「無理にカッコイイ趣味作ろうとしてない?」。世界で活躍する映画監督・木村太一

お話の相手。

映画を学ぶために12歳で単身渡英した後、ロンドンで暮らしながら海外アーティストのミュージックビデオ制作などで活躍するようになった映画監督・木村太一。自主制作映画『LOST YOUTH』が公開され、国内でも話題だ。

作品や、日本とイギリスの生活のこと、感動した話など、ざっくばらんに話してもらった。

<目次>

・日本人/イギリス人、どっちも“外国人”。
・結婚資金を使っちゃった。
・単なる馬鹿か、天才か。
・いいと思ったものにいいって言える人が一番偉い。
・「あんた、めちゃくちゃだあ!」
・外国人はちゃらんぽらん。
・「アジア人のお前に何ができんの?」
・「木村くんは炎上系監督で行くから。」
・ヘイターを一箇所に集めて、居酒屋で飲みたい。
・落ち込んだら、お水に入る。
・日本に美大を作りたい。
・「一つのことでも、色々な進化ができるよ。」
・言葉を慎んで、いい人になりたい。
・木村太一の1日。

日本人/イギリス人、
どっちも“外国人”。

ーー12歳で単身渡英って、どんな流れだったんですか?

7歳くらいで『ジュラシックパーク』を見て、恐竜生きてるみたいじゃん!って衝撃を受けて、映画が好きになったんすよ。

で、海外で勉強したいと思って。どこが一番いいのかなって考えて、最初に選んだのがアメリカ。だったんすけど、銃社会が怖いって親が言ってて。

調べてたらイギリスも結構映画盛んだって話になり、サッカーも好きだったんでそうしたんですよね。

ーーよく家族に認めてもらえたなあと。

はいどーぞって感じではなかったっすよ。親父が会社持ってて、ぼくに継がせる予定だったんですけど、「いらね」って言っちゃった。 それで、「何やんの?」って聞かれて。映画監督って答えたんすけど、「はぁ〜!?」って感じでしたね。

ただ「行きたい!行きたい!行く!」って感じで止まらないもんで、酢豚投げられながらも、なんとか突破した感じです(笑)。

ーー今となってはイギリスの方が長いんですもんね。

日本人から見ても日本人じゃないし、イギリス人からしたらイギリス人じゃないし、国はどこなの?みたいな感じはあります。

だからこそなんですが、日・英どちらにしても、歴史モノを撮るわけにもいかないなって悩みがあって。どっちのカルチャーも違うんです。だから、SFとかは強みになるかなとか考えたりしました。じつは脚本はひとつできてるんすよね。まあ、お金集めるのが大変なんですけど…。

結婚資金を使っちゃった。

ーー映画『LOST YOUTH』を制作したきっかけを教えてください。

自費1,000万円を投じて自主制作した作品。ネオン・オタク・マンガ・テクノロジーといった海外的な東京のイメージを払拭するために、実際の事件などをもとにして東京の闇を描いた。

映画を勉強し始めて、スパイク・ジョーンズを知って、MV撮りゃいいんだって思って。クラブ通って、タダ同然で撮影しまくって、金なくても絶対やってやるって感じでやってて。

『LOST YOUTH』は、そろそろ実力もついてきたかなと思って挑戦した作品すね。海外で描かれる東京のステレオタイプに飽きて、その裏側にあるリアルな画を撮ろうと。

1年前くらいに嫁と入籍して、一緒に住み始めるって決めて、で、この作品を撮ることにしたのがその3週間後だったんすけど、2ヶ月家にいないからって言って撮影に出ました。貯めてた結婚資金も使っちゃいました(笑)。

ーーえ、奥さんは大丈夫だったんですか?

