ドーピング「解禁」のスポーツ大会。勝ったのは“クリーン”な選手だった……

2026年5月25日、英紙「The Guardian」が報じた衝撃的なスポーツイベントの結末が、いま世界中で議論を呼んでいます。薬物使用を全面的に認めた史上初の競技大会「Enhanced Games(エンハンスト・ゲームズ)」が米ラスベガスで開催されたのですが、蓋を開けてみれば、優勝者の多くは薬物を使わない「クリーン」な選手だったのです。

「人体の限界」を謳った大会の実態

2023年に構想が発表されたエンハンスト・ゲームズは、パフォーマンス向上薬物(PED)の使用を公認し、「人体の限界を再定義する」と高らかに宣言していました。主催者は複数の世界記録樹立を約束。会場には巨大スクリーンが設置され、参加選手42名の薬物使用統計がリアルタイムで表示されるという、従来のスポーツ大会では考えられない演出が施されました。

同大会の発表によれば、参加選手の90.5%がテストステロンエステルを、78.6%がヒト成長ホルモンを使用。EPO(赤血球を増やし持久力を高める造血ホルモン)の使用者も40.5%にのぼったとのことです。

しかし5時間以上に及んだ競技の結果、公式世界記録を上回ったのはたった1つ。ギリシャの水泳選手クリスティアン・ゴロメエフが男子50m自由形で20秒81を記録しましたが、エリート競技では禁止されている特殊スキンスーツを着用しており、ドーピングも行っていたため、この記録が公式に認められることはありません。

クリーン選手が突きつけた「不都合な真実」

最も皮肉だったのは、薬物を使用しない選手たちの活躍でしょう。パリ五輪銀メダリストのフレッド・カーリーが男子100mで優勝し、ドーピングを行ったライバルたちに向かって「もっと頑張れ、もっとあの薬をやれ」と挑発。バルバドスのトリスタン・エヴリンも女子100mを11秒25で制し、「勝利には化学以上のものが必要だと証明した」と語りました。男子50m背泳ぎでもアメリカのハンター・アームストロングがクリーンのまま頂点に立っています。3名はそれぞれ25万ドル(約3,700万円)の賞金を手にしました。

一方、ウエイトリフティングでは記録更新の失敗が相次ぎました。ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」出演で知られるアイスランドの怪力男トール・ビョルンソンもデッドリフト自己ベスト510kgを更新できず。カナダのボーディ・サンタヴィが3回の試技で世界記録を超えられなかった際には、主催者が突然「もう1回チャンスを与えます」とアナウンスする場面もあったといいます。ルールすら即興で変えてしまう運営姿勢に、エンターテインメント優先の本質が透けて見えました。

「禁忌の解放」が照らしたもの

大会CEOのマクシミリアン・マーティン氏は、ゴロメエフの足元にひざまずき「今夜、世界を変えた」と勝利宣言したと報じられています。観客席にはフィットネスインフルエンサーやバイオテック投資家が並んでいたとのこと。

近年、シリコンバレーを中心に広がるバイオハッキング文化では、サプリメントやホルモン療法による「自己最適化」が一種のライフスタイルとして浸透しつつあります。エンハンスト・ゲームズは、そうした潮流をスポーツの文脈に持ち込もうとした試みだったのかもしれません。

しかし結果が示したのは、薬物という「ブースト」を全員に解放しても、才能と鍛錬を積み重ねたクリーンな選手には敵わないケースがあるという事実でした。禁止を取り払ったからこそ、「クリーンであること」の競技的価値がかえって浮き彫りになった——この逆説は、スポーツにおけるフェアネスとは何かを改めて考えさせてくれます。

ドーピングを「悪」として隠すのではなく、堂々と可視化した先に待っていたのが、薬物なしの勝利だったという皮肉。それは主催者にとっては想定外だったかもしれませんが、スポーツを愛する人々にとっては、むしろ希望のある結末だったのではないでしょうか。

Top image: © iStock.com / bondarchik
薬物使用を認めたスポーツ大会「エンハンスト・ゲームズ」。しかし結果は、クリーンな選手たちの勝利。人体の限界をめぐる挑戦が、スポーツにおける“本当の強さ”を問い直す皮肉な結末となりました。
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。