チェス、囲碁に続き空中戦も。人工知能が元米軍パイロットに圧勝

人工知能(AI)の実用化は、ヒトから機械までつながるIoT(Internet of Things)から、自動運転機能、さらにはセックス用ロボットに至るまで、あらゆる分野で進んでいます。もちろん軍事兵器にも。あくまでシミュレーションとはいえ、「ベテランパイロットを歯牙にもかけないAIが登場した」と「Newsweek」は大きくこれを報じました。

経験豊富な元空軍大佐
AI開発のホープに全敗

記事によると、アメリカで開発されたAIがフライトシミュレーターを使った戦闘機による空中戦で、元米空軍大佐Gene Lee氏を完封し全勝したそうです。まるでSF映画の一幕のような話。

この「ALPHA」と名付けられたAIを開発したのは、シンシナティ大学出身のNick Ernest博士(現サイバネティックス社CEO)。AI開発における若きホープと期待され、米空軍研究所と協力してこれまで開発を続けてきた人物です。

驚くことに、ALPHAのプログラムは高い処理能力は必要とせず、わずか35ドル(約3,600円)ほどで手に入るシングルボードコンピューター(Rasberry Pieなど)でも、十分稼働することができるレベルのものなんだそう。

「最も攻撃的でダイナミック」
意図が見透かされていた

もしかして、退役したLee氏の腕が鈍ったからでは?ところがこれもNO。経験も空戦知識も豊富な彼は、退役後に訓練教官も務めてきたばかりか、じつに1980年代からAIとシミュレーター上で対戦を繰り返してきたんだとか。つまり、ALPHAの知能向上をサポートしてきたのが他でもないLee氏本人ということ。

その彼が、「これまでで最も積極的でダイナミックな攻撃だった。まるでこちらの意図を見透かしているようで、瞬時に反応された」、と度重なる撃墜にまさにぐうの音も出ないといった感想をもらしたのです。

さらにALPHAは、旋回機能やミサイル性能の劣る戦闘機でシミュレーションした場合でもLee氏に圧勝。その要因は「Genetic Fuzzy Tree(遺伝子ファジィシステム)」にある、とErnest博士はシンシナティ大学監修の「UC Magazine」で触れています。

このシステムを平たく言えば、刻々と変わる戦況の中でも、人間と同じように瞬時に相手の手の内を読むアルゴリズム。重力を無視した旋回速度の違いだけが、AI勝利の背景ではないことが分かります。

人工知能 vs 人間
未来は役割分担?

2016年3月、世界最強の棋士のひとりイ・セドル九段に人工知能が勝利(4勝1敗)したことは、世界中に大きな波紋を呼びました。チェスやオセロに比べて難易度が高いとされる囲碁までも、AIの知能の前に人間が屈してしまったから。

はたして、AIのディープラーニング(深層学習)に勝るものはあるのか?唯一挙げるならば「人間特有の気まぐれ」という人もいれば、スティーヴン・ホーキング博士のように「本当に知的なAIが完成したら人類は終わる」といった予測も。

そういえば昨年末、英オックスフォード大学と野村総合研究所の共同研究において、衝撃の数字が発表されました。「2030年から日本を考える、今から2030年の日本に備える」をテーマに行っている研究のなかで、日本で働く労働人口の約49%が、10年〜20年後のうちに技術的にはAIに代替可能になる、こう推計結果を出したのです。

もちろん、これは少子高齢化に向けた労働不足に対し、足りない労働力をAIが補ってくれるというもの。人間に取って代わるではなく、あくまで補う。でも、いつの日かその境界線すらもやすやすと超えてしまいそうな勢いを、昨今のAIの活況ぶりからも感じずにはいられません。

Licensed material used with permission by University of Cincinnati
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。