奥さんとは仲いいですよ。周りに普通じゃないとは言われますけどね〜。

ーー良かった(笑)。その後、反響はどうでしょう。

作品は、ハタチくらいの子たちが気に入ってくれてます。

出演者はみんな、自前の衣装で出てるんですよ。もともとインスタを見ていて。 今、日本の若い子たちって、こんなファッションがあって、こんなスタイルがあるよね、ってとこから制作が始まってます。

みんな自信を持っていて、「こういう役やって下さい」って言ったときに、自分をかっこよく見せることに慣れてるからリアルで良かった。

かっこいいやつが、かっこいいやつらをインスタでフォローしてて、これで日本を撮れるじゃんって思いました。出演しているのはほとんどみんなインスタグラマー。
 
SNSができて、プライベートっていうバリアがなくなって、パブリックにどうやって自分を出すかっていう時代なので、みんなそういう表現が上手です。役者に向いてるなーって思いますよ。

単なる馬鹿か、天才か。

ーー『Games』のMVに出てくる若者も刺激的でした。

マンチェスター出身のアーティスト、Sam O'Neill のソロ・プロジェクト「TCTS」。MTA RecordsからリリースされたEP『Games』のMV。主演は関口アナム、ロケ地は東京。

一番気に入ってる作品かも。2日間で、いろいろな所を撮影してまわりました。

出演者は、大学卒業したばかりの奴らで、みんな友達。主演の関口アナムは仲いいんですよ。よくうちのソファーで一緒にゲームやってましたね。竹下景子さんの息子で、最近はテレビ出たりして頑張ってるみたいで。明るくてピースフルで、最高です。

ーーこちらも舞台は東京ですね。

東京って面白い街じゃないですか。絵になるし、ドンドン変わっていくから飽きないし。ぼくはロンドンに住んでるんですけど、飽きるんすよ。ロンドンの人はロンドンが嫌いです。

ーーそうなんですか?

帰ってくるところはココだーーみたいなところはありますけどね。唯一いいところって、いろいろな人種がいて、どんな人でも受け入れてくれるってところくらい。ピュアなイギリス人ってのが中々見つからなくて、おじいちゃんがイタリア人だったり、親がフランス系だったりする。だから、型にハマってないっていうのはある。

だから、この人はこうだからダメみたいなのはなくて、この人はこんな考えを持ってるから面白いってなる。だから、新しいものを求める。それを受け入れてくれるっていうのは素敵ですよね。好奇心が強いというか、違いを受け入れて知識にしていくところはあります。

ーー日本のことはどう思っているんでしょう。

日本は、時間はぴっちりしてるし、撮影しててもこうやってほしいって言ったら完璧にこなすし、素晴らしいと思います。ただ、絶対アートには向いてないと思いますね。
 
やりたいことを受け入れてもらえない環境があったり、多数決に流されちゃったりする。5人いて、ほかの4人と違う答えを持っていてもいいじゃないですか。でも、日本だと難しいんじゃないかなあ。
 
他の全員がいいと思っていることと違う意見を持っている。そういう時は、そいつが単なる馬鹿なのか、天才なのかをジャッジしなければいけない。お前はどっちなんだって。
 
議論して多数意見が覆ることはありますし、こいつだけまったく違う意見だから逆にこれで行こうみたいなパターンもありますからね。
 
あ。ちなみに、ぼくは日本大好きですよ!ヘイトじゃないです。

いいと思ったものにいいって言える人が一番偉い。

ーー「PARTNER」のインタビューで話されていた、テートモダンの絵の話が印象に残っています。こんなことを仰っていました。

“むかし、母親とテートモダン(イギリスのロンドンにある現代美術館)に行った時のこと。
ただ真っ青にキャンパスを塗りつぶしただけのドローイングを見て「こんなん、どこがええねん」って言ったら、母親が「この国のいいところは、この絵をいいっていうひとがちゃんといるところなのよ」って言ったのを今も覚えてる。

いいものを作る人はゴマンといる。だけど日本にはそれをいいって言ってくれる人が少なすぎる気がする。

いつだって、自分がいいなと思ったものにいいって言える人が一番偉くて、その「いいじゃん」て言葉でアートが育っていくんだと思う。”

