写真がプロっぽくなる「20のテクニック」
写真には「鉄則」ともいうべき、いくつかの構図のルールがあります。簡単にできる、とは言いませんが、少し意識するだけでプロのような写真に近づけるかもしれません。
解説しているのは、アイルランドのダブリンで活動する写真家、バリー・O・キャロルさん。旅先での感動が思うように記録できず、ずっと悲しい思いをしてきたあなたにこそ読んで欲しい20のティップスです。
01.
三分割の法則
まずはもっとも基本的な三分割の法則を紹介しましょう。
フレームの中を縦横に三分割し、9つのブロックをイメージしてください。多くのカメラに、このグリッドを表示する機能がついています。被写体をこのグリッドに沿って配置することで、とてもバランスのいい構図の写真を撮ることができるというわけです。
上の写真は、下1/3のラインに水平線を合わせ、右1/3のラインに一番大きな樹を合わせて配置しています。もし水平線や一番大きい樹がフレームの真ん中に配置されていたら、バランスが悪く感じるかも。
この写真はプラハの旧市街広場です。上1/3に地平線を配置し、建物のほとんどを中央の段に集めています。また、ひときわ高い教会の尖塔を、右1/3のラインへ。
02.
シンメトリーの法則
先の三分割の法則とは正反対の話になりますが、被写体をうまく画面の中央に配置することで、とても美しくなることがあります。
上はダブリンの橋ですが、こういった建築物や道路など、左右対称の被写体を中心に配置する方法があります。
こちらの写真は「三分割の法則」と「上下対象の法則」をミックス。湖の水面を真ん中に配置し、樹を右1/3に配置。湖や鏡などで反射した被写体をうまくつかっています。
03.
奥行きを活かす
手前に小さな被写体を配置することで自然と写真に奥行きを感じられるようになります。
上の写真はオランダの滝。手前の岩を使って滝に奥行きをもたせています。この構図はとくに、広角レンズで撮影すると効果的です。
こちらはダブリンの港。これも手前のクリートをフレームに収めることで、対岸の建物や奥の橋までの距離感を演出しています。
04.
フレームの中に
フレームを
他にも奥行きを表現する手法として、フレームの中にもうひとつフレームをつくる方法があります。たとえば、窓や長い木の枝、橋などを利用します。
こちらはヴェネツィアのサン・マルコ広場です。このようにアーチをうまくフレームに見立てて利用することで、写真に奥行きを持たせることができます。この手法はルネサンス時代の絵画でもよく見られます。
これはアイルランドのキルデア州。長く張り出した木の枝をうまくフレームにつかい、湖やボートハウスとの奥行きを表現しています。このように、完全に四方を囲んでいなくても、フレーム効果を活かすことができます。
05.
ラインを強調する
建物や道、模様などを効果的に使って、被写体を強調する方法があります。
パリのエッフェル塔を写したこちらの写真では、地面に描かれた模様の線が、対象に向かって集中していくように配置されています。
また、直線でなくても同じ効果を得ることができます。このように曲がりくねった道でも被写体の「樹」を強調できます。さらに、樹の配置に三分割の法則を使っていることにも気づきましたか?
06.
対角線と三角形の法則
三角形は写真に安定感を与えます。逆に対角線は不安定さを感じさせます。
こちらはダブリンのサミュエル・ベケット橋。三角形と対角線、そしてさきほどの強調するラインを構図に含んでいます。この橋は本当に三角形の形をしていますが、対角線とフレームによってつくられる、幻の三角形にも注目しましょう。
パリのオテル・ド・ヴィルの写真です。この写真では建物をわざと三角形に見せることと、対角線によってダイナミックな印象を与えています。
07.
特殊な模様を活かす
人は本能的に花びらの形が好きです。また、アーチのような自然物と似た形を好みます。
これは、チュニジアのドーム型の建物。建物にもアーチが多くつかわれていて、屋根も球状をしています。また、手前の地面には花びらをイメージした模様が敷き詰められていて、本能的に好感を持ちやすい写真になっています。
こちらもチュニジアです。この写真では床や壁、天井の石の模様がとても効果的に描かれています。また、アーチはもうひとつのフレーム効果も。
08.
奇数の法則
一般的に、被写体が偶数よりも奇数のほうが、人の目には魅力的に映ると言われています。対象が偶数だと、どの個体に注目すればいいのかわからなくなってしまいます。しかし、これには例外も多く存在します。
こちらは3つのアーチをフレームに収め、3人の人物を写しています。そしてアーチが同時にフレームの役目も果たしています。
これはヴェネツィアの水路で談笑する、2人の男性の写真。これは奇数の法則を完全に無視していて、どちらの男性を見ればいいのか迷ってしまいますが、2人の会話を連想させる、という意味があるのです。
09.
フレーム全体を
被写体で埋める
特殊な方法ではありますが、被写体をフレームから溢れるほど大きく捉え、スペースをつくらないという手法もあります。これは、見る人に完全に被写体に集中してもらう効果があります。
この写真では、ライオン以外にはなにも写っていません。ちなみに、目と口などの配置には三分割の法則が使われています。
これはパリのノートルダム大聖堂。フレームのほとんどを建物が埋めています。大きく映し出すことで、細かい意匠まで見てとることができます。
10.
スペースを活かす
フレームを埋めずに、余白を活かす手法もあります。こうすることで、被写体の表現の幅を広げることができます。
この像は、ヒンドゥー教のシヴァ神です。この写真は後ろの空間を多く残すことによって、逆に像に注目させました。そして、像の配置には三分割の法則を採用。
11.
