「無理にカッコイイ趣味作ろうとしてない?」。世界で活躍する映画監督・木村太一
お話の相手。
映画を学ぶために12歳で単身渡英した後、ロンドンで暮らしながら海外アーティストのミュージックビデオ制作などで活躍するようになった映画監督・木村太一。自主制作映画『LOST YOUTH』が公開され、国内でも話題だ。
作品や、日本とイギリスの生活のこと、感動した話など、ざっくばらんに話してもらった。
<目次>
・日本人/イギリス人、どっちも“外国人”。
・結婚資金を使っちゃった。
・単なる馬鹿か、天才か。
・いいと思ったものにいいって言える人が一番偉い。
・「あんた、めちゃくちゃだあ!」
・外国人はちゃらんぽらん。
・「アジア人のお前に何ができんの?」
・「木村くんは炎上系監督で行くから。」
・ヘイターを一箇所に集めて、居酒屋で飲みたい。
・落ち込んだら、お水に入る。
・日本に美大を作りたい。
・「一つのことでも、色々な進化ができるよ。」
・言葉を慎んで、いい人になりたい。
・木村太一の1日。
日本人/イギリス人、
どっちも“外国人”。
ーー12歳で単身渡英って、どんな流れだったんですか?
7歳くらいで『ジュラシックパーク』を見て、恐竜生きてるみたいじゃん!って衝撃を受けて、映画が好きになったんすよ。
で、海外で勉強したいと思って。どこが一番いいのかなって考えて、最初に選んだのがアメリカ。だったんすけど、銃社会が怖いって親が言ってて。
調べてたらイギリスも結構映画盛んだって話になり、サッカーも好きだったんでそうしたんですよね。
ーーよく家族に認めてもらえたなあと。
はいどーぞって感じではなかったっすよ。親父が会社持ってて、ぼくに継がせる予定だったんですけど、「いらね」って言っちゃった。 それで、「何やんの?」って聞かれて。映画監督って答えたんすけど、「はぁ〜!?」って感じでしたね。
ただ「行きたい!行きたい!行く!」って感じで止まらないもんで、酢豚投げられながらも、なんとか突破した感じです(笑)。
ーー今となってはイギリスの方が長いんですもんね。
日本人から見ても日本人じゃないし、イギリス人からしたらイギリス人じゃないし、国はどこなの?みたいな感じはあります。
だからこそなんですが、日・英どちらにしても、歴史モノを撮るわけにもいかないなって悩みがあって。どっちのカルチャーも違うんです。だから、SFとかは強みになるかなとか考えたりしました。じつは脚本はひとつできてるんすよね。まあ、お金集めるのが大変なんですけど…。
結婚資金を使っちゃった。
ーー映画『LOST YOUTH』を制作したきっかけを教えてください。
自費1,000万円を投じて自主制作した作品。ネオン・オタク・マンガ・テクノロジーといった海外的な東京のイメージを払拭するために、実際の事件などをもとにして東京の闇を描いた。
映画を勉強し始めて、スパイク・ジョーンズを知って、MV撮りゃいいんだって思って。クラブ通って、タダ同然で撮影しまくって、金なくても絶対やってやるって感じでやってて。
『LOST YOUTH』は、そろそろ実力もついてきたかなと思って挑戦した作品すね。海外で描かれる東京のステレオタイプに飽きて、その裏側にあるリアルな画を撮ろうと。
1年前くらいに嫁と入籍して、一緒に住み始めるって決めて、で、この作品を撮ることにしたのがその3週間後だったんすけど、2ヶ月家にいないからって言って撮影に出ました。貯めてた結婚資金も使っちゃいました(笑)。
ーーえ、奥さんは大丈夫だったんですか?
奥さんとは仲いいですよ。周りに普通じゃないとは言われますけどね〜。
ーー良かった(笑)。その後、反響はどうでしょう。
作品は、ハタチくらいの子たちが気に入ってくれてます。
出演者はみんな、自前の衣装で出てるんですよ。もともとインスタを見ていて。 今、日本の若い子たちって、こんなファッションがあって、こんなスタイルがあるよね、ってとこから制作が始まってます。
みんな自信を持っていて、「こういう役やって下さい」って言ったときに、自分をかっこよく見せることに慣れてるからリアルで良かった。
単なる馬鹿か、天才か。
ーー『Games』のMVに出てくる若者も刺激的でした。
マンチェスター出身のアーティスト、Sam O'Neill のソロ・プロジェクト「TCTS」。MTA RecordsからリリースされたEP『Games』のMV。主演は関口アナム、ロケ地は東京。
一番気に入ってる作品かも。2日間で、いろいろな所を撮影してまわりました。
出演者は、大学卒業したばかりの奴らで、みんな友達。主演の関口アナムは仲いいんですよ。よくうちのソファーで一緒にゲームやってましたね。竹下景子さんの息子で、最近はテレビ出たりして頑張ってるみたいで。明るくてピースフルで、最高です。
ーーこちらも舞台は東京ですね。
東京って面白い街じゃないですか。絵になるし、ドンドン変わっていくから飽きないし。ぼくはロンドンに住んでるんですけど、飽きるんすよ。ロンドンの人はロンドンが嫌いです。
ーーそうなんですか?