変態も育つし天才も育つんだって言われましたね。そういうのを尊重してもいいんじゃないかな。

作ったものについて、これってどういうことなの?って聞かれた時には答えられなきゃいけないですが。そこにアートなのかグラフィックなのかっていう違いが出て来るんだと思うので。

「あんた、めちゃくちゃだあ!」

ーー実写とアニメを融合させた『KING』の現場は、大変だったとか。

「GRADES」のミュージックビデオ『KING』は、ダンサーの少女・高巣来華、気鋭のアニメーター・らっパルを迎えた話題作。UK MUSIC VIDEO AWARDで最優秀ダンスミュージックビデオにノミネートされた。

『KING』で一緒に仕事をしたアニメーターのらっパルくんは、絵に描いたようなオタク気質ですっごくいい子なんです。「もう好きにやっちゃっていいよ。」って言う僕みたいな、フレンドリーな監督とは関わったことがなかったらしくて。
 
この作画って、本来無理な作業量だったんです。けど、渋谷の喫茶店でどうしてもやりたいって話をして、じゃあこんぐらいの金額でって契約書を書いてもらって。

ーー必死にお願いして折れてもらった?

いや、契約書書いたあとで「じゃあキャラデザインと、あとこれも描いて。実写通りに。こういうふうに描いていくから。」って追加して言いました。そしたら、「話が違います!」と(笑)。らっパルくんにはヤクザだと言われました。
 
途中「もう絶えられない!死んじゃうかもしれないです!」って言ってたので、「死んでもいいけど、これ描いてから死んでくれ。」って返事して。そしたら、「あんためちゃくちゃだあ!」って叫ばれましたね〜。
 
でも、それがきっかけでやる気が出たらしいです。もうこうなったら、やって死んでやると。

ーー死んで、その責任を取らせてやれと(笑)。

そうそう(笑)。
 
女の子の手に、キャノン砲がついているっていう設定で、オートメーションっていう動きをつくれる機能があるんですけど、どうしても機械的になっちゃう。だから、「ダメだ。これ1コマずつ描いてもらっていい?」ってお願いして。結局1,400枚近く描いてもらったのかな?おんなじのばっか描いてましたね。
 
終わって皆で飯食ってるときに、「いや木村さん、ぼく夢を見たんすよ。寝てる間もキャノンを見てて、起きたらまた目の前にキャノンがあるんですよ…。」って言ってて。キャノン地獄で、トラウマになっちゃった(笑)。
彼、それ以来キャノンの仕事は断っているみたいです。ぼくは“キャノン職人”と呼んでますけどね。ほかのインタビュー記事で「あのときブラックホールに吸い込まれて!」とか「あのときにぼくは、人間なんだって再確認した!」とか、わけわかんないこと言ってましたよ。完全にぼくに対してアレルギー反応を起こしていたみたいです。
 
でも、それがきっかけで仲良くなって、そのあと何度か一緒に仕事しましたね。彼曰く、ぼくは場を盛り上げるのが得意らしくて、現場では基本的に何もやらないので、それが仕事ですね。

外国人はちゃらんぽらん。

ーー撮影中、具体的にどんなことをされてるんでしょう?

Wilkinsonの時は、まずこんなイメージの子を雇ってくれって頼んで、その子が来たら、「じゃあ踊って!」って(笑)。音楽カッコイイっすよね。

ロンドンの音楽プロデューサー・DJ、Wilkinsonの『BREATHE』のMV。日本で撮影された。

以前、日本の大手企業の仕事をしたときに、「こんなに何もやらない監督は初めてだ。」と言われました。一番最初にはあーしろこーしろって言いますよ?でも、そのあとは言わない。修正もあんまりしない。2回やってできないことはできないんで、次行こうみたいな。アイドル撮っている間、ずっとピータン食ってました。 

