世界初、海風に洗われた帆が「ジーンズ」になる。
みなさんが普段はいているジーンズ。それに使われているデニムが他の生地と大きく違うのは「色落ちすること」にある。はき続けているうちに、擦れ、色褪せ、自分だけの色になっていく。それがデニムの最大の魅力だ。
そんなデニムの産地が広島県、福山市にあることをご存知だろうか? この地域では古くから備後絣という染物が盛んだった。その技術を受け継いだ「カイハラ」という企業が、70年代からデニム生地の生産を開始。いまや国内シェアは50%以上、海外の有名ブランドからも引く手あまたとなっているのだ。実は今年、そんな福山市の地場産業となったデニムを使った画期的なプロジェクトが行われていた。それが「旅するジーンズ Cruising Jeans」だ。
航海がデニムの表情を
変えていく
「カイハラ」は、デニム作りに必要な紡績、染色、織布、整理加工というすべての工程を自社で一貫して手がけている世界でも稀な企業。そのクオリティの高さは世界的に知られており、“カイハラデニム”は信頼の証となっている。
「旅するジーンズ Cruising Jeans」とは、デニムで作った帆を帆船に張り、航海をしながら生地にウォッシュをかけるというプロジェクト。海風にさらされ、強い日差しを浴び、雨に打たれる。そんな航海の日々を経て、デニムは次第に表情を変えていく。そうして出来上がった生地を使い、最終的にプロダクトに落とし込む。世界でも類を見ない試みだ。
このプロジェクトの第一弾をスタートするにあたり、デザイナーに選ばれたのが、俳優でファッションブランド「エルネスト クリエイティブ アクティヴィティ」も手がける井浦新さん。出航の時にはデニム帆船に同乗し、自ら帆を張り、舵も握った。
帆を張る作業に挑む井浦さん。帆には、航海の安全を祈り、自らデザインした恵比須様のモチーフをあしらった。
瀬戸内海を進むデニム帆船「Ami号」。海風を帆にたっぷり受けている。通常の帆よりも薄手だが、航海に支障はないという。
「長い航海を経て育ったデニムが、一体どんな表情を見せるのか想像もつきません。今までにない試みだけに、その結果は誰も知らない。だからこそやる意味がある。今回は、そんな特別なデニム生地を使って、ものづくりまでさせていただけることになりました。
ただ、帆に使われているデニムの面積は限られていますし、大量生産は不可能です。ジーンズにしても数本しか作れないかもしれないし、ほぼ1点ものみたいなアイテムばかりになるかもしれない。そんな希少なデニム生地を使うからこそ、手作り感のある丁寧なプロダクトを作ってみたいですね」
と井浦さん。
デニム帆船は今年の7月23日に福山市の境ガ浜を出航し、8月28日に1ヶ月以上の航海を終えた。そして、味わい深い表情の生まれたデニムの帆を解体し、ものづくりが進められている。その一部を、「CAMPFIRE」が新たに手がけるファッション特化型クラウドファンディングサイト「CLOSS」で先行予約可能だ。
福山市の伝統に育まれ、日本の自然に磨かれたデニムで作られたアイテムは、きっと大切な宝物になることだろう。
デニムにするにはもったいない、と言われるほどの高級コットンを使ったカイハラデニム製のオリジナル。右後ろのポケットには、金刺繍のロゴが入る。
クルーズウォッシュしたデニム生地をポケットにあしらったTシャツ。ホワイト、淡デニム、濃デニムの3色展開。
こちらは帆を作った時の残布で作ったデニムスリッポン。ヒール部分はスエード仕様で素材感の違いを楽しめる。
開口部には、帆に使われた金具をそのまま使うなど、こだわり溢れたトートバッグ。
上の3色のデニム生地は航海前の写真。それぞれに、味わい深いデニムに育っていると言う。完成品が楽しみだ。