佐々木俊尚さん、若者が世界にでるのって本当に大切なんですか?-佐々木俊尚
旅に出て、世界とダイレクトにつながる
―佐々木俊尚さんが考える、居場所を確認する旅
佐々木俊尚さんのインタビューは、前編・後編の2部構成です。後編の本記事では、旅に出る意義の変化や旅の大切さについてお話を掲載します。
佐々木俊尚氏 ジャーナリスト、評論家。 「電子書籍の衝撃」、「キュレーションの時代」、「当事者」 の時代など著書多数。 キュレーターとして、TwitterなどでITやメディ アについて、積極的に発信をしている。新著『レ イヤー化する世界』 、「簡単、なのに美味い! 家めしこそ、最高のごちそうである」。
灰色だけど、安定した人生が待っている。モラトリアムからの脱出だった昔の旅
旅や旅行の意義はどう変化しているんでしょうか?
これまではマスのエンターテインメントでしたが、今は人生を考え直したい人のためのツールになってきていると思います。
どうしてでしょうか?
80、90年代までは、安定した状況の中で、出る旅だったのに対して、今は、不安定な状況の中で出る旅になっているからです。
具体的にどういうことですか?
安定して人生が固定化された状況での旅は、逃走の旅でした。「新卒採用で大企業に入って、安定した収入があって、結婚して、子供2人つくって、…」というライフプランが誰にでもありました。一生安定だけど面白くない人生。ある種の人生に対する諦めの感覚があったわけです。だから、たとえば、人生のゴール地点だった就職が決まると、卒業までの期間を利用して旅行に行く人が大勢いました。パリに自分探しの旅行に出る女性もいた。「ここでつまらないOLをしている自分は、本当の自分じゃない。本来はきっとパリの下にあるんだ」と仮定して、パリに向かったんです。これらの旅行は明らかに、逃走であり脱走だったわけですよ。
でも、今は、生涯安定した職業に就かないかもしれないし、生涯結婚しないかもしれない。もはや我々に安息の地はないかもしれないという前提で生きなければならないわけですよ。そういう不安定な状況で出る旅は、自分の居場所の確認や立ち位置の構築という意味があるんだと思います。実際に僕は後者の旅をしたことがあって。
どんな旅だったんですか?
毎日新聞社に勤めて12年ほど経ったとき、脳腫瘍になって入院して一時的に激務から外れたんです。それで糸が切れて、仕事を辞めようかとかいろいろ考えたんですが、なかなか踏ん切りがつかなくて。そこで、このまま東京にいても埒が明かないなと思い、考えに出かけたのが四国八十八箇所でした。「自分は何がやりたいのか」「将来どうしたいのか」などと歩きながら散々考えましたね。結局答えは出なかったんですが、帰ったら辞める気になっていて。
これが、不安定な状況下で自分の立ち位置を探しにいく旅なんです。
なぜ、自分の立ち位置を探すために、旅なんでしょうか?
自分の頭の中と周りの見知らぬ世界とを、はめ合わせることで、外界との関係をゆっくり考え直すいい機会になるからです。旅では、日々の雑事が取り払われ、自分の属性がはぎ取られるので、自分と世界がダイレクトにつながる、シンプルな感覚が得られるんですよ。
大学デビューみたいなものですかね(笑)?
そうですね。この上で行う確認作業みたいなものですよ。
僕たちも世界中を旅してそれを感じました。今までいた場所から切り離されて、自分の知らなかったリアルな世界に触れることで、世界とつながる感覚が得られました。世界中を巡って手に入れた多様な価値観が、今の僕をつくっています。
オンラインとオフラインを繋いでいく 新しいメディア、TABI LABOをつくること
話が変わりますが、今回新しくはじまる、TABI LABOなのですが、ウェブメディアのこれからに関しては、どう考えていますか。
情報には、フローとストックという概念があるんです。日々流れているインターネットやニュースなどはフローな情報。それを得ることが、フローな体験です。必要だけれど、どんどん右から左に流れていく。たとえば、今話題のバイラルメディアに始まる、動画など分かり易い情報が発信されていくことは、インパクトは強いがフローですね。それに対して、旅はストックな体験で、価値あるものとして蓄積される。書籍を読んで著者の世界観を手に入れることもストックな情報と言えます。
フローな体験とストックな体験。面白いですね。
しかもこれらはどちらも必要で。ベースとしてインターネットでいろんなものを知ることはもちろん大切。その上で、それをさらに活かすためには、旅に出たりして蓄積されやすいストックな体験をする必要があるんです。
TABI LABOは、世界を旅するような疑似体験が出来るサイトにしたいと思っています。オンラインで世界のリアルに触れたからこそ、実際に世界にいきたくなる。情報をウェブで消費させるだけでは終わらせたくない。リアルな体験にこそ、本当の価値があることを伝えたいと思っています。今、どんなメディアが必要とされているんでしょうか?
単なる情報ポータルばかりではなくて、あるテーマに対してより深くつっこんでいるメディアがあることが必要だし、そうあることが健全だと思います。
大衆紙だけではなく、専門誌も大事だということですね?
しかも、そういう専門誌は、単に情報の入り口になるだけじゃなくて、文化の担い手にもなるんですよ。それってすごく大事で。
TABI LABOをそういうメディアにしていきたいですね。
大衆向けのメディアが多い中で、こうやって若者に絞って発信するメディアは価値があると思いますよ。新しいウェブメディアの先駆けとして、TABI LABOを位置づけたいですね。
はい、そのために、日本でもっとも読まれる世界とつながる情報誌として、世界との関わり方をアップデートできればと思っています。
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