ーーゆるいというか、切り替えがハッキリしているというか。

良くも悪くも、みんなリスクのほうを考えがちですよね。外国人はちゃらんぽらんだから、なんとかなるだろって感じでなんとかなっちゃった人が多い。日本の人はちゃんとしてて。何も売れない時期が3-4年続く風あたりの強さに負けちゃう人が多いんじゃないかなあ。

黒人ラッパーなんて、撮影に4時間とか遅れてやってきて「ワンテイクしかやんねえから。」みたいなこと平気で言いますからね。お前ら何しにきたんだよっつって(笑)。しかも、マイメン10人くらい連れてくるし。

ロンドンのユニット「Chase & Status」。UK DANCE CHARTでシングル1位を獲得し、翌年の2008年にリリースしたファーストアルバム『MORE THAN ALOT』は同チャートで2位に。

今、ミュージシャンのスクリレックスと一緒に住んで専属のライブ映像撮ってるリアム・アンダーウッドって奴がいるんすけど、オーストラリア人でちゃらんぽらんなんですよ。イケイケで、「YoYoYo!」とか言いながら、オレはココに居るんだぜってな感じで撮る。
 
彼の場合はとくに、映像つくるときにかしこまっちゃうといけなくて。アーティストと仲良くなんなきゃいけない。コイツおもしれーじゃんって思われなきゃいけない。ドキュメンタリーとかって距離感重要で、そうでないと取れない表情とかあるし、どれだけ近く・遠く、いろいろな表情が撮れるかが大事。
 
でも、彼のものづくりは繊細だし、ビデオグラファーに求められるような全部できないといけないっていうとこはしっかりしていて、なにより機材の知識が凄い。そこら辺はオタク気質が出てるんじゃないですかね。柔軟性あるなって思います。ぼくとは違いますね。
イギリスは「あっ、撮ってたの?」みたいなスタイルのほうが気に入られるというか。そういう違いはあります。ゆるい感じで、もう好きにやんなよって言って、勝手に撮る。そこにいるんだけど、いない。そういう距離感がいいみたいっす。コーラとか飲んでてゆっくりしてて、いいなって思ったトコをパッと撮る。向こうからしたら「いつの間に?」みたいな。
 
ぼくの場合は、BADBOYを撮ることが多かったのもあって、「お前何しにきたんだ?」って言われるとこから入るんすよね。最初はカメラも向けらんない。だけど、適当に撮って、暇な時に見てみてよって見せれば「おっ、めっちゃいいじゃん。」て言ってくれる。そうやってどんどん距離が縮まっていく感じ。

ーー認めさせた瞬間、ガッツポーズみたいな。

「アジア人のお前に、何ができんの?」

フロリダのラッパー「Knytro」の楽曲。「UK MUSIC VIDEO AWARD 2014」ノミネート作品。

自分のことを認めていなかったやつを認めさせるみたいなスタイルが、イギリスは凄く強い。アメリカみたいに、HEY!エビバディ〜!みたいな感じじゃなく、もっと暗い。だから、修行にはいいんじゃないですかね。「アジア人のお前に何ができんの?」ってなめられてるんで、そこでやってると力がついてくるというか。
 
だからってのもあって、ぼくは話している間にそのスタンスが出ちゃう。褒めるとこは褒めるけど、駄目なところは全然駄目でしょって結構ズバズバ言うので、日本の人と合わないんすよ。もうやめちゃえば?とかすぐ言っちゃう。そういうこと言われてきて、ふざけんなって思ってやってきたんでね〜。そこ突破するといいじゃないですか。できないと難しい。バトルしてる感じです。

口が悪いとか、性格悪いとか、よく言われます。えー!って感じですけど。実際に性格が悪いのかも知れないですが、よくわからないですよね。初対面でも全然ダメだねって言われます。

