スマートウォッチを外して気づくこと。「データ依存」から離れる新しいウェルネス
英メディア「Dazed Digital」が報じた、ちょっと意外なトレンドがあります。血糖値モニター、睡眠スコア、ランニングの記録——身体のあらゆるデータを追いかけてきた人たちが、いま静かにデバイスを手首から外し始めているというのです。その名も「unquantified self(非定量化された自己)」。
ぐっすり眠れたかをスマホで確認する私たち
スマートウォッチやヘルスケアアプリの普及によって、私たちは自分の身体をかつてないほど「見える化」できるようになりました。睡眠の深さ、心拍数の変動、歩数、消費カロリー。数字はたしかに便利です。でも、ふと立ち止まって考えてみてください。昨夜ぐっすり眠れたかどうかを、自分の体感ではなくスマホの画面で確認していませんか?
Dazed Digitalの記事によれば、Googleの検索データで「intuitive wellness(直感的なウェルネス)」という言葉の検索量が過去1年間で全世界2,021%も増加しているそうです。2,021%——つまり約20倍。これはもはやニッチな関心ではなく、はっきりとしたうねりです。
Global Wellness Summitの2026年トレンドレポートも、ウェアラブルデバイス離れや高強度トレーニング(HIIT)の衰退といったシグナルを指摘しています。背景にあるのは、いわば「ウェルネス燃え尽き症候群」とでも呼ぶべき状態。完璧な睡眠スコアを追い求めるあまり、かえって眠れなくなる——医学の世界では「オルソソムニア」と呼ばれる、睡眠データへの不健全な執着も報告されています。数字で身体を最適化しようとした結果、数字そのものがストレス源になってしまう。なんとも皮肉な話です。
データを手放すことが「反逆」になる時代
「unquantified self」の実践者たちは、データの代わりに自分の身体感覚を信頼します。ロンドンの公園で裸足になって地面に立つ「グラウンディング」を行ったり、裸足に近い感覚で歩けるスニーカーを選んだり。合成素材の高機能ウェアではなくオーガニックコットンを着て、サプリメントも自然由来のものを選ぶ。
興味深いのは、彼らが都市生活やジム通いを捨てているわけではないという点です。テクノロジーを全否定するのではなく、「測ること」と「感じること」のバランスを自分で取り直そうとしている。ブランド戦略家のTom Garland氏は、Dazed Digitalの取材に対し、あらゆるものが数値化される時代だからこそ、測定不可能なものに価値を見出す動きが生まれていると語っています。
データを手放すことが「反逆」になるほど、私たちは数字に依存していた——この事実自体が、立ち止まる理由になるのではないでしょうか。
西洋が再発見した感覚は足元にあった
この流れを日本から眺めると、どこか既視感があります。サウナで「整う」感覚、禅の坐禅、気功や呼吸法。数値ではなく身体の内側の感覚を頼りにする文化は、東洋に長い歴史があります。西洋のウェルネス業界がデータ偏重の果てにたどり着いた場所が、実は私たちの足元にあった——そう考えると、少し誇らしくもあり、同時に「自分たちもその感覚を忘れかけていたのでは?」という問いが浮かびます。
もちろん、この動きにも矛盾はあります。裸足感覚のスニーカーも、オーガニックコットンのウェアも、決して安くはありません。「測らない健康」が新たなプレミアム消費として回収されていく可能性は、正直に言って否定できないでしょう。
それでも、今夜寝る前にスマートウォッチを外して、自分の身体に「今日、調子はどうだった?」と聞いてみる。その小さな実験に、お金はかかりません。答えを数字ではなく、自分の感覚で受け取ってみる。それだけで、健康との付き合い方が少しだけ変わるかもしれません。






