工芸品の「よさ」を数値にする。AIスコアという実験が始まる

旅先の窯元で手に取った湯呑み、ギャラリーで目を奪われた漆の椀。「いいな」と思いながらも、値札を見て手が止まった経験はないでしょうか。大阪のスタートアップ・ビジュパス社が2026年7月16日に発表したのは、その「よさ」をAIで可視化するという、ちょっと大胆な試みです。

窯の中の偶然を、AIはどう読むか

SILWaのサイト内サービス構成図。EC販売(発見)、オークション(共感)、オーダー(推し活)の3つの導線と、鉄瓶・花器・木皿の工芸品写真
© 株式会社ビジュパス

ビジュパス社が米国カリフォルニア州のサステナビリティ・テック企業SustainaVerse社と業務提携し、共同開発に乗り出したのは、日本の工芸品に特化したAIスコアリングシステム。これを同社が2026年11月に開設予定の工芸特化型グローバルオークションサイト「SILWa(シルワ)」に搭載する計画です。

評価の軸として挙げられているのは、素材、技法、制作工程、作家や職人の背景、地域性、希少性、そして文化的文脈。見た目の美しさだけでなく「この器がなぜここに存在するのか」という物語ごと数値に落とし込もうとしています。

ここで気になるのは、工芸品の魅力の核にある「偶然性」の扱いです。窯の中で灰が降りかかって生まれる景色、釉薬(ゆうやく)——器の表面にかけるガラス質の膜——が予想外の色に焼き上がる瞬間。プロジェクトを統括する工芸ディレクターの仲川依利子氏は、「偶然から生まれる美しさもきちんと評価できるシステムにしていきたい」と語っています。

正直なところ、それが本当に可能なのかはまだわかりません。でも、「偶然の美」を最初から評価対象に含めると宣言している点には、工芸への敬意が感じられます。

「目利き」の民主化という設計思想

SustainaVerse社のアプリ「SustainaLens」の画面。日本海水食塩1kgのバーコードを読み取り、環境(Environmental)・社会(Social)の各指標スコアを表示している
© 株式会社ビジュパス

このシステムで注目したいのは、スコアの位置づけです。ビジュパス社は「作品に優劣をつけるためのものではない」と明確に線を引いています。目指しているのは、専門知識がなくても工芸品の背景や価値を理解し、納得して購入できるようにするための「情報基盤」。

言い換えれば、これは「目利き」の民主化です。これまで工芸品の価値判断は、長年の経験を積んだ鑑定家や特定の流派に精通したコレクターの「眼」に委ねられてきました。その結果、知識のない買い手は「高いのか安いのかわからない」まま購入を諦め、腕のある職人が適正な対価を得られないという構造も生まれていた。

提携先のSustainaVerse社は、日立のシリコンバレー・インキュベーションプログラムから生まれた企業で、スマートフォンで商品のバーコードを読み取ると環境・社会的価値の指標を確認できるアプリ「SustainaLens」を米国・欧州で展開しています。同社CEOの三木健一氏は「ビジネスとして成立させなければ続かない」とも述べており、理想と現実の両方を引き受ける姿勢がうかがえます。

スコアを見た後も「なんかいいな」は残るか

工芸品の価値が数値で「見える」ようになったとき、私たちは数字を見る前の自分の感覚を、まだ信じられるでしょうか。スコアが高いから好き、低いから興味がない——そんな消費に陥らないとは言い切れません。

ビジュパス社は、蓄積したデータを将来的に文化継承のアーカイブとして保存していく構想も掲げています。商取引のツールが、いつか文化保存の装置になるかもしれない。その可能性に賭けるなら、スコアはあくまで「翻訳」であって「採点」ではないという原則を、運用開始後も守り続けられるかが鍵になりそうです。

工芸品を前にして「なんかいいな」と感じるあの直感。それを殺さずに後押しするテクノロジーになれるのか。2026年11月のサービス開始を、少しだけ身構えながら、でも期待しながら待ちたいと思います。

SILWa(シルワ)

【サービス開始予定】2026年11月
【サイト内サービス構成】EC販売/オークション/オーダー
【主な機能】工芸品の価値を数値化・可視化、希少性の明確化、市場価格との比較、真正性の証明
【開発】株式会社ビジュパス × SustainaVerse, Inc.
【公式サイト】株式会社BIJOUXPASS

Top image: © iStock.com / Jacob Wackerhausen
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