「木村くんは、炎上系監督で行くから」。

ほかにもいろいろ言われてて、Twitterとかでキレて案件なくなったり(笑)。そしたら、うちのマネージメントが「木村くんはこれから炎上系監督で行くから」って言ってて。も〜やめてくださいよって感じ。そのために言ったわけじゃないんですよ〜。
 
それに、言いたいこと言っちゃうってのはあるので仕方ないとは思いつつ、逆に気に入られることもあるんですよ。ただ、一対一で会わないと、ただの暴君みたいになっちゃう。文字だけだと余計にノリがうまく伝わらなくて、まるで悪魔の化身のような感じになる。
 
実際に会うとわかってくれるんですよ。あ、この人は口が悪いだけなんだって。ボキャブラリーがないだけで、言ってることはわかるんですけど言い方が非常に悪いという。

ーー話しているときの雰囲気は、文字では伝わりにくいですよね。

ほら、よくあるじゃないですか。CDとか友達に聞かせて「よかったよー。」みたいなこと言い合うやつ。ぼくは聞かれても、30秒くらい曲聞いて「飽きたー。」とか言っちゃう。もう最悪ですよね(笑)。でも、それはそれで気に入られることもある。全然興味がないとか言っちゃうんですけど、コイツは素直で面白いやつだと。
 
それで、うちのマネージメントが「太一がイイって言ったもんは売れるから」と、音源を送ってくるんですよ。嫌われ商法みたいな変な信頼が生まれていて。

ーーマイナスのように見えても、プラスになっていると。

ヘイターを一箇所に集めて、
居酒屋で飲みたい。

女性の売れっ子グラフィックデザイナーさんで、ぼくのことを“ヒール監督”って呼んでる子がいて。レスラーじゃねーぞ!って感じですが、これはその子と一緒に案件やってたときの話で。
 
日本の人ってあんま言わないじゃないですか。「ここがちょっと、あんまよくないんで、…変えて下さい。」みたいに。
 
以前、彼女が描いたグラフィックが、ぼくの映像の上でアニメーションとして動き出すっていう企画があって、最初に送ってきたものに対して「彼女のグラフィックがぼくの画を邪魔してるんで、どけて下さい。」って言ったんですよ。そしたら、なんだコイツ!ってなって(笑)。

アメリカ出身UK滞在のテクノDJ。デビューシングル『I WANNA FEEL』は英国最大のラジオステーションBBC RADIO1にて堂々の1位。YouTubeでの再生回数は1400万回数を突破。UKシングルチャートとダンスチャートで1位。

それ以外に表現が浮かばなくって。「子どもか!」って言われましたね。大人だったらもっと違う言いまわしがあるだろうと。まあ、それからは仲いいんですけどね。

ぼくは大体嫌われてから仲良くなるんですよ。だから、今度Twitterにいるヘイターたちを居酒屋に集めて飲みたいですね。木村を嫌う会。

ーー危険な匂いがします(笑)。

相手から言われたら言われたで傷つくんすけど。自分で蒔いた種なんだけど痛い(笑)。3日間くらい家から出なくなったり、落ち込んじゃったり…。

落ち込んだら、お水に入る。

ぼく変な癖があって。アイデアが浮かんでテンションが上がるときと、落ち込んでるとき、お水の中に入るんす。精神科の先生が言うには、裸でなんの妨害もなく、一つのことに集中できるみたいで。水の音も含めてめちゃいいって聞きました。
 
あとは地下鉄乗るのもいいみたいで。音楽聞きながら乗ってるとアイデアが浮かんでくる。電車って何もすること無くて、他人を見るってのが脳にとって刺激的らしいんですよね。 
 
日本だと電波繋がっちゃうけど、イギリスはホームに到着しない限り繋がんないんで、スマホ触ってても意味なくて…。

ーーそれでリラックスできるんですね。イギリス生活は日本と比べてどうですか?