帰ってくるところはココだーーみたいなところはありますけどね。唯一いいところって、いろいろな人種がいて、どんな人でも受け入れてくれるってところくらい。ピュアなイギリス人ってのが中々見つからなくて、おじいちゃんがイタリア人だったり、親がフランス系だったりする。だから、型にハマってないっていうのはある。
だから、この人はこうだからダメみたいなのはなくて、この人はこんな考えを持ってるから面白いってなる。だから、新しいものを求める。それを受け入れてくれるっていうのは素敵ですよね。好奇心が強いというか、違いを受け入れて知識にしていくところはあります。
ーー日本のことはどう思っているんでしょう。
いいと思ったものにいいって言える人が一番偉い。
ーー「PARTNER」のインタビューで話されていた、テートモダンの絵の話が印象に残っています。こんなことを仰っていました。
“むかし、母親とテートモダン(イギリスのロンドンにある現代美術館)に行った時のこと。
ただ真っ青にキャンパスを塗りつぶしただけのドローイングを見て「こんなん、どこがええねん」って言ったら、母親が「この国のいいところは、この絵をいいっていうひとがちゃんといるところなのよ」って言ったのを今も覚えてる。
いいものを作る人はゴマンといる。だけど日本にはそれをいいって言ってくれる人が少なすぎる気がする。
いつだって、自分がいいなと思ったものにいいって言える人が一番偉くて、その「いいじゃん」て言葉でアートが育っていくんだと思う。”
変態も育つし天才も育つんだって言われましたね。そういうのを尊重してもいいんじゃないかな。
作ったものについて、これってどういうことなの?って聞かれた時には答えられなきゃいけないですが。そこにアートなのかグラフィックなのかっていう違いが出て来るんだと思うので。
「あんた、めちゃくちゃだあ!」
ーー実写とアニメを融合させた『KING』の現場は、大変だったとか。
「GRADES」のミュージックビデオ『KING』は、ダンサーの少女・高巣来華、気鋭のアニメーター・らっパルを迎えた話題作。UK MUSIC VIDEO AWARDで最優秀ダンスミュージックビデオにノミネートされた。
ーー必死にお願いして折れてもらった?
ーー死んで、その責任を取らせてやれと(笑)。
外国人はちゃらんぽらん。
ーー撮影中、具体的にどんなことをされてるんでしょう?
Wilkinsonの時は、まずこんなイメージの子を雇ってくれって頼んで、その子が来たら、「じゃあ踊って!」って(笑)。音楽カッコイイっすよね。
ロンドンの音楽プロデューサー・DJ、Wilkinsonの『BREATHE』のMV。日本で撮影された。
以前、日本の大手企業の仕事をしたときに、「こんなに何もやらない監督は初めてだ。」と言われました。一番最初にはあーしろこーしろって言いますよ?でも、そのあとは言わない。修正もあんまりしない。2回やってできないことはできないんで、次行こうみたいな。アイドル撮っている間、ずっとピータン食ってました。
ーーゆるいというか、切り替えがハッキリしているというか。
良くも悪くも、みんなリスクのほうを考えがちですよね。外国人はちゃらんぽらんだから、なんとかなるだろって感じでなんとかなっちゃった人が多い。日本の人はちゃんとしてて。何も売れない時期が3-4年続く風あたりの強さに負けちゃう人が多いんじゃないかなあ。
黒人ラッパーなんて、撮影に4時間とか遅れてやってきて「ワンテイクしかやんねえから。」みたいなこと平気で言いますからね。お前ら何しにきたんだよっつって(笑)。しかも、マイメン10人くらい連れてくるし。
ロンドンのユニット「Chase & Status」。UK DANCE CHARTでシングル1位を獲得し、翌年の2008年にリリースしたファーストアルバム『MORE THAN ALOT』は同チャートで2位に。
ーー認めさせた瞬間、ガッツポーズみたいな。
「アジア人のお前に、何ができんの?」
フロリダのラッパー「Knytro」の楽曲。「UK MUSIC VIDEO AWARD 2014」ノミネート作品。
口が悪いとか、性格悪いとか、よく言われます。えー!って感じですけど。実際に性格が悪いのかも知れないですが、よくわからないですよね。初対面でも全然ダメだねって言われます。
「木村くんは、炎上系監督で行くから」。
ーー話しているときの雰囲気は、文字では伝わりにくいですよね。
ーーマイナスのように見えても、プラスになっていると。
ヘイターを一箇所に集めて、
居酒屋で飲みたい。
アメリカ出身UK滞在のテクノDJ。デビューシングル『I WANNA FEEL』は英国最大のラジオステーションBBC RADIO1にて堂々の1位。YouTubeでの再生回数は1400万回数を突破。UKシングルチャートとダンスチャートで1位。
それ以外に表現が浮かばなくって。「子どもか!」って言われましたね。大人だったらもっと違う言いまわしがあるだろうと。まあ、それからは仲いいんですけどね。
ぼくは大体嫌われてから仲良くなるんですよ。だから、今度Twitterにいるヘイターたちを居酒屋に集めて飲みたいですね。木村を嫌う会。
ーー危険な匂いがします(笑)。
相手から言われたら言われたで傷つくんすけど。自分で蒔いた種なんだけど痛い(笑)。3日間くらい家から出なくなったり、落ち込んじゃったり…。
落ち込んだら、お水に入る。
ーーそれでリラックスできるんですね。イギリス生活は日本と比べてどうですか?
