宅購入者全体に占める初回購入者(いわゆるファーストタイムバイヤー)の割合は21%にまで低下しました。前年から3ポイントの減少で、1981年の調査開始以来、過去最低の数字です。

さらに注目すべきは、初回購入者の年齢中央値が40歳という過去最高に達したこと。かつて「20代後半〜30代前半で家を買う」のが当たり前とされた時代は、もはや遠い記憶になりつつあります。

この背景には、2019年から2024年にかけて住宅価格が約50%も上昇したという事実があります。住宅ローン金利も同時期にほぼ倍増し、現在も6.5%弱という歴史的な高水準が続いています。初回購入者の平均頭金は購入価格の10%に達し、1989年以来の最高水準を記録しました。エクイティ(住宅資産)の蓄積がない若い世代にとって、この壁はあまりにも高いと言わざるを得ません。

市場を支配するベビーブーマー

一方で、住宅市場を牽引しているのはベビーブーマー世代です。NARの同調査によれば、住宅購入者の42%、売却者の52%をこの世代が占めています。長年にわたって蓄積してきた住宅資産を元手に、次の住宅へと乗り換える——いわば「持てる者がさらに持つ」構造が鮮明になっています。

NARの副チーフエコノミスト、ジェシカ・ラウツ氏はニューズウィーク誌の取材に対し、「住宅市場はエクイティを持つ既存の住宅所有者と、参入を試みる初回購入者の間で鋭く分断されている」と指摘しました。リピートバイヤー(2回目以降の購入者)の年齢中央値は62歳、頭金は23%と、こちらも2003年以来の高水準です。

興味深いのは、全米の住宅所有率自体は約65%台で安定しているという点でしょう。つまり、住宅を持つ人の総数が減っているわけではなく、「すでに持っている人」が市場を回し続けている一方で、「これから持とうとする人」が入り口で弾かれている。この構造的な固定化こそが、数字以上に深刻な問題ではないでしょうか。

「人生が止まっている」という感覚

この問題が単なる経済ニュースにとどまらないのは、住宅を買えないことが人生全体の設計に波及しているからです。

調査会社ハリス・ポールの調査では、アメリカ人の約7割が住宅市場への参入には6桁(10万ドル以上、日本円で約1,500万円以上)の年収が必要だと考えていることが明らかになりました。同じく約7割が、住宅所有はもはや「目標」ではなく「特権」のように感じると回答しています。

同社のチーフ・ストラテジー・オフィサー、リビー・ロドニー氏の言葉は印象的です。「アメリカ人の約半数が、住宅コストのせいで人生を一時停止させられていると感じている。それは市場統計ではなく、マイルストーンを先延ばしにし、キャリアを再考し、成功の定義を書き換えている世代の姿だ」。

実際、住宅購入の「遅れ」は資産形成にも直結します。不動産情報サイトRealtor.comの調査によれば、32歳までに初めての住宅を購入した人は、40代で購入した人と比べて50歳時点の純資産が22.5%高いという結果が出ています。住宅を買えない期間が長引くほど、将来の経済的な格差が広がっていく——この「遅延のコスト」は、若い世代にとって見えにくいけれど確実に積み上がるリスクです。

「持ち家神話」の先にあるもの

アメリカで起きているこの変化は、対岸の火事ではないかもしれません。日本でも住宅ローン金利の上昇局面が意識され始め、都市部のマンション価格は高止まりが続いています。「持ち家か賃貸か」という古くからの議論も、前提となる条件そのものが変わりつつあります。

かつて住宅を持つことは、努力すれば誰もが到達できる人生の通過儀礼でした。しかし今、それは「すでに資産を持つ者だけがアクセスできる特権」へと意味を変えつつあるように見えます。住宅を買えないことが「個人の努力不足」ではなく「構造的な排除」として認識され始めたとき、私たちは「成功とは何か」「大人になるとはどういうことか」という問いそのものと向き合うことになるのでしょう。

住まいの形が多様化する時代だからこそ、「家を持つこと」に紐づけられてきた人生の前提を、一度立ち止まって見つめ直してみる価値があるのではないでしょうか。

Top image: © iStock.com / Drazen Zigic
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