暇をもてあそぶじじいが教える「寄席と演劇」の楽しみ方

これは、作家・吉川 潮と島 敏光による、もてあます暇をもてあそぶ極意。著作『爺の暇つぶし』から一部抜粋したものです。

吉川 私は現在67歳の立派なじじいです。現役の作家ではありますが、仕事量は激減。しかし、そのことをまるで憂いておらず、暇ができたことを喜んでいます。

暇と元気さえあれば鬼に金棒。そこに少しのお金さえあれば文句なし。ダメダメな暇の潰し方といえば、1にパチンコ、2にテレビ、3、4がなくて5に病院で決まりでしょう。家でゴロゴロしているのもいいけれど、それでは家庭不和の元。これも暇つぶしの一つと思って読み進めてください。私の専門分野である演芸に関してアドバイスをおくります。

01.
うっかり寄席に入ると
えらい目に遭う

と言ったのは、私が敬愛する立川談志師匠です。確かに高い入場料(2,500円〜3,000円)を出して入ったら、知らないおじさんばかり出てきて、つまらない話をしてうんざりすることがあります。ですから、寄席に入ってみたいという方は事前に出演者を調べ、お目当ての落語家がたっぷり演じるトリの出番の時に見に行くことをお薦めします。

都内には上野の鈴本演芸場、浅草演芸ホール、新宿末廣亭、池袋演芸場、永田町の国立演芸場と5軒の寄席があり、落語協会と落語芸術協会の落語家が交代で出演しています。志の輔、談春の会はたちまち完売になるプラチナチケットなのでご注意を。運良く取れたとしたら、決して期待を裏切らない落語が聴けること請け合いです。

色物に注目!

寄席の楽しみは落語だけではありません。色物と呼ばれる漫才、コント、奇術、音曲、紙切り、曲芸などの演芸は目で楽しむものが多く、時には落語よりも楽しい。

紙切り芸人は、客の注文を受けて切り絵を作るので、あなたが注文して切った作品はタダでもらえます。

子供の頃、人形町にあった寄席、末廣で父が紙切りの初代・林家正楽に歌舞伎の「勧進帳」を注文したのを覚えています。

私自身は、学生時代に新宿末廣亭で2代目正楽に「長嶋茂雄」を注文して、打撃フォームを切り抜いた作品をいただきました。平成に入ると、長男を寄席に連れて行き、3代目正楽(当時は一楽)に「キン肉マン」を切ってもらいました。親子3代が3代の正楽に切ってもらったのだから良い思い出です。

紙切りの正楽か二楽(2代目正楽の次男)が出ている寄席に入って注文してみてください。どんなに難しいお題でも切ってくれます。お土産にしてもらえば、入場料の元が取れたと言えます。落語以外の演芸が楽しめる、それが寄席の良いところです。

02.
演劇を楽しむ裏ワザは
「名刺をつくる」!?

 映画と比べると、演劇関連は料金が高いですね。名の知れた劇団や俳優の出ている芝居となると、1万円オーバーは当たり前です。では、名前の知られていない小劇団の芝居はどうでしょう?

ストーリーがヘッポコ、しかも主演女優が突然降りちゃった(誰も気がつかない)なんてことも決して珍しくありません。でも、何が起こるかわからない、そういう部分も含めて、芝居を観に行くというのはなかなか刺激的なものです。

それにしても聞いたことも見たこともない出演者ばかりの芝居なんて、どうにも興味が湧かないという人は、役者と知り合いになってしまえばいいのです。そのためには、名刺があると便利です。「肩書がありません」という人は、作ってしまいましょう。

友人のマリ・クリスティーヌは、カルチャー・コミュニケーターという世の中に一人しか存在しない肩書を名刺に刷っていましたが、今ではそれがすっかり定着し、テレビ等で紹介されるときもテロップに堂々と流れるようになりました。言い続ければ勝ちです。

油井昌由樹(俳優)は「夕日評論家」、俵山栄子(ものまねタレント)は「猫研究家」の名刺を持っていたことがあります。何でもアリなのです。自分の好きなモノを想い出し、バード・ウォッチャー、アイスコーヒー愛飲家、ダンゴムシ研究家などと勝手に名乗っても法律には触れませんし、誰も怒りません。

好きなものが見つからなければ、自由人、フリー・ウォーカー、隠居、ノーマリスト、バガボンド、凡人、暇つぶシスト…何でもいいじゃないですか。人が名刺を作れば、名刺が人を作ります。

出演者に配って
仲良くなれ!

小劇団の芝居では、終演後に出演者全員が出口のところでお客様を見送ります。笑った、泣けた、きれいでした、とシンプルで好意的な感想を述べ、そして…名刺を渡すのです。

小ぎれいな身なりで、能書きを垂れず、時に差し入れでもしておけば、「あの変な名刺の爺さん、また来てくれたね」と劇団内の人気者になったりもします。いつしか打ち上げの席などにも呼ばれるようになります。こうして新しい世界が広がっていくのです。

私の知り合いで小劇団の魅力に取りつかれ、60を越えてから芝居に出演するようになった人もいます。稽古場では孫ほど年の離れた若手の役者に怒鳴られたりしています。バカですね。でも、お酒やバクチよりは安上がり。それはそれで幸せそうですよ。

『爺の暇つぶし』(著:吉川 潮、島 敏光)

現役時代は多忙で趣味にいそしむ時間もなく、いざ定年を迎えてみると有り余る時間を持て余してしまうというシニアの方々へ。「暇つぶしの達人」を自認する演芸評論家にして辛口エッセイスト・吉川潮と、その友人でオールディーズと映画をこよなく愛するコラムニスト・島敏光。この両氏が楽しく豊かな老後のための、上手な暇のつぶし方を指南します。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。