イギリスにメディアの強さがなければスグにでも日本に帰りたいですね。もろもろ安いし。英語ペラペラなんですけど、伝わんないところは伝わんないんですよ。カルチャーの違いみたいなのがあります。
 
今の嫁は日本人なんですけど、それまでは外国人としか付き合ったことがなかったんです。でも、日本に連れてくると「全然わからない、違いすぎる。」みたいな反応を起こすんですよ。長年住んでても交わらないところはあるんですよね。
 
それでもなぜこっちにいるのかと言うと、やっぱり映像つくるには環境がいいし、自由がある。だから、前からずっと言ってることがあって。ぼくは日本にそういう大学を作りたいんですよ。

日本に美大を作りたい。

大人になれば日本のカルチャーが体に入っちゃう。お金の問題とか生活とか人間関係とかいろいろ出てきちゃう。ぼく自身、12歳で渡英したのは早くてよかったなと思っています。その歳だとそんなもんない。言葉の壁はあったけど、恐れるものはない。どうにかするしかねえな、友達と喋ってればなんとかなるっしょ、みたいなノリです。遅いと駄目ってことはないっすけどね。

 

日本に帰ってくるたびに同級生と会ってたんですが、自分で何かをやりたいって言う人が少なかったように感じました。それに、日本の人って、海外に行って、勝負したいって決意したとしても、同じ外国のスタイルで戦ったら海外の人のほうが当然強いわけです。それで潰れていくみたいなケースが多いと思いますよ。

だったら、日本で日本のスタイルを育てる。そういう環境を作ればいい。

ーー勉強するなら、海外に出たほうがいいと思いますか。

映画に関しては思いますね。日本って、監督になるために助監督からはじめるとかあるじゃないですか。なんのためにもならないですよ。助監督であればその道のプロがいますから。海外は売れなくても監督からはじめる。

海外の方が職業が細分化されていて、それで給料がもらえるっていうシステムがしっかりしているってのはありますね。重要だと思います。マジメなこと言っちゃいましたけど。

「一つのことでも、色々な進化ができるよ。」

前に、ウェストミンスターで日本のいいところを紹介するイベントに出たんです。『ファイナルファンタジー』シリーズで有名な画家の天野喜孝さんと、ほか広告やってる2人と対談していて、趣味の話になりました。
 
広告の2人はサーフィンとかサイクリングやってるって言ってたんですけど、なーんかひっかかって。
 
「日本のアーティストとかクリエイターってなんか無理矢理カッコイイ趣味作ろうとしてません?だせーんだよ!」って言っちゃった(笑)。ぼく趣味とかないんですよ。
 
映画作ってて、あーもう映像見たくねーなーとか思って、その次にやることって言ったらNetflixで映画見てる。つまり、ぼくの趣味自体が映画なんでそのほかの趣味なんてないんですよ…って話したら、すげえやばい雰囲気になって。
 
でも、そのとき天野さんだけが頷いててくれて。それでいいんだよみたいな。ちょっと嬉しかったですよね。絶対人と目を合わせて話さないし、多くを語らない人なんですが、ほかにも素晴らしいことを言っていました。

ーーどんなことでしょう?

彼が、自分のスタイルをどう進歩させていくんですか?絵以外のこともやるんですか?と聞かれた時にこう言ったんです。
 
「いや、ぼくは画家なんで絵しか描かない。ただ、絵の中でも違うジャンルや、広告に手を出したりとか、色々なところで描いて絵に限界を作らないようにしている。」
 
今の監督って、グラフィックとかあらゆることができないとっていうイメージがあるんですけど、ものづくりの人ってひとつのことが特別にできればいいと思うんです。右に出るものはいないみたいなの。その中で勝負するっていうのがいい。いろんなものに手を出して、器用貧乏でどこも中途半端みたいなのではない方がいい。
 
一つのことでもいろいろな進化ができるよ、ってことを天野さんは言っていた。それは素晴らしいなと思いました。泥臭くあれーーなんて言って感性が古いみたいに言われるとまた傷つくんですけど。

