仲間の信頼を失いかけていたチャーチルを救った「妻からの手紙」
この手紙は、イギリスのチャーチル首相宛てに、妻のクレメンティンから贈られたもの。ドイツ軍の侵攻が激しさを増すなか、窮地に立たされていたチャーチルを救い、1940年7月から開始された有名な「バトル・オブ・ブリテン」でイギリスを勝利に導いたのは、この手紙だったのかもしれません。
知られざる歴史の真実を偉人たちの手紙から読み解く、ショーン・アッシャーさん編集の『注目すべき125通の手紙 その時代に生きた人々の記憶』より、チャーチル首相の意識が変わったとも言われる貴重な手紙を紹介したいと思います。
仲間の信頼を
失いかけたチャーチルに
妻からの「エール」
ダウニング街10
ホワイトホール
1940年6月27日
最愛のあなた
このような手紙をおゆるしください。あなたも知っておくべきと思われることを書かせていただきます。
あなたの側近のひとり(忠実な友人)から直接伺ったのですが、あなたはきつい皮肉や威圧的な態度のせいで仲間や部下から嫌われそうになっているらしいですよ。政務秘書官たちが結託して男子生徒のようにふるまい、「当然の報いを受け」、肩をすくめてあなたの前から姿をくらます──たとえなんらかの意見が(会議などで)提案された場合でも、どうせあなたはばかにして、意見が良くても悪くても却下するだろうと考え、さらに肩をそびやかすように思われます。お話を聞いて驚きました。悲しくもなりました。あなたが共に働いている方からも、あなたの下で働いている方からも愛されているという状況に私は長年慣れ親しんでいたからです──その点を申し上げましたところ、こう言われました。「重圧のせいにちがいありません」
私のいとしいウィンストン──じつはあなたの態度が変わり、今までほど優しくなくなったことも申し上げなければなりません。
命令を下すのはあなたです。誰かが失態を演じた場合、国王とカンタベリー大主教と下院議長を除いて、あなたは誰でも解雇することができます。これほどの権力を有しているのですから、礼儀と優しさと、そしてできればオリンピック級の冷静さを持って対処しなければ。あなたはよくこの言葉を引用していましたね。「On ne regne surles ames que par le calme」(人の心は冷静さによってのみ支配できる)。我が国に、そしてあなたに仕える方たちが、あなたを称賛も尊敬もせず、愛してもいないという状況は私には耐えられません──。
それに、癇癪を起こし乱暴な態度をとっていたら、良い結果は得られません。人の反感を買うか、人を精神的に隷属させるか、どちらかです──(戦争中に反旗を翻されるなどぜったいになりません!)
愛情深く献身的で注意深い妻をどうぞおゆるしください。
クレミー
この間の日曜日にチェッカーズでこれを書き、破りましたが、やはりお渡しすることにします。
言いづらいことを言えるのも
信頼関係があってこそ
どんなに偉大な指導者でも、辛い時はあります。
忙しさや責任の大きさのあまり、周りが見えなくなり、仲間や部下に見捨てられそうになった時、戒めてくれるクレメンティンのような伴侶を持つことも、成功するためには必要なことなのかも知れませんね。