デジタルデトックスを促すL.L.Beanの新作トート

アメリカの老舗アウトドアブランド L.L.Bean が、2026年もメンタルヘルス月間(5月)に合わせてすべてのSNS投稿を休止すると発表しました。5年目を迎えるこの取り組みでは、限定トートバッグ「Analog Tote」が新たに登場。デジタルから離れる時間を、モノとして手渡そうとするその姿勢に注目が集まっています。

©L.L.Bean

SNSを「止める」ブランドの覚悟

L.L.Beanが「Off the Grid」と名づけたこの施策を始めたのは2022年のこと。メンタルヘルス月間を理由に大手小売企業がSNS活動を全面停止するのは、当時としては極めて異例の判断でした。それから毎年5月になると、同社のSNSプロフィールは一掃され、代わりにメンタルヘルスに関するリソースやヒントだけが残されます。

2026年で5周年。一過性のバズ狙いではなく、ブランドの恒例行事として定着させたところに、同社の本気度がにじみます。取締役会長で創業者の曾孫にあたるShawn Gorman氏は「屋外で過ごす時間が健やかな生活に不可欠であることは証明されている。特に生活の多くがオンラインで過ごされる世界においてはなおさらだ」とコメントしています。

近年、若い世代を中心に「スマホ疲れ」や「SNS断ち」への関心が高まっていることは、多くの方が肌で感じているのではないでしょうか。実際、同社が引用するThe Harris Pollの2025年調査によれば、Z世代の成人の81%、ミレニアル世代の成人の78%が「デジタルデバイスからもっと簡単に離れられたらいいのに」と回答しているとのこと。つまり、多くの人が「離れたい」と思いながらも、なかなか実行に移せない現実があるわけです。

「意志力」ではなく「モノ」で解決する

そこで今年の目玉となるのが、限定版の「Boat and Tote(ボート・アンド・トート)」です。L.L.Beanを象徴するキャンバス地のトートバッグに、「Off The Grid」または「Analog」のモノグラムを入れた2種類が用意されます。

ユニークなのは、このバッグが単なるグッズではなく、「オフラインの時間を物理的に詰め込む入れ物」として設計されている点です。同社は双眼鏡、トレイルをテーマにしたパズル、携帯用トラベルハンモック、サングラスなど、スクリーンなしで楽しめるアイテムを自分好みにカスタマイズして詰めることを推奨しています。

デジタルデトックスというと、どうしても「我慢」や「自制心」の話になりがちです。しかしL.L.Beanのアプローチは、意志の力に頼るのではなく、手に取れるプロダクトを通じて「スマホの代わりに持ち出すもの」を提案するというもの。精神論をモノに変換するこの発想は、ウェルビーイング市場における一つの転換点になりうるのではないでしょうか。

80万ドルの投資が生んだ9万時間

Off the Gridは単なるマーケティング施策にとどまりません。L.L.Beanは、1949年にメンタルヘルス月間を創設した団体 Mental Health America(MHA)と複数年にわたるパートナーシップを結んでおり、2022年の施策開始以来、同団体に80万ドル(約1.2億円)を投資してきたと発表しています。

そのうち39万ドルは全米各地の地方支部を支援する18件のミニグラント(小規模助成金)に充てられ、屋外アートワークショップや適応型アウトドア活動、森林浴、乗馬といった多様なプログラムが実現しました。これらの活動を通じて創出された屋外活動時間は、累計で9万時間を超えるとのことです。MHA暫定社長兼CEOのPierluigi Mancini博士も「自然の中で過ごし、デジタルノイズから切り離されることは、メンタルヘルスとウェルビーイングを支える上で意味のある役割を果たしうる」と語っています。

数字だけを見れば企業のCSR活動の一環ですが、「SNSを止める」という象徴的な行動と、地域コミュニティへの具体的な資金提供が一本の線でつながっている点に、このプログラムの説得力があります。

「不便」を楽しむ選択肢として

1912年創業、米国に70以上の店舗を構え、日本にも18店舗を展開するL.L.Bean。2025年にはアウトドアおよびコミュニティ支援団体に430万ドル以上を寄付するなど、社会貢献への姿勢は一貫しています。

デジタルとの付き合い方に正解はありません。ただ、「オフラインの時間」をキャンバス地のトートバッグという形にして手渡すという発想には、どこか温かみがあります。スマホを置いて、代わりにトートバッグを持って外に出る。そんなシンプルな提案が、案外いちばん効くのかもしれません。

Top image: © L.L.Bean
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