シンプルさとミニマリズム
さきほどの余白を活かした写真のなかでも、とくに背景をシンプルにすることで、より被写体への注目を集めることができる手法です。
これは葉の上に乗っている水滴にスポットを当て、マクロレンズを使うことで、背景を思い切りぼかしています。
この写真も背景を簡素にすることで樹に注目が集まり、さらに道にはライン効果をもたせつつ、樹の配置には三分割の法則をつかっています。
12.
背景をぼかす
被写体を背景から目立たせたいときに「ボケ」を利用します。これは人物を撮るときなどによく利用される手法のひとつ。
この猫の写真は、絞り(F値)3.5で撮影。絞りを開け(低くし)て、被写体を目立たせる効果があります。被写体と背景の距離があればあるほど、ボケは強くなります。
13.
視点を変える
通常の写真は、人の目線から撮影されます。寝転んで地面ギリギリから撮影したり、台に乗って高い視点から撮影すると、意外な効果が生まれます。
上の写真は、モンパルナスタワーの屋上から撮影したパリの夜景。高い位置から撮影することで夜景の面積が大きくなり、より印象的に。
これはアイルランドの小川に入って、低い位置から撮影した写真。岩の上を流れる水の動きをうまく表現しています。
14.
色の相性を意識しておく
構図を考えるとき、色のバランスを見落としてしまいがちです。しかし色には相性があり、この理論はデザインすべてに共通しています。
これは、ダブリンのカスタムハウス。この写真では青と黄色を組み合わせています。空の青さと建物の黄色のコントラストがうつくしい一枚。
ダブリンのスティーブンス・グリーンショッピングセンターで撮影した、クリスマスののイルミネーション。空の青と赤い電飾、そして窓と地面の黄色が強い印象を残してくれます。
15.
進行方向とスペース
スペースを開ける方向にも鉄則があります。例えば走っている車を撮るときは、車の進行方向に、より多くスペースを作ります。
上の写真ではボートが左から右に向かって進んでいるので、右側にスペースを多く空けています。
またこれは、移動しているものに限った話ではありません。上の写真ではミュージシャンが見ている方向を広くとることで、奥で踊っているカップルや立っている男性にも意識が向くような構図になっています。
16.
左から右への法則
多くの場合、人は文章を読むときと同様、写真も左から右に見るようにできています。しかしこれは、その国の言語によっても条件が変わりますし、実際に、右から左へ流れる写真でも素晴らしいものはたくさん存在します。
上の写真では、犬の散歩をしている人が左から右へ向かって歩いています。進行方向である右側にはスペースが多くありますし、人の位置は三分割の法則をつかい、樹と葉がフレームの役目を果たしています。
17.
バランスを取る
最初に紹介した三分割の法則がうまく使えない場合には、被写体の大きさを変えることでバランスを取る方法があります。
この写真は、パリのアレクサンドル3世橋の街灯です。うしろに見えるエッフェル塔を街灯の対称の位置に小さく配置することで、バランスを取っています。
こちらはヴェネツィアの写真。右側を埋めている街灯と、左側に小さく写った塔でバランスが取り、遠近感を表現。
18.
2つの被写体の
相乗効果をつかう
これは、とてもよく使われる構図のひとつです。2つの異なる被写体を一緒に配置することによって、被写体同士がお互いにうまく影響し合うもの。
たとえばこのパリの写真では、奥に見えるノートルダム大聖堂と、手前の壁に乱雑に貼られたポスターやビラが一見対照的に見えますが、どちらもパリの街を表現。
そしてこれは、フランスのある村で撮影されたシトロエンの写真。これは後ろに見えるフランスの典型的なカフェと、フランス生まれの代表的な自動車メーカー、シトロエンが一緒に写ることにより「フランス」を表現しています。
19.
黄金の三角形
三分割の法則と非常に似た手法に、「黄金の三角形」というのがあります。まずフレームのひとつの角から対角線に向かって線を引きます。次に、残った角からその線に向かって直角に線を引きます。このラインに沿って被写体を配置することで三分割の法則と、三角形の効果を同時につかいます。
奥に見えるエッフェル塔と、手前に見える2体の彫像のバランスが素晴らしい一枚。2体の彫像の頭をつなぐように黄金の三角形の対角線が走っています。それに沿って、自然とエッフェル塔に視線が集まるように考えられているのです。
20.
黄金比
黄金比はとても複雑に思えるかもしれません。一つの線を2つに分けるときにもっとも美しいバランスを取る比率のことで、数値にすると1:1.618。そしてそれがフレーム全体に適用されると考えたときに描かれるカタツムリの殻のような曲線のことを「フィボナッチ・スパイラル」と呼びます。
この黄金比は2400年前の古代ギリシャ時代から使われていて、様々な芸術作品やルネサンス時代の建築物などに多く見られます。
ヴェネツィアの街角で撮ったこの写真も、橋の階段が左側に大きくスペースを取っていて、そこからベンチに座った2人の人物に向かってフィボナッチ・スパイラルが見て取れます。
こちらはプラハの写真。フィボナッチ・スパイラルは空から収縮して奥の塔へと向かっていきます。
おそらく、これらの鉄則をすべて考えながら写真を撮ることは不可能でしょう。まずはひとつずつでも、写真を撮るときに意識してみてください。何回か試していけば、無意識にこういった構図を取り入れられるようになるはず。
またプロの写真を見るときに、こういった構図を意識して見るようにしてみてください。