不確かな道。そこへ、歩を進める。 ”新時代”のキーワード「過程の快感」- 佐々木俊尚

佐々木俊尚さんのインタビューは、前編・後編の2部構成です。前編の本記事では、佐々木俊尚さんの旅の経験や今の日本のマインドについてのお話を掲載します。

 「登る人生より、歩く人生がいい」 
予測不可能さを楽しむ、ロングトレイルという旅

佐々木俊尚

ジャーナリスト、評論家。「電子書籍の衝撃」、「キュレーションの時代」、「当事者の時代」など著書多数。 キュレーターとして、TwitterなどでITやメディアについて、積極的に発信をしている。新著『レイヤー化する世界』 、『簡単、なのに美味い! 家めしこそ、最高のごちそうである』。

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いま、佐々木さんがはまっているロングトレイルとは、どんなものなんですか?

 

Answer

登山道やハイキング道、林道、古道など、距離の長い自然歩道が開かれている場所を歩くのが、ロングトレイルです。世界で有名なところだと、スペイン巡礼の道やアメリカのアパラチア山脈のトレイル、国内なら信越トレイルとか八ヶ岳スーパートレイル、四国八十八ヶ所など、いくつかあります。

 

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よく行かれるのは、どこですか?

 

Answer

最近は、八ヶ岳山麓スーパートレイルです。頂上には一切行かず、麓を一周するコースなんですが、全長約200キロもあって。まだ3分の1しか歩けていないんですよ。

 

athlete_head_q

えっ、200キロって東京から静岡間くらいの距離では……長い!!

 

Answer

しかも、いろんな道があって。登山道や林道はもちろん、牧場の隅っこを歩いたりすることもあります。道は、地図上にマッピングされているので、自分の位置を確認しながら進むんですよ。

 

athlete_head_q

変化が多くて大変そうですね。疲れたりしないんですか?

 

Answer

いや、むしろ、その予測不可能さが魅力なんです。山の周囲を水平に移動しているから、尾根筋と沢筋が交互に現れるんです。すると、見通しが悪くて前方がどうなっているかまったくわからない。過酷な道が続いて、弱音を吐きそうになった次の瞬間、目の前に巨大な湿原が現れて、疲れなんてすっかり忘れてしまうほど癒されるということも何度もありました。もちろん逆もありますが……その先行きの見えなさが最高に楽しくて。

 

 

athlete_head_q

想像するだけで気持ち良さそうですね。予測できないことを楽しめるのも能力に思いますが...。

 

Answer

そうですね。「次はそうきましたか」くらいに楽しめるのって大事で。いちいちヘコたれていても仕方がないですし。
登山で遭難する原因には、2つのパターンがあるんですよ。1つ目は、落石や雪崩の自然災害。もう1つは、なんだと思います? 疲労なんです。道に迷って、疲労し、凍死してしまう。
それって人生でも同じで、一瞬のトラブルは仕方がないけれど、体力がないと状況判断を誤り悪い方向に進んでしまうんですよ。

 

athlete_head_q

ロングトレイルを始めたのは、いつ頃からなんですか?

 

Answer

本格的に始めたのは、去年くらいからですね。

 

athlete_head_q

最近なんですね。なぜ始められたんですか?

 

Answer

直接的なきっかけはロングトレイルを知ったことですが、もともと登山をやっていて。登山と言っても、征服的な山登りよりも、東北や新潟の深くなだらかな山を永遠と歩くのが好きだったので、僕にぴったりでした。

 

athlete_head_q

どうして登るより、歩く方が好きなんですか?

 

Answer

「歩く=生きる」という感覚を得られるのが楽しいからです。地元の人々が生活として利用している道を歩いていると、いつもそう感じるんですよ。

 

 

歴史の終わりに、

プロセスの快感こそが新しい旅の文化となる

 

athlete_head_q

山登りとの大きな違いはなんでしょうか?

 

Answer

山登りは過程の快感と達成の快感があるのに対して、ロングトレイルは過程の快感しかありません。辛い登りもなければ、だるい下りもないんです。

こういった過程の快感を追求するスポーツは、実は最近流行っていて。たとえば、ランニング、自転車、水泳。どれも勝ち負けがなく、一人で黙々と楽しむスポーツじゃないですか。ランニングは走っている過程はけっして辛くなく、ランナーズハイという言葉があるように走っているうちに気持ちよくなるんです。

このように、「今ある状況を持続して、今を楽しむ」というのがある種の新しい文化のようになってきています。「常に旅している」というのが現在の世の中の風潮なんじゃないでしょうかね。

 

athlete_head_q

ずっと旅の過程を楽しむということですね。

 

Answer

そうです。これは大きな視野で言うと、歴史の終わりです。

 

athlete_head_q

歴史の終わりとは、どういうことですか?

 

Answer

「明日は今日よりもよくなる」というのが、16〜17世紀頃にヨーロッパで生まれた近代の概念。歴史が直線に進み、日々進化するというのが前提でした。
でも、近代以前の中世においては、経済成長そのものがなかったので、近代の直線的な時間感覚は存在しない。この頃の時の流れは、昼と夜、春夏秋冬というような反復、または円環という感覚なんです。

 

athlete_head_q

それが歴史の終わりと、どう関係あるのでしょうか?

 

Answer

確かに2度の産業革命で生活は豊かになりましたが、少なくとも経済成長が困難な先進国においては、「もう、これ以上は豊かになれないんじゃないの?」という雰囲気が広まってきています。そうなると、今はつらいけれど明日を目指して頑張ろうという気にはなれず、日々成長し続けることを前提とした近代の概念が成り立たない。これこそ、歴史の終わりです。

実際は、「今は豊かで楽しいけれど、明日はどうなるかわからないから、今を持続させた方が楽しいよね」というのが、2014年の日本のマインド。その意味で、我々の人生は、目標のない永遠の旅になってきていると言えるんじゃないかな。つまり、旅するように、プロセスを楽しむこと自身が、これからの時代を生き抜いていく大きな鍵になるのです。

 

第一弾 インタビュー終了後編では、旅に出る意義の変化や、旅の大切さについてお話を掲載します。
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。