ーー考えさせられますね。

ぼくなら、女性が撮ったほうが男性よりも面白くなることがあるってことに最近気づいたりしました。男女の壁がなくなってきているなか、その中でも多くの人に見てもらいたいと考えた時、男性だけの視点って面白くない。

とくに、過激な題材が近頃多いんですが、女性カメラマンを持ってくると固くなりすぎない。こんなバイオレンスなシーンをこんな色使いで撮るんだあ…みたいな新しい驚きがある。っていうので、今はほぼ雇っているのは女性カメラマンだったりします。どんな題材でも。

単に、男性カメラマンだとムカついてコノヤローみたいになるところを、女性だと許せるっていうのもあるんですが(笑)。意識はしてないっすよ。でも、そういうのはあると思います。

言葉を慎んで、いい人になりたい。

ーー今後の活動予定は?

今は、水曜日のカンパネラを撮ってる山田くんと、日本のMVをリメイクしようっていうイベントを企画してます。自分ならこうやるのになあっていうのがあって。アンオフィシャルビデオ作っちゃって一日限定で公開するのとかおもしろそうだなって。

それと、対談しないかというオファーがあったんです。たぶん、山田くんと一緒になると思います。実現したらめちゃくちゃになりそうですけど。

ーーひと悶着ありそうです。

ひどい発言はすると思います(笑)。

うーん。でもね、ホントはもっと言葉を慎重に選んで生活して、いい人になりたいんですよ。いい人って言われたいっす!

ーー(笑)。ところで、木村さんは1日をどう過ごしてるんですか?

えっと、まず10時半くらいに起床して、それから13時くらいまではYouTube見てゆっくり。で、ご飯を食べますね。食べ具合にもよるんすけど、満腹になると寝ちゃう。
 
それで、なんだかんだ気づいたら18時頃になっていて、嫁が帰ってくるので掃除開始。怒られちゃいますからね。そしたら21時くらいに一緒に晩御飯食べます。24時くらいまでゲームやったら仕事開始。でもね〜、YouTube見ちゃうんですよね。それで、そのうち寝ちゃう。
ーー全然働いてるように見えない!
これ大体、週5くらいですね。で、ゲームしてます。ダメ人間じゃねーか!って(笑)。
 
アイデアとか浮かばせたいときは音楽聞いてひたすら何かしてて。嫁が12時に寝て、夜中は何もないのでその後バーっとやるみたいな。で、朝4時には寝ます。体内時計で。

ーーありがとうございました(笑)。

いや、撮影始まったらやることは沢山ありますけど、暇な時はマジでそんな感じなんすよ!結構精神的な闘いで、それでもやんなきゃいけないことはあって。でも、ご飯食べときゃとりあえず幸せっていう。…知っとるわボケみたいな(笑)。

今はChase & Statusのツアーに同行し、忙しい日々を送っている木村太一。12月〜1月に来日する予定があるという。対談イベントの発表もあるかもしれない。今後の予定はTwitterでチェックしよう。Webサイトに並ぶMVも要チェックだ。

Licensed material used with permission by 木村太一, Twitter(@Darumavision)

『LOST YOUTH』
Productions: Cekai (JP) & CAVIAR (UK)
Director: Taichi Kimura
Producers: Taro Mikami. Takumi Kidokoro & Ore Okonedo
DOP: Rina Yang

<読者の皆様、並びに関係者の皆様へ>
いつもTABI LABOの記事をご覧いただき、誠に有難うございます。本記事で紹介させていただきました「PARTNER」様の記事内容(「日本の美大生なんて死んだほうがいいー映画監督・木村太一インタビュー」)に、引用表記がされておらず、弊社のインタビュー箇所との区別がされていませんでした。
 
つきましては、記事の見直しを行い、訂正させていただきましたことを、ここにお知らせ致します。この度は、ご迷惑をおかけ致しましたことを、 心よりお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした。(2016年12月5日)
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。