日本に美大を作りたい。
大人になれば日本のカルチャーが体に入っちゃう。お金の問題とか生活とか人間関係とかいろいろ出てきちゃう。ぼく自身、12歳で渡英したのは早くてよかったなと思っています。その歳だとそんなもんない。言葉の壁はあったけど、恐れるものはない。どうにかするしかねえな、友達と喋ってればなんとかなるっしょ、みたいなノリです。遅いと駄目ってことはないっすけどね。
日本に帰ってくるたびに同級生と会ってたんですが、自分で何かをやりたいって言う人が少なかったように感じました。それに、日本の人って、海外に行って、勝負したいって決意したとしても、同じ外国のスタイルで戦ったら海外の人のほうが当然強いわけです。それで潰れていくみたいなケースが多いと思いますよ。
だったら、日本で日本のスタイルを育てる。そういう環境を作ればいい。
ーー勉強するなら、海外に出たほうがいいと思いますか。
映画に関しては思いますね。日本って、監督になるために助監督からはじめるとかあるじゃないですか。なんのためにもならないですよ。助監督であればその道のプロがいますから。海外は売れなくても監督からはじめる。
海外の方が職業が細分化されていて、それで給料がもらえるっていうシステムがしっかりしているってのはありますね。重要だと思います。マジメなこと言っちゃいましたけど。
「一つのことでも、色々な進化ができるよ。」
ーーどんなことでしょう?
ーー考えさせられますね。
ぼくなら、女性が撮ったほうが男性よりも面白くなることがあるってことに最近気づいたりしました。男女の壁がなくなってきているなか、その中でも多くの人に見てもらいたいと考えた時、男性だけの視点って面白くない。
とくに、過激な題材が近頃多いんですが、女性カメラマンを持ってくると固くなりすぎない。こんなバイオレンスなシーンをこんな色使いで撮るんだあ…みたいな新しい驚きがある。っていうので、今はほぼ雇っているのは女性カメラマンだったりします。どんな題材でも。
単に、男性カメラマンだとムカついてコノヤローみたいになるところを、女性だと許せるっていうのもあるんですが(笑)。意識はしてないっすよ。でも、そういうのはあると思います。
言葉を慎んで、いい人になりたい。
ーー今後の活動予定は?
今は、水曜日のカンパネラを撮ってる山田くんと、日本のMVをリメイクしようっていうイベントを企画してます。自分ならこうやるのになあっていうのがあって。アンオフィシャルビデオ作っちゃって一日限定で公開するのとかおもしろそうだなって。
それと、対談しないかというオファーがあったんです。たぶん、山田くんと一緒になると思います。実現したらめちゃくちゃになりそうですけど。
ーーひと悶着ありそうです。
ひどい発言はすると思います(笑)。
うーん。でもね、ホントはもっと言葉を慎重に選んで生活して、いい人になりたいんですよ。いい人って言われたいっす!
ーー(笑)。ところで、木村さんは1日をどう過ごしてるんですか?
ーーありがとうございました(笑)。
いや、撮影始まったらやることは沢山ありますけど、暇な時はマジでそんな感じなんすよ!結構精神的な闘いで、それでもやんなきゃいけないことはあって。でも、ご飯食べときゃとりあえず幸せっていう。…知っとるわボケみたいな(笑)。
今はChase & Statusのツアーに同行し、忙しい日々を送っている木村太一。12月〜1月に来日する予定があるという。対談イベントの発表もあるかもしれない。今後の予定はTwitterでチェックしよう。Webサイトに並ぶMVも要チェックだ。
『LOST YOUTH』
Productions: Cekai (JP) & CAVIAR (UK)
Director: Taichi Kimura
Producers: Taro Mikami. Takumi Kidokoro & Ore Okonedo
DOP: Rina Yang