なぜ、私たちは「宇宙に住めない」のか?専門家の議論まとめ
地球を出て、宇宙に住む──。
他の惑星への移住を望む人類の願いを叶えるべく、「NASA」は数年後に再び宇宙飛行士を月に送る計画を進行中だ。それが、国際共同の有人月探査計画として実施されている「アルテミス計画」である。
しかし、地球の外で人間が恒久的に存在を確立するという野心的かつリスキーな計画には、実際どれほどの困難が伴うのだろうか。
『Scientific American』が取り上げた議論をもとに、問題点や展望について改めて考えてみよう。
人間にはまだ早い?
宇宙移住の問題点とは
簡潔に表せば宇宙空間は「人間を殺す」ために設計されたかのようなもの。
人間はゆっくりと長い年月をかけ地球の環境に適応してきたが、ひとたび地球の外に出てしまえば、その努力は虚しく、身体的にも精神的にもたちまちに弱り始めてしまう。
宇宙空間で生きるということは、私たちのDNAに損傷を与え、マイクロバイオームを変化させ、概日リズムを乱し、視力を低下させ、癌のリスクを高め、筋肉と骨の損失を引き起こし……恐ろしい弊害が起こるリスクばかりだ。
健康上の問題は必ずしも私たちの宇宙居住を断念させる脅威とは限らないようだが、もう一つ大きな課題がある。
それは、コスト面の問題だ。
名だたる億万長者の投資家が冒険心に駆られ、宇宙開発に多額の資金を提供してくれるかもしれない。
しかし、宇宙開発産業は一種のビジネスであり、その延長線上には「お金を稼ぐ」ことが必要になる。ビジネスモデルを確立させ、宇宙での不自由ない生活を望むには、想像しただけで気が遠くなってしまうくらい多額の資金が必要になるのだ。
そもそも、私たちはなぜ宇宙に行きたいのか?
様々なリスクや影響を知ったあとで、根本的な問題に振り返ってみよう。
「なぜ、私たちは宇宙で生活したいのか?」
サンタクララ大学のブライアン・パトリック・グリーン氏によれば、この疑問は計画を進めていく上で「最も重要な倫理的問題」になるとのこと。宇宙生活に対する憧れや目的は、果たして私たちに降りかかるコストやリスクを天秤にかけても変わらないものだろうか。
グリーン氏は、この疑問をさらに単純化してしまえば「この目的のために人間を派遣すべきか?」というものになると言う。
他の惑星へ定住を目指す宇宙飛行士には、がんや全身衰弱の重大リスクだけでなく、命を落とす可能性も大いに含まれている。それに、宇宙飛行士がもしリアルに宇宙人と出会ってしまったら、冷静かつ、安全に対処できるだろうか……?
そして、月への移住がささやかれる近年。
「月探査情報ステーション」は、地球の微生物によって月を汚染してしまう可能性をかなり危険視している。月にたどりついた地球の微生物が、強烈な放射線で突然変異を起こし、有害な微生物に変わってしまう可能性さえあるという。
議論はもう終わり。
いまは「行動を起こす」とき
おそらく、議論し始めれば倫理的問題やリスクなど計画を阻む困難は次々に生じることだろう。
しかし、今は間違いなく「行動を起こす」とき。どんな問題も実行してみなければ結果を知り得ず、先に進むこともできない。
「JAXA」の現役宇宙飛行士である野口聡一さんは、某宇宙漫画で「宇宙開発に対して否定的な考えをもつ"2次元頭"の人を説得するには、実際に3次元(宇宙)に連れていくしかない」という話をしていた。
私たちがいきなり宇宙に飛び立つのは難しいけれど、日本にも宇宙飛行士はたくさんいる。身近な日本人宇宙飛行士が宇宙で活躍する姿を見れば、私たちの意識にも宇宙が降りてきて、もっと宇宙が“近く”なるかもしれない。
今はまだ私たちの身近な存在になれていない、宇宙での生活。私たちが意識を変えれば、意外と宇宙はすぐそばにあるのかも……。