創意工夫が勝負。「オードブル」の本当の楽しみ方を知っていますか?

聡明な女性はいつの時代も家事を合理的に再編成し、台所を賢く支配するーー。1976年に刊行されたベストセラー『聡明な女は料理がうまい』より、「オードブルの魅力と調理例」を紹介。きっと台所に立つ気持ちを鼓舞してくれるはず。

オードブルは
「俳句」のようなもの

Delicious appetizer close-up

料理のなかで、最も創意を発揮しやすいのは、オードブルとか酒の肴とかいう分野だろう。これはいわば俳句のようなものだ。小説など書くのは思いもよらない普通の勤め人でも主婦でも横丁の隠居でも、俳句には気軽にとっつくことができる。言葉というものに対する美意識と愛情、そして自然のひだにふれる繊細な感受性さえあれば、文学者でなくてもよい俳句は作れるのであり、この言葉を食物に置きかえれば、「俳句」は「オードブル」になる。

四季おりおりのささやかな感動をさっととらえて十七文字にまとめるような呼吸で、始終軽やかに即席料理の包丁をふるえるようになれば楽しいし、その楽しみは際限もない。

理想的な食べ方は
”ギリシアの大混乱”

Various snacks on table

私自身は酒飲みではないけれど、酒飲みのように、種類はいっぱい、量はちょっぴりの肴をあれこれつまむのが大好きで、全食これオードブルという食べ方が理想的だと思っている。

スペインの旅が楽しくてたまらないのは、どこの街にもある日本のすし屋や縄のれんそっくりの居酒屋で、あふれ返る肉や魚貝や野菜の前で「あの生ハムを切ってよ」とか「いわし一匹焼いて」とか「マッシュルームのマリネーをちょっぴり」とか「そのはまぐりを一つかみ」とか好きかってに指さしながら、気楽に立ち食いができるからなのだ。

ギリシアも似たようなもので、直径10センチくらいの小皿が十数枚も次々と現われ、一枚一枚に違うものがのっている。いかのから揚げ、たこのマリネー、オリーブや羊の乳の強烈なチーズ、揚げなす、ぶどうの葉でくるんだひき肉・・・とても覚えきれないその多彩なオードブルの大群をメゼスという。英語で混乱のことをメスというのだが、メゼスとメスの語感が似ているところから、私はメゼスを”ギリシャの大混乱”と呼んでいる。

キャビアを買うなら
たらこの方がいい

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本物のキャビア、つまりちょうざめの卵ならまことに申し分ない大ごちそうでオードブルの王さまだが、だいたい日本でキャビアと称するものは靴墨みたいに黒い小粒のにせキャビアだから一向にありがたくない。あんなものよりかは、レッドキャビア、つまり、さけの卵であるイクラのほうがずっとおいしいが、これもずいぶん高いものだから無理には使わず、私ももっぱら、たらこを愛用している。バターをたっぷりぬったカナッペに、甘塩のたらこの身を生のままほぐしてのせ、レモン汁をたらす。ケッパーかオリーブをちょっぴりのせてもよい。

たらこで思い出したが、にんじんを極度に細く糸のように刻み、なるべく少ない油でサッと炒めながらたらこの身をほぐしたものを加えてまぶしつけると、たらこの塩けがちょうどいいくらいの味になるので味つけの心配もなく、これは何かとちょっと不思議がられるようなおもしろいオードブルになる。

誰からも喜ばれる
中華冷菜”涼拌茄子”

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来客が予定されているときには、その場でバタバタしないですむように、なるべく前もってしたくをすませておこう。そのためには、冷菜が便利で、私は特に中華冷菜をよく作る。

一番のおすすめは涼拌茄子(リャンバンチェーチ)。これはなす8個ほどのヘタを落とし、水につけてアクを抜き、蒸し器で10分から15分、箸が楽に通るようになるまで蒸し、手で細く裂き、大皿に菊の花のように盛りつけて冷蔵庫に冷やしておく。一方、しょうゆ、酢各大さじ2杯、ごま油大さじ1杯、おろししょうが大さじ1杯を合わせて、これも冷蔵庫でよく冷やしておく。また干しえびを中温の油で弱火できつね色にカラッと香ばしく揚げて紙の上で油をきり、すり鉢でつぶしてでんぶにしておく。食べる直前に、なすの上に搾菜とねぎのみじん切り、干しえびのでんぶを散らし、冷やした合わせ酢をまんべんなくかける。と読んだだけではあまり魅力的ではないかもしれないが、作ってみればまずまちがいなく評判のよい一皿である。

かきとはまぐりは
オードブルの万能選手

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貝というのはオードブル用にたいへん便利なものだ。とりわけ、かきとはまぐりは万能選手。生ものぎらいのアメリカで、はまぐりとかきだけは生でも食べる。レモンやカクテルソースで食べるこの生はまぐりがすこぶるおいしくて、私はすっかり病みつきになってしまったが、他の魚や貝はたいてい生で食べる日本人が、なぜかはまぐりの生だけは食べない。残念なことだが、たぶん、しかるべき理由があるのだと思って、私も日本でははまぐりに熱を加えることにしている。

塩焼き、酒蒸しもこたえられないが、あちら風ではクラムカジノというのがある。殻半分つけるかあるいはアルミフォイルやグラタン皿に入れるかしたはまぐりに、にんにくとベーコンとパセリを刻んでのせ、粉チーズとこしょうと、できれば白ぶどう酒かドライシェリーも少々振りかけてオーブンで焼く。かきを同様に焼けばオイスターカジノだし、平貝やほたて貝を使っても同じこと。

以上の貝は必ずしもオーブンで焼かなくても、塩、こしょうし、たっぷりのバターで炒めてパセリをまぶすのも、しょうがじょうゆをからめて網で焼くのも、それぞれにけっこうだ。

肉を料理するならこれ!
”ミニミニステーキ”

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肉のほうで繊細なものといったら、やはり牛肉のフィレ。しかし、大勢のお客にステーキなど出したら破産してしまうから、メーンディッシュからはステーキをはずし、かわりにオードブルとしてミニミニステーキを出してみたらどうだろう。これは私が初めてイタリアへ行ったとき、ローマのレストランで気に入った食べ方だが、最近ソフィア・ローレンが自己流にアレンジしたレシピを見つけたのでまねをしてみた。

普通、ステーキだったら一人前少なくとも150グラム以上はないと格好がつかないが、この場合は30グラムぐらいの薄切りを一人1枚ずつでよい。グラタン皿を火にかけた上に塩・こしょうした肉を置き、おろしたパルメザンチーズを振りかける。肉の色が変わりかけ、チーズがとけ始めたところで裏返してすぐ皿を火からおろし、肉にオリーブ油をちょっぴりたらして、ただちに食べる。

※書籍からの引用にあたり、一部表記を編集しています。


聡明な女は料理がうまい
コンテンツ提供元:アノニマ・スタジオ

桐島洋子/Yoko Kirishima

文藝春秋に勤務の後、フリーのジャーナリストとして海外各地を放浪。70年に『渚と澪と舵』で作家デビュー。72年『淋しいアメリカ人』で第3回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。以来、メディアの第一線で活躍するかたわら、独身のままかれん、ノエル、ローランドの3姉弟を育て上げる。ベストセラーとなった『聡明な女は料理がうまい』や、女性の自立と成長を促した『女ざかり』シリーズをはじめ、育児論、女性論、旅行記などで人気